恋人たち (フィリップ・ホセ・ファーマー著:ハヤカワ文庫SF)

 「階層宇宙」や「リヴァーワールド」シリーズなど奇想天外な世界での冒険SFで有名な作家フィリップ・ホセ・ファーマー(1918--2009)の、1953年に発表された事実上のデヴュー作です。piaaさんのレヴューで興味を持ち、図書館で借りて読んでみました。それまでの米SFのタブーを打ち破った「セックスをテーマにしたSF作品」と紹介される事が多いようですが、少なくとも現在の感覚から言うと特にエロチックな描写はなく、ただ異星人の人類とは全く異なる性のあり方とその進化を描いている作品です。日本語で「セックス」というと「性」よりも「性行為」の方を指すのが普通なので、「性をテーマとした」という方が適切と思われます。巻末の訳者(伊藤典夫氏)による解説にある「1940年前後に氾濫したバルブ雑誌の多くは、きまりきって裸女と怪物の表紙で読者を釣っていたが、その中身は生殖器などありそうもない男女が右往左往するだけ」という表現には笑ってしまいましたが、指摘されてみると確かにその通りです。「火星のプリンセス」でのデジャー・ソリスに迫る邪悪な緑色人を始めとする半裸の美女を襲う宇宙怪物たちの目的が一体何なのか、全く異なる種族の間に性交渉が存在し得るのか疑問ですが、性のタブーのためにこんp時代のSF作中には何も書かれていません。確かアーサー・C・クラークの皮肉にあったように、「ベム虐待防止協会が、ベムたちがやろうとしている事をヒーローが妨害するのをやめさせてほしい」というのもごもっともです。

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これまでになく驚かされた投書

 日曜日の朝日新聞朝刊に掲載される「フォーラム」欄は、通常の投書欄とは異なり賛否が分かれる一つのテーマについて賛成反対さらにはその中間などのさまざまな立場からの投書を一度に掲載する企画で、当然の事ながら社論とはかけ離れた意見も掲載されています。自分とは全く相いれない立場からの主張であっても、なるほどこのような論理なのだなとか、このような見方もできるのかと考えさせられるものもあり、不快に感じる事がありながらも読む価値があると思っています。今日は沖縄の基地問題がテーマだったのですが、その中でさすがに驚かされた暴論があったので、以下に全文を引用してみます。

沖縄の基地は選挙のテーマではなく、存在、集中は当然である。沖縄は地理的に日本防衛の要であり、他府県に基地を設ける弊害を避けるため集中して配備すべき。沖縄に発砲すれば日本と同時に米国も敵に回すことになることが重要だ。先制攻撃すら出来ない自衛隊では周辺国になめられるだけである。勝手に自国の領土だとして侵攻してくる例が近隣に多数存在することを見れば、強力な米軍がいることは大変ありがたいことである。発言の自由すら無い近隣の他国の支配を望むなら別だが、沖縄は日本国全体のために、補償無しで強力な米軍基地を快く受け入れることこそが唯一の方法である。 (京都府・60代男性)

 短く纏めてしまうと、「多数者の利益のためには少数者は喜んで犠牲になるのが当然であり、異論は認めない」という主張です。あまりの内容に、ジョナサン・スウィフトの「アイルランドにおける貧民の子女が、その両親並びに祖国にとっての重荷となることを防止し、かつ社会に対して有用ならしめんとする方法についての私案」と同様の反語表現なのかと思ったくらいですが、それならそうと判る「あり得なさ」がなく、どうやら本気で信じての意見表明のようです。
 ここ数年の傾向として、以前だったら決して許されなかった暴言や暴論が政府要人やその周辺の人々から発せられ、そのまま大きな非難を受けることなく見逃されてしまう事が普通となっていますし、一部の政治家の本音は正に上の主張と同じではないかとも感じています。しかしこのレベルの暴論は、ネット上では見かける事があってもこれまで新聞等の活字になっているのは見たことがなく、本音がそうであっても公の場で口にすることは現在でもさすがに許されない、少なくとも口にできないと思っていました。「沖縄に基地が集中するのは地政学的に仕方ないので、お金は弾みますから申し訳ないけれど沖縄は我慢してください」という主張はこれまでも結構多く見ましたが、「補償無して快く受け入れろ」という主張が堂々と公の場で出るとは、これまで色々な文章を読んできてこれまでになく驚き、ついに日本社会はここまで来てしまったのかと呆然とさせられました。

