レックス・ルーサーとドナルド・トランプ

 アメコミ(正確にはそのうちのDC世界)ヒーローであるスーパーマンの最も重要な敵役であるレックス・ルーサーは、「禿げ頭の天才科学者」だけではなく、アメリカを代表する巨大企業のオーナーさらに政治家としての属性も持っています。そして所謂DVユニバースにおいては、彼が米国大統領となりその権力を利用してスーパーマンを始めとするヒーローと対決するという一連の作品群が存在しています。例えばこのブログで取り上げた「より良き世界」とそこから続くカドムスアークの作品は、やや変則ではありますがその世界線の物語です。
 さてトランプ大統領の就任以降、現実の米国がルーサー大統領の米国に重なるとか、トランプ大統領よりルーサー大統領の方がましだ、などの半ば冗談交じりの嘆きがネット上で見られています。しかしながら、おそらく彼らが思っている以上にトランプとルーサーとの相似は近く、この先の世界の混迷は冗談では済まないかもしれません。

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ヘルハウンド・プロジェクト (ロン・グーラート著)

 所謂「米文学」には含まれないパルプフィクションやアメコミなどのサブカルチャー系では、昔から「もしアメリカが独裁国家となったら」というテーマの作品が書かれていました。以前に紹介したジャスティスリーグの「より良き世界」やそこから始まるカドムスアークものなどはその一例です。これまではそれらはあくまでも「うっかり間違うとこうなってしまうよ」という警告に過ぎなかったのですが、ここ数週間のアメリカやさらには日本の状況を見るにつけ、「マンガが現実と化す」事が本当に起こりつつあると感じています。今回取り上げる「ヘルハウンド・プロジェクト」もまさにそういった作品の一つです。
 この作品は新潮文庫の「クリスマス13の戦慄」という短篇集に収録された中編SFで、他の収録作と比べて特に印象に残っています。この短編集には作者紹介がないため名前の正しい綴りすらわからず、以前に行った日本語表記での検索でも何も分からなかったのですが、この記事を書くために再度検索して見つけた記載を基にして英語綴りで再度検索した結果、英語版のWikipediaの記事を発見しました。Ron Goulart
この記事によると別名で書いていたアメコミ作家としての方が有名なようで、なるほどだからこそのこのテイストなのでしょう。この主人公とヒロインによる続編シリーズがあっても不思議ない気がしますが、残念ながら彼の小説作品はほぼ翻訳されていないようです。

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一連の将棋ソフト不正騒動に関しての感想

 「対局中にスマートホンによって将棋ソフトを使用した」として三浦九段が年内の対局停止処分を受けてからの一連の騒動が、将棋連盟の新会長就任によって一旦の小休止を得たこの時点で、私がこの件に関して感じた事を書いてみます。私自身は昔は将棋をたしなんでいたものの、ここ数十年はほぼ指していない全くの部外者ですが、その分事件の当事者に対する思い入れ等がほぼなく、所謂「岡目八目」で外野から騒動を見る事ができたと思います。

 まず将棋連盟が三浦九段に対局停止の処分を下した時点で、私を含め多くの人の感想は、連盟が事実上の「クロ」判定ともいえる対局停止処分を下す以上、ほぼ間違いのない不正の証拠があるのだろう、というものでした。ところがその後の第三者委員会による調査で、不正の証拠と言えるものは全くなく、それどころか対局中の30分の離席等の状況証拠さえ実は事実無根であり、三浦九段が不正を行ったと判断できる根拠は一切ない事がはっきりして、その結果谷川会長の辞任とその後の佐藤新会長選出という事態になった訳です。
 ここで問題なのは、なぜ証拠がない状態で連盟が三浦九段の処分に踏み切ったのかという点です。これは羽生との二枚看板棋士である渡辺竜王が竜王戦の直前に三浦の不正疑惑を週刊文春にリークし、彼の処分がなければ竜王戦のボイコットも有り得るとゆさぶりをかけた結果とされています。週刊文春はそれまで政治家を含む有名人の疑惑を再三取り上げ、しかもそれが事実だったという実績があるため、ここにそのような記事が載れば将棋界のダメージが大きすぎると判断した谷川会長ら執行部が、三浦九段処分に踏み切ったという経緯です。

