オレンジ党、海へ

 「オレンジ党と黒い釜」、「魔の沼」に続く、「三つの魔法」シリーズの第三話です。オレンジ党の冒険の舞台はさらに広がり、太平洋に面した千葉県外房側の丘陵地が主な舞台となります。
 主人公のルミたちが何度か鳥の幻影を見た直後に、オレンジ党あてに海を臨む丘陵地帯を根城とする「鳥の王」からの助けを求める手紙が幻のような少年によって届けられます。一方で道也の元には、その鳥の王に捕まったという「カモメ」から助けを求める手紙が届き、「鳥の王」と「カモメ」のどちらを信用するべきかオレンジ党だけでなく読者も悩まされることになります。さらには古い魔法の使いてある源先生と配下の西崎ふさ枝のグループや「オレンジ党と黒い釜」にちらりと登場した「緑衣隊」、また「鳥博士」と呼ばれる異端の鳥類学者の石橋幸太郎先生も絡む複雑な構図で、正直なところかなり分かりにくい展開で話が進んでいきます。実は主題となるのは、オレンジ党リーダーである李エルザが、イギリス人の母方の祖母から受け継いだ宝石(正確には宝石そのものではなくそれがもつ不思議な力)の争奪戦であり、「鳥の王」はその力を横取りしようとする僭称者であり、源先生グループもほぼ利用されていただけにすぎません。今作のラストでは、緑衣隊の追跡を逃れたオレンジ党は海に旅立ち、以前の黒い魔法との戦いで亡くなったそれぞれの両親に(彼岸の国で)再会したらしい事が暗示されています。彼らの乗る船の船長として名が出てる「金船長」は、オレンジ党シリーズの前作である短編集「闇の中のオレンジ」に登場する人物のようです。

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本田鹿の子の本棚

 以前に紹介した「干支戦士チアラット」と同じWeb Comicサイト「LEED Cafe」に掲載されている漫画で、現時点で単行本が1冊出ています。自分を露骨に無視するようになった思春期の娘を持つ父親が、文学少女である娘との接点を探ろうと彼女の部屋に侵入し、彼女の本棚の本を手当たり次第に読むという設定のこの作品は、実際の各話は父親が読んだ短編小説の粗筋がコミック化された部分と、その内容と関連した外部世界での父親の行動(というより暴走)が描かれています。現時点で公開されているのは、第一話と十三話以降の以下のタイトルです。
1. 恋田 敬:女に火をつける男 より「女に火をつける男」
13. アダム 竹中:ネゴシエーターII より「ゴエモン&ガンタンク」
14 鈍色 空:プロジェクト21XX より「抗徹巨人 ダギオス」
15. 邪画 曲:Be Gentleman より「おつかいは はじめてか?」
16. 角田 偽史:黒山羊高校 オカルト研究会 より「猿の手編」
17. 角田 偽史:黒山羊高校 オカルト研究会 新装版 より「猿の手編」
18. 田中丸 大砲:ドクトルクランケ航海記 より「ジパング」
19. 右国 虫太郎:シロアリ アントン 風来記 より「シロアリ飯」
20. 間 翔間:ルナティック トラベラー より「超能力少年 紀岡」
21. 不帰 離人:仙境遺文 より「神隠しのサイコ」
22. 佐世保 海路:ダークエンジェルス より「漫画家 内田拳紫郎 インタビュー」
23. 松平 只輝:さだのぶのあにまるぷらねっと より「猫カフェ」
24. テロメア 未明:赤い人魚館 より「星霜の人」
25. 宍戸 獅子丸:男とはなんぞや より「男のデスゲーム」
26. ガトー・イーグルトン:狂王ガルザーシリーズ① より「豚肉の下に侍る者達」
27. マスクド 乱世:君たちはどう生きていくか プロレス編 より「マッドプロレス20XX」
28. 遊星 静止:幼年期が終わらずに より「セカイ系」
29. 羽多田 オパオパ:肌色友戯 より「ミユっちとチカ公」


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魔の沼 (天沢 退二郎 著:筑摩書房)

