FC2ブログ

創造された「故郷」 -- ケーニヒスベルクからカリーニングラードへ (ユーリー・コスチャショーフ著:岩波書店)

 ヨーロッパ北部のバルト海沿岸の地図を眺めていると、リトアニアとポーランドの間にカリーニングラード州というロシアの飛び地がある事に気が付きます。ここは嘗ては東プロイセンと呼ばれていた地域の北半分であり、第二次大戦の結果としてドイツ領からソビエト連邦のロシア共和国に併合されました。その時点では連邦の構成共和国単位ではリトアニア共和国によって本土と分断された飛び地だったものの、実質は同じソビエト連邦であり飛び地感はなかったのですが、ソビエト連邦崩壊後には再び真の飛び地となったものです。この本は、カリーニングラード州の東プロイセン時代から現在までの歴史及びその新旧の住民たちについて書かれた一般向け専門書です。なお、カリーニングラード州の州都もまたカリーニングラード市であり、副題にあるケーニヒスベルクは、この街のドイツ時代の名称です。
 そもそも驚いたのが、ソ連の政治家であるカリーニンとこの都市とは実は縁もゆかりもなかった点です。生地であるとか亡命時代にここでカリーニンが活動していたとかいう由来があるのかと思いきや、新たにソ連領となったこの街の名をケーニヒベルクから変更する議論の最中に偶々カリーニンが死亡したために彼の名が付けられたのが真相でした。

続きを読む»

スポンサーサイト

テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

闇の左手 (アーシュラ・クローバー・ル=グィン著:ハヤカワ文庫SF)

 ル=グィンのSF小説中で、「所有せざる人々」と共に最も有名な作品ですが、実は私にとって今回が初読みでした。正直な処、彼女の社会科学系SFはやや苦手としていて、「所有せざる人々」の方は途中まで読んで挫折した記憶があります。今回読んだ感想も、なるほど名作ではあるが読んでいると何だか一々ごつごつと引っかかる感じがして、読み通すのにそれなりの努力が必要な作品というものでした。作品の感想を検索してみると、絶賛しているレヴューの一方で同様に感じている読者もそれなりに居るようです。なお、作品にいささかおどろおどろしいイメージすら与えているタイトルは、作中後半で主人公の一人であるエストラーベンが口にしたトルメルの歌の一節「光は暗闇の左手 暗闇は光の右手。二つはひとつ、・・・」からの引用であり、光と闇とは対立するものではなく表裏一体、さらには一身同体のものである事を表しています。
 古代ハインの遺伝子操作によって作られた両性具有人類の世界である惑星ゲセン(通称「冬」)に、エクーメンへの加入を即す使者として訪れた地球人男性の主人公ゲンリー・アイと、彼が最初に訪れた一方の大国カルハイド王国の宰相エストラーベンの二人が、共にこの作品の主人公です。前半ではエトラーベンの不可解にも思える言動に不信感を募らせてカルハイドを去ったゲンリー・アイは、次に訪れたもう一方の大国オルゴレインでは収容所に送り込まれ死にかけていたときに、故国を追われて亡命していたエストラーベンに救われ、二人で氷原を超えて決死のカルハイド行きを試みます。その過程でアイはようやくエストラーベンの心の内を理解できるようになるのですが、これはまた、「性のあり方」という文化の最も基本となる部分が異なる者間の理解の困難さを象徴しているように思えます。さらに言えば、作中しばしば言及される「シフグレソル」という概念が結局理解できないままなのも、この理解の困難性を示しており、それがまたこの作品の読み難さの原因になっているように思います。以下のレビューにある、「理解」という概念がある種『「上の立場にあることから生じる余裕」という余剰物によってもたらされる、どこか「上から目線の寄与」としての相手に対する押しつけ』といったニュアンスを孕んでいる、という記述が、私の感じた事にかなり近いようです。口の中の腐れ茸:アーシュラ・K・ル=グウィン「闇の左手」を読んで

続きを読む»

テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

トヨタ寄贈の「フランダースの犬」記念碑はなぜ中国資本寄贈の石像に置き換わったのか:デジタル毎日記事

 以前にこのブログで紹介した「フランダースの犬」に関する最近の動きとして、2003年に日本企業がアントワープ市に寄贈した「フランダースの犬」記念碑が、2年半前に中国企業が寄贈した像に置き換わっていた事が、デジタル毎日で報じられていました。
トヨタ寄贈の「フランダースの犬」記念碑はなぜ中国資本寄贈の石像に置き換わったのか
ネトウヨを引き寄せそうな記事タイトルとは対照的に、本文は以前にここで紹介した本の内容も含めてかなりしっかりと調査して書かれたものです。記事にあるように、旧記念碑はその位置と構造上トラックがぶつかって破損する事が何度もあり、修復の費用が市にとって負担になっていた事、そして「誰がネロとパトラッシュを殺すのか」にもあったように、そもそも外国人の一方的な思い込みで描かれた「フランダースの犬」の物語は地元にとって興味がなく、むしろ不快なものだった事実を知れば、公平な読者ならばアントワープ市の結論が仕方ないあるいは当然の結果と理解するでしょう。しかしながら、この記事が転記されたヤフーニュースのコメントを見ると、それが理解できない人たちが結構いるようです。

続きを読む»

テーマ:雑記 - ジャンル:学問・文化・芸術

黙示録3174年 (ウォルター・ミラー著:創元推理文庫SF)

 これもまた、ずっと以前から名前は知っていたポストアポカリプス系SFですが、今回が初読みとなりました。著者のWalter Michael Miller Jr.(1923--1996)はフロリダ州出身のドイツ系アメリカ人であり、作家としての活動は1950年代に集中しています。
 1970年代に起こった全面核戦争とその後の焚書坑儒によってほぼ文明が失われた世界において、後の世代への遺産として科学技術文献を保存し続けたリーボウィッツ修道院を中心に据え、6世紀ずつを置いた三つの時代の出来事を綴ったこの作品は、著者がアメリカでは少数派であるカソリック教徒である事を反映して、カソリックの教義に関するさまざまな用語がちりばめられています。原題の"A Canticle for Leibowitz"自体もそうで、直訳すれば「リーボウィッツ賛歌」とでもすべきでしょうか。現在の視点から見ると教会用語の日本語訳がやや不適切な部分もあり、例えば「上人」というのは「福者」と訳すべきでしょう。なお、著者の生前に発表された長編作品はこの一作のみですが、この作品の第二部のおよそ80年後の時代を舞台にした遺作"Saint Leibowitz and the Wild Horse Woman"が、1997年に出版されています。
文明水準が中世以前にまで退行していた時代(26世紀)の第一部におけるリーボウィッツの遺品発見と列聖の経緯では、すでに彼が命を懸けて保存した文献の意味は誰にも理解できないながら、それでも彼の偉業そのものは教会関係者には十分理解されている事がうかがえます。第二部(32世紀)ではルネッサンスが始まると共に強国による北アメリカ大陸統合が始まり、第三部(38世紀)には再び二大国家の冷戦の末に全面核戦争が起こって、20世紀の核戦争よりも徹底的な破滅を迎えるというこの作品での歴史は、過去から学ばずに同じ過ちを繰り返す人類の愚かさを憐れんでいるかのようです。おそらく地球上の人類が全滅したと思われる結末において、それをあからさまには描かない抑えた描写は却って強く印象に残ります。

続きを読む»

テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

ロカノンの世界 (アーシュラ・クローバー・ル=グイン 著:サンリオSF文庫)

 少し前に紹介した「天のろくろ」と同じくル=グインの作品で、序文を読むまで知らなかったのですが1966年に発表されたこの作品が彼女の長編SF第一作です。それと知って読むと確かに若書きというか少女趣味のファンタジー色が濃く見え、フェミニズムを始めとする社会科学的問題を前面に出している後の作品とはかなり違うテイストを感じます。いわゆる「ハイニッシュ・サイクル」に含まれる作品であり、生物の移動は光速の壁を越えられない一方で超光速通信アンシブルが存在するという点を始めとしてその主要な世界設定がすでに登場していますが、都合が良すぎて作品内世界のバランスを壊し気味の「不浸透服」は、どうやら後の作品ではなかったものにされているようです。またプロローグの「首飾り」はそれ単独で短篇集「風の十二方位」に収められており、こちらはかなり以前に読んでいました。「風の十二方位」では「セムリの首飾り」という題で掲載されている、宇宙旅行による時間の遅れに伴う悲劇をテーマとしたこの短編が先に書かれ、その続編として本作品が書かれたという経緯があるようです。

続きを読む»

テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

プロフィール

X^2

Author:X^2
このブログは、旧ブログ
Babylon5以外のメモ
からの移転先として立ち上げました
。連動するホームページである
Babylon5 Episode Guide
にもどうぞ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
リンク