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タウ・ゼロ (ポール・アンダースン著:創元SF文庫)

 ポール・アンダースンの代表作とされる有名作品ですが、私はずっと昔に途中まで読んで挫折した記憶があります。恐らくちょうど私自身がSFに興味をなくしかけていた頃だった上に、中盤の陰鬱な展開に耐えられずに投げ出したのだと思いますが、今回改めて読んでみると、単に壮大なハードSFというだけでなく閉塞状況の中での人間心理描写も優れていて、さすがこの時代の第一人者の作品だと感心しました。
 スペースオペラ系では普通に使われている超光速を封印し、あくまで現実に即した亜光速での恒星間飛行という限界を保持しながら、銀河系を飛び出し宇宙そのものをもある意味で飛び出すという正にぶっ飛んだ展開の一方で、作品のもう一つのテーマは閉鎖された宇宙船内での濃密な人間模様と葛藤という、かなり変わった作品です。作品の舞台となる宇宙船「レオノーラ・クリスティーネ号」は、世代型を除く恒星間宇宙船として唯一原理的に可能とされていたバザード・ラムジェット推進であり、燃料切れの心配なしに無限に加速可能です。この設定を逆手にとって「もし止めることができなくなって、本当に無限に加速し続けたらどうなるのか」というアイディアと、当時の最先端宇宙論とを組み合わせた結果、終盤までの重苦しい展開から一転して明るい未来が開けていきます。
 ただし、宇宙膨張が止まって収縮に転じ、さらに跳ね返って新しい膨張宇宙が生まれる、という設定自体は当時の宇宙論的にはあり得るのですが、宇宙の構成物質だけでなく空間そのものが膨張・収縮しているため、宇宙船はどころかどんな物質もビッグクランチを通過して次の世代の宇宙に行く事は不可能です。その点は作者が宇宙論を誤解していたようにも思えます。

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タイム・パトロール (ポール・アンダースン著:ハヤカワSF文庫)

 Poul William Andersonは、20世紀の米SF界をかなり長期にリードした有名作家の一人であり、多作かつ外れのない作家として知られています。どういう訳か私自身はこれまで彼の作品をほぼ読んだ事がなく、確認したところこれ以前にきちんと読んでいた長編は「天翔ける十字軍」一作だけでした。これも今回調べたときに初めてアンダーソン作品と知って、彼の作風の広さに驚いた次第です。私のイメージする彼の作品は、代表作「タウ・ゼロ」を始めとするハードSFの方なのですが、今回取り上げる「タイム・パトロール」シリーズはややそのイメージとは異なる「スペースオペラ」ならぬ「タイムオペラ」とでもいうべき展開です。ただし、そこに描かれている歴史的描写や「歴史のイフ」が起こった場合のシミュレーションには、ハードSFの大家らしい綿密さを感じさせます。この「タイム・パトロールシリーズ」は雑誌連載された中編小説からなり、本作はその初期の4編をまとめたものとなります。
 主人公エヴァラードがタイム・パトロールにリクルートされ、漸新世に設けられた施設で訓練を受けたあと最初の任務を行い、その後の事件の結果無任所職員としてさまざまな時代で任務をこなす事になる経緯を綴る第一話「タイム・パトロール」の後、第二話「王者たるの勇気」では、すでにエヴァラードはベテラン隊員として、行方不明となった友人のパトロール隊員を探して紀元前6世紀のアケメメス朝ペルシャに向かいます。さらに第三話「邪悪なゲーム」では、正史に反して14世紀に北米大陸に渡った元の探検隊と対峙し、第四話「滅ぼさるべきもの」では大規模な歴史改編に巻き込まれたエヴァラードは、その原因を突き止めて元の歴史に戻すために奮闘します。
 未来世界においてタイムマシンが実用化されるとそれを悪用して歴史改変を試みるものが現れ、それに対抗するための組織が作られる、というのはある意味定番なのですが、この作品世界でのタイム・パトロール組織の主導者であるデイネリア人は、ほぼ影に隠れて指示のみを与える存在であり、一般の隊員の前に姿を現しません。デイネリア人は恐らく100万年以上未来の人類であり、現存人類とは姿や思考も変わっているようです。実の処、彼らは必ずしも絶対善とも思えず、彼らが守ろうとしている歴史が本当の「正史」なのか微妙に思われる部分があります。例えば第三話での元の探検隊による北米大陸発見は、タイムトラベラーによる介入ではなくその世界の人間が独力で成し遂げたものです。始めは穏やかな手段で探検隊を引き返させそうとしたエヴァラードですが、それに失敗して同僚が瀕死の重傷を負った事もあり、探検隊が本国に戻れない強硬手段を取ります。この処置はどうやら彼がパトロール上層部から指示を受けた結果のようで、それによって元が北米に到達しない歴史は保たれたものの、それが本当に正しかったのか、エヴァラートは(そして読者も)疑問に悩まされます。