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狂った致死率 (トマス・L・ダン著:ハヤカワ文庫NV)

 かなり以前に読んだ本で、数年前の時点では「感染症の世界的大流行(パンデミック)によるパニック」というテーマが(その当時の)今日的だったのですが、米トランプ政権が発足して二週間という現時点ではむしろ、「妄想に取りつかれた超大国の大統領による核戦争の危機」という方がより今日的です。この作品はどう見てもSFに分類されるべき内容なのに、どういう訳かハヤカワ文庫ではSFではなく一般小説(NV)に分類されています。正直なところ、SFの定義自体がきわめて曖昧であるという点を考慮しても、ハヤカワ文庫のSF, FT, NV等の分類基準には首をかしげる点が多いです。
 本来伝染病ではないはずの癌の発生率が西側世界で異常に上昇し、統計操作までしてその事実を隠そうとする米厚生当局vs民間科学者との攻防という序盤の展開が、すでにトランプ政権の「もう一つの事実」を思わせますが、西側諸国での癌の大流行が明らかになってからが本物の政治的危機となります。元々はテレビの売れっ子だったタレント教授であり、その任に堪える能力がなかったのにメディアによってその地位に押し上げられた米国大統領は、この未曾有の危機に愛娘の癌発病という個人的試練も重なり、段々と妄想に囚われていきます。その結果、米国での癌の大流行がソ連による生物兵器攻撃によると断定して核による報復への道を突き進んでいくという展開は、もしかするとトランプ政権下の米国の近未来を描いているようにも思えてきて、所詮SF小説で現実とは違うとばかりは言っていられなくなります。少なくとも、就任後わずか二週間程度で国内外をここまで大混乱に陥れたトランプ大統領が、あと四年間その職を続けてまったく想定できないような事態に直面したとき何が起こりうるのか、という問への一つの答えがこの小説に描かれているように思えてなりません。

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ドニャ・ペルフェクタ -- 完璧な婦人 (ベニート・ペレス=ガルドス著:現代企画室)

 ベニート・ペレス=ガルドス(Benito Perez Galdos)は19世紀から20世紀初めにかけて活躍したスペインの国民的作家で、スペイン国内では歴史小説シリーズ「国史挿話」が最も有名ですが、他にも当時のスペイン社会をリアルに描いた多くの小説や劇作を書いており、ここで紹介する「ドニャ・ペルフェクタ」もその一つです。今回はGreenさんによるこちらの記事で興味を持って読んでみました。翻訳者の大楠栄三氏によるかなり長い年表と解説が巻末にあり、著者ペレス=ガルドスの生涯や彼の作品が同時代あるいは現在のスペインにおいてどのように読まれ評価されているのかが詳しく解ります。なお彼の作品のいくつかは同国人ルイス・ブニュエルによって映画化されていて、以前に紹介した「ナサリン」もその一つでした。
 一見すると、開明的な主人公ペペ・レイと叔母ドニャ・ペルフェクタを筆頭とする旧弊なオルバホッサ社交界との対立とその結果の悲劇と見えるこの作品ですが、実際にはそう単純ではありません。進歩思想を徹底的に敵視してペペ・レイに対して陰謀をめぐらすペルフェクタばかりではなく、ペペ・レイの方もまた解説にあるスペイン人特有の「情念」に囚われており、いわば情念同士の対立によって事態はどんどんと悪化して破滅的結果へと導かれていきます。ペルフェクタを筆頭とするオルバホッサ社交界の偽善的な悪どさは明らかですが、ペペ・レイも考えなしに思った事を口に出して相手を不快にさせる人物であり、さらにはロサリオへの情熱に駆られ周囲を巻き込んでの暴走によりオルバホッサと政府軍との戦闘を招いてしまうなど、かなり迷惑な人物です。そもそもかなり近い身内である甥のペペ。レイにペルフェクタが敵意を持ったのも、彼が無思慮にオルバホッサをこき下ろしたのが元々の原因であり、そう考えると彼の運命もいわば自業自得な面があります。

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