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人形 (ボレスワフ・ブロス著:未知谷 ポーランド文学古典叢書7)

 以前に紹介した「ラ・レヘンタ」も相当に厚い本でしたが、今回紹介する「人形」はさらにその上を行く厚さの、解説まで含めると1236ページの単行本です。別の翻訳小説の書評をしらべていたときにamazonのお勧めに何度も出てきて気になって図書館で探して借りたのですが、書架での存在感に驚かされました。
 著者のBoleslaw Prus (本名はAleksander Glowacki)は1847年に現在のポーランド最東端にあたるフルビェシェフで生まれたジャーナリスト兼作家であり、この「人形」も1887年から1889年に掛けて新聞連載小説として発表されています。つまり日本で言えば夏目漱石に経歴がかなり似ており、さらに両者の作品の言語が20世紀の両国の国語を育てたと言えるような国民的作家という立場も同様です。
 非常に大雑把な粗筋をまとめてしまうと、理性的で行動力もある平民出身の豪商である主人公スタニスワフ・ヴォクルスキが、零落しかかっている士族(シュラフタ)の娘イザベラ・ウェンツカ嬢を見初めて「恋は盲目」状態に陥るが、遂に決定的な裏切りに逢って目が覚める、というある意味それだけの話です。しかしもちろんそれだけではなく、19世紀後半のポーランドの社会状況とポーランドを取り巻く困難な国際的環境がかなり詳しく物語に取り入れられており、主人公を始めとする登場人物たちの言動や心の動きに現実性を与えています。

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虚像のエコー (トーマス.・M・ディッシュ著:ハヤカワ文庫SF)

 ブログリンクにもある イクシーの書庫で紹介されていて興味を持った作品です。著者のThomas Michel Disch (1940--2008)はアメリカのSF作家ですが、1960年頃にイギリスSF界で起こったニューウェーブ運動の中心作家の一人であり、1967年に発表されたこの作品もその一つです。ニューウェーブ運動とは、それまで主流だった銀河を股にかけるスペースオペラに代表されるような大仕掛けのSFのアンチテーゼとして、人間心理などの内的宇宙の探求に焦点を当てた作品であり、実際この作品も「火星基地への転送」は単なる舞台装置に過ぎず、その副作用として生じたエコー達の人間的葛藤をテーマとしています。正直なところ、主人公ハンサード大尉のパートに第三者というか解説者的な視点のパートが挟まった形の記載は読みやすいとは言えず、また冒頭部分でのハンサードは石頭すぎてやや共感しにくく感じたのですが、彼の思想の理由がベトナム戦争でのトラウマにあると解って以降は、あまり違和感を覚えずに読み進められました。

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トリポッド 3 潜入 (ジョン・クリストファー著:ハヤカワ文庫SF)

 前話でトリポッド支配に対するレジスタンス組織の拠点である「白い山」(おそらくモンブラン)にたどり着いた主人公ウィルとヘンリー、ビーンポールですが、実はレジスタンス指導者すらトリポッド自体が自律機械なのかそれとも他の生物が乗っているのかも解ってない状態でした。それを含めて敵の正体や弱点を探るため、ウィルらはドイツのライン川?流域のどこかにあるトリポッドの都市に競技大会の優勝者として潜入作戦を行います。
 この大会は体力のある若者を選抜して都市での奴隷として使うためのもので、いくつかもの種目があるものの、優勝するためには相当の運動能力が必要です。レジスタンス拠点が空気の薄い高山にあるため、そこで生活しているレジスタンスたちは平地の人間より体力があり、従って大会でアドバンテージがあるというのはなるほどの説明ですが、実はこの話は前話から1年しか経っておらず、それだけの期間でウィルらが高山に適応したのかは正直疑問が残ります。

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トリポッド 2 脱出 (ジョン・クリストファー著:ハヤカワ文庫SF)

 前話での征服からおよそ100年後の世界を描いた本作は、1967年に発表されたオリジナル三部作の第一話となります。
 トリポッドに完全に支配されたこの時代、征服前の科学技術文明はほぼ完全に失われ、人々は中世封建時代さながらの暮らしをしています。生まれた子供は14歳になると、トリポッドによって金属メッシュ状の皮膚と一体化した「キャップ」を被せられる「戴帽式」という儀式を受けますが、キャップを被った者(キャップ人)はほぼ好奇心を失い、トリポッドの支配に対する一切の疑問を失ってしまいます。どうやらこの金属製キャップはトリポッドへの忠誠心を受け入れるように脳にシグナルを送り続ける装置らしく、「トリポッド1」での描写では、征服時に使われた旧来のキャップの恒久的な「改良版」のようです。

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トリポッド 1 襲来 (ジョン・クリストファー著:ハヤカワ文庫SF)

 以前から他の方のブログで気になっていたジュブナイルSF作品で、今回図書館で借りて読んでみました。元々のトリポッドシリーズは異星からの侵略者によって支配された地球を描いた作品として1967-68に発表された三部作なのですが、その前日譚として1988年に新たに発表されたのが、今回紹介する「襲来」です。ジョン・クリストファーは1922年生まれの英国SF作家で、当初は「トリフィド時代」等で有名な同じ英国SF作家のジョン・ウィンダムと共にアポカリプス系本格SFの騎手と目されていましたが、現在ではこの「トリポッドシリーズ」を始めとするジュブナイルSF作家として知られています。
 おそらく1970年代の地球の米国・ソ連・英国にそれぞれ現れた三機のトリポッドは、通常兵器によってあっさり破壊され重大な脅威とはみなされなかったものの、実はその後の巧妙な侵略の前触れにすぎなかったという展開は、三本足歩行の巨大機械であるトリポッドの姿から容易に連想されるH.G.ウェルズの「宇宙戦争」のオマージュであるのはもちろんですが、おそらく最初のトリポッドは偵察にすぎず、それらが集めたデータを利用した洗脳によって本格的な侵略が行われるというのは、20世紀当初の古典SFでの武力侵略をより現代化したものです。単純な武力によるものではないこの巧妙な侵略に有効な手を打てずに、地球文明はあっさりと崩壊し、人々はトリポッドを崇める奴隷と化していきます。

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