 少し前に紹介した「オレンジ党と黒い釜」の続編で、「三つの魔法」シリーズの第二話となります。実はこのシリーズの作内時間は第一話から第四話までを通してある年の4月から11月までのわずか半年程度に過ぎず、この「魔の沼」は「オレンジ党と黒い釜」から2か月ほど経った7-8月頃、小学校の一学期が終わり夏休みに入った頃の話となります。オレンジ党の本来のメンバーである6人の小学校6年生のうち、名和ゆきえが遠くの施設に預けられて姿を消し、その代わりに中学生の田久保京史が準メンバーのような形でオレンジ党と共闘しています。「オレンジ党と黒い釜」では基本的にとき老人の導きに従って行動していたオレンジ党ですが、とき老人が姿を消したこの話では彼ら自身で遭遇した出来事の意味を考え、この先に何が起こるのかを予想して行動する必要に迫られ、特に李エルザのリーダーシップが際立ってきます。前話では六方・千早台両小学校の近辺が中心だった冒険範囲もより広がり、新たに登場した地名から舞台のモデルが現在の千葉市北部から印旛沼の辺りであるのがはっきりとしてきました。恐らく現在ではすっかり住宅街となっているはずですが、この物語の想定されている時代(1950-60年頃)は実際にこのような半田舎の風景が広がっていたのでしょう。

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サルは大西洋を渡った -- 奇跡的な航海が生んだ進化史 (アラン・デケイロス著:みずず書房)

 ダーウインの逸話に登場するガラパゴス諸島のそれぞれの島での固有種進化がその例であるように、比較的相互の距離が近い陸地間では元々の生物種が別々の陸地に拡散し、お互いに個別に進化してやがて別々の種が生まれるというシナリオは、進化論が定説になって以降は普通に受け入れられてきました。特に問題となる生物種が長距離飛行可能な鳥などの場合は、お互いの距離がかなり離れていても移住が可能であり、その結果かなり離れた場所で同じ祖先種から進化した別種が進化する事も十分にあり得ると考えられます。一方で、空を飛んだり長距離を泳げない陸上動物はそれとは異なり、距離が近い島はともかく数百km離れた島には人為的手段を除けばたどり着く事が出来ないと考えられてきました。常識的に考えても、自分で船を造る事のできない人間以外の陸上動物が海を渡るには自力で泳ぎ切るか浮遊物に乗って偶然たどり着くしかなく、ある程度以上の餌や水が必要なサイズの陸上動物が長距離航海するのはほとんどあり得ないと考えられます。しかしながら「ほとんどあり得ない」というのは地質年代レベルの時間単位で考えたときには必ずしも真実ではなく、実際に過去にはそれが何度も起こっていたというのが、今回紹介する本の主張です。

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パラークシの記憶 (マイクル・コーニイ著:河出文庫)

 先日紹介した「ハローサマー、グッドバイ」の続編、あるいは前作で残っていた様々な疑問に対する解決編です。
 物語の舞台は「ハローサマー、グッドバイ」の惑星で、前作から恐らく数千年後、主星と巨大惑星ラックスとによる惑星の取り合い周期のちょうど1サイクル後の年に、主人公の少年と一族の長であるその叔父との対立を描きながら、再び訪れようとしている40年の「大凍結」への対処がより大きなテーマとなっています。もちろん、惑星の特殊な天文学的条件は前作に引き続き大きなポイントですが、一方で前作とは二つの大きな設定の違いがあります。
 一つは、主人公たちの種族には自らの先祖の記憶を遺伝的に保持する能力があるという、前作ではまったくなかった設定です。正確に言うと、男性は自分の父親が自分を受精させるまでの記憶をそのさらに祖先の記憶も含めて引き継ぎ、同様に女性は自分の母親が自分を妊娠するまでの記憶を引き継いでいます。この設定によって、自分の生まれる前の過去に起こった出来事も祖先の視点から正確に思い出す事ができ、その結果現在直面した出来事に対して祖先がどのように対処したのかを倣う事ができます。そのため種族の社会的風習は非常に安定的に保持される一方で、新しい発想はほぼ生まれない非常に保守的な社会となっています。恐らくその理由で科学技術レベルは前作の世界よりもかなり退化していて、内燃機関による自動車は非常な貴重品であり、内陸と海辺との集落とはほぼ分断され交流がほとんどない状態です。また、遠い昔になればなるほどその記憶を想起するのは困難になるため、前作の主人公だったドローヴとブラウンアイズは遥か昔の危機を救った伝説の恋人としてのみ記憶され、彼らの具体的な行動はほとんど知られていません。
 もう一つの違いは、地球とは異なるこの惑星にすでに地球人が到達していて、原住民と一定の交流がある点です。この世界における二大宇宙航行種族の一方である地球人は鉱物資源を採掘するために数世代前からこの惑星に少人数ながら駐屯しており、原住民への限定的な物資・技術援助も行っています。ただ両者の関係は必ずしも良好ではないようです。もし「ブロントメク!」と共通の世界での作品であるなら、駐在しているのはヘザリントン機関の代表者なのかもしれません。また、地球人の科学技術レベルは原住民よりはるかに高いもののこの惑星に関する知識は限定的であり、主星・ラックスによる惑星の取り合いという数千年周期の現象に関しては、物語開始時点では気が付いていないようです。

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