遂に役目を終えそうなキログラム原器

 数日前に報道されたニュースとなりますが、日本の技術総合研究所による「エックス線決勝密度法」によるプランク定数の精密測定によって、これまで国際キログラム原器によって定義されていた質量の単位の定義が改められ、キログラム原器はその役目を終える可能性が出てきました。フランス革命直後の18世紀末に決められたメートル法およびその拡張であるMKSA単位系、さらにはSI単位系において、単位の定義として最後まで原器の形が残っていたのが質量単位の定義でしたが、今回の成果によって十分正確に定められたプランク定数から質量単位が定義される事になれば、ついにすべての物理単位の定義において原器の役割がなくなる事になります。

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初めて観測された太陽系外からの天体

 最近発見された小惑星状の天体が、その軌道運動からどうやら太陽系外から飛来したものとほぼ確認されました。
観測史上初の恒星間天体か、小天体A/2017 U1
 リンクした記事にもある通り、この直径が400m未満の天体A/2017U1の軌道は離心率の大きな恐らく双曲線であり、さらに黄道面から非常に大きくずれています。以下のリンクはNASAのホームページで見つけたその軌道図です。A/2017 U1の軌道
 過去の軌道を辿ると、A/2017 U1はこと座の方向から太陽系に入り10月9日に太陽に最接近後、現在はペガサス座の方向に向かって太陽から秒速44kmで離れているという事で、このスピードも確かに地球軌道付近での太陽系からの脱出速度を超えています。

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幻の国を売った詐欺師 (ディヴィッド・シンクレア著:清流出版)

 いつの世にもまたどこの国でも世間を騒がす詐欺事件というものは存在しますが、ここまで壮大な詐欺はさすがに珍しいでしょう。今回紹介するのは、どこにも存在しない国の国債や土地を大々的に売り出し、さらにはその幻の国に植民者を送り込んで多数の死者を出した、という19世紀英国における驚くべき詐欺事件について、その主犯の生涯も含めて詳しく紹介したドキュメント本です。新聞の書評に惹かれて少し前に読んだ「世界をまどわした地図」でこの詐欺事件について初めて知りました。
 主人公の詐欺師グレガー・マグレガーはスコットランドの名門一族の端くれとして生まれ、士官として軍隊に勤務するものの生来の虚飾癖と怠け癖によってどこでも周囲と衝突しては飛び出し、各地を転々としていました。その中で南米に渡った彼は、やがて現在のホンジュラスからニカラグア北東部の海岸部に新たに独立したというポヤイス国の支配者を名乗りロンドンに登場します。当時のイギリスではスペインから次々と独立した中南米諸国の国債が大々的に売りだされ、素人も含めて多くの人が争って買い求めていました。そのような状況下、堂々とした押し出しの「ポヤイス公」自らが宣伝したポヤイス国債もまた順調に売り出されます。さらにポヤイス公は、単なる労働者だけではなく新独立国の官吏を始めとする上流階級の移民も土地付きで募集し、それに応じた多くの人々がチャーターされた船に乗ってポヤイス国の首都に向けて出発しました。ところが彼らが到着した場所は、首都どころか集落すら存在しない原野で、帰国の手段もないままそこに放り出された人々は飢えや病気に苦しみ、ベリーズからの船によって偶然発見されて救出されるものの最終的に百人以上の死者を出す惨事となりました。

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