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人形 (ボレスワフ・ブロス著:未知谷 ポーランド文学古典叢書7)

 以前に紹介した「ラ・レヘンタ」も相当に厚い本でしたが、今回紹介する「人形」はさらにその上を行く厚さの、解説まで含めると1236ページの単行本です。別の翻訳小説の書評をしらべていたときにamazonのお勧めに何度も出てきて気になって図書館で探して借りたのですが、書架での存在感に驚かされました。
 著者のBoleslaw Prus (本名はAleksander Glowacki)は1847年に現在のポーランド最東端にあたるフルビェシェフで生まれたジャーナリスト兼作家であり、この「人形」も1887年から1889年に掛けて新聞連載小説として発表されています。つまり日本で言えば夏目漱石に経歴がかなり似ており、さらに両者の作品の言語が20世紀の両国の国語を育てたと言えるような国民的作家という立場も同様です。
 非常に大雑把な粗筋をまとめてしまうと、理性的で行動力もある平民出身の豪商である主人公スタニスワフ・ヴォクルスキが、零落しかかっている士族(シュラフタ)の娘イザベラ・ウェンツカ嬢を見初めて「恋は盲目」状態に陥るが、遂に決定的な裏切りに逢って目が覚める、というある意味それだけの話です。しかしもちろんそれだけではなく、19世紀後半のポーランドの社会状況とポーランドを取り巻く困難な国際的環境がかなり詳しく物語に取り入れられており、主人公を始めとする登場人物たちの言動や心の動きに現実性を与えています。

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虚像のエコー (トーマス.・M・ディッシュ著:ハヤカワ文庫SF)

 ブログリンクにもある イクシーの書庫で紹介されていて興味を持った作品です。著者のThomas Michel Disch (1940--2008)はアメリカのSF作家ですが、1960年頃にイギリスSF界で起こったニューウェーブ運動の中心作家の一人であり、1967年に発表されたこの作品もその一つです。ニューウェーブ運動とは、それまで主流だった銀河を股にかけるスペースオペラに代表されるような大仕掛けのSFのアンチテーゼとして、人間心理などの内的宇宙の探求に焦点を当てた作品であり、実際この作品も「火星基地への転送」は単なる舞台装置に過ぎず、その副作用として生じたエコー達の人間的葛藤をテーマとしています。正直なところ、主人公ハンサード大尉のパートに第三者というか解説者的な視点のパートが挟まった形の記載は読みやすいとは言えず、また冒頭部分でのハンサードは石頭すぎてやや共感しにくく感じたのですが、彼の思想の理由がベトナム戦争でのトラウマにあると解って以降は、あまり違和感を覚えずに読み進められました。

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トリポッド 3 潜入 (ジョン・クリストファー著:ハヤカワ文庫SF)

 前話でトリポッド支配に対するレジスタンス組織の拠点である「白い山」(おそらくモンブラン)にたどり着いた主人公ウィルとヘンリー、ビーンポールですが、実はレジスタンス指導者すらトリポッド自体が自律機械なのかそれとも他の生物が乗っているのかも解ってない状態でした。それを含めて敵の正体や弱点を探るため、ウィルらはドイツのライン川?流域のどこかにあるトリポッドの都市に競技大会の優勝者として潜入作戦を行います。
 この大会は体力のある若者を選抜して都市での奴隷として使うためのもので、いくつかもの種目があるものの、優勝するためには相当の運動能力が必要です。レジスタンス拠点が空気の薄い高山にあるため、そこで生活しているレジスタンスたちは平地の人間より体力があり、従って大会でアドバンテージがあるというのはなるほどの説明ですが、実はこの話は前話から1年しか経っておらず、それだけの期間でウィルらが高山に適応したのかは正直疑問が残ります。

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