さらに太陽系に接近する事が判ったGliese710

 2013年12月19日に打ち上げられたヨーロッパ宇宙機関の天文位置衛星Gaiaは、1989年に打ち上げられたHipparcos衛星の後継機であり、太陽-地球系のL2ポイントの周りを周回しながら銀河系全体の星の1%に当たる10億個の恒星の位置と固有運動を5年間で計測する計画です。現時点ですでに200万個の恒星についてデータが得られていますが、当然の事ながらHipparcosによる観測よりはるかに精度が良く、その結果かなり以前に書いた記事で一度紹介したGliese 710が、135万年後に以前の予想よりさらに太陽系に接近する事が明らかになりました。
太陽から2兆kmまで近付く星、グリーゼ710
 驚いたのは、Hipparcosの観測では太陽に最も近づいたときの距離が1.1±0.58光年だったのが、新たなGaiaでの観測データによると0.24±0.09光年と以前の誤差限界よりもさらに近くなっている点です。地上からでは実現不可能なレベルの精密な恒星の位置・固有運動測定が可能というのがHipparcos衛星の売りだったのですが、意外にもかなりの誤差があった事になります。実はプレヤデス(すばる)星団の距離に関してもHipparcosによる計測に誤差があった事が指摘されており、これは衛星が計画されていた静止軌道に入れず、極端な楕円形であるトランスファー軌道のまま運用されていたのが理由なのでしょうか。また、この種の話では、初めの測定では極端に近づきそうだったのが後の精密測定の結果それほどでもない、というパターンが普通なので、その逆というのもかなり珍しいのでは。

続きを読む»

スポンサーサイト

テーマ:宇宙・科学・技術 - ジャンル:学問・文化・芸術

蜘蛛女のキス (マヌエル・プイグ著:集英社)

 少し前に紹介した同じ作者の「天使の恥部」もそうでしたが、イザベル・ペロン政権以後の軍事政権下での反体制派に対する大虐殺は現在のアルゼンチン社会にも深刻な影を落とし続けており、20世紀後半以降のアルゼンチン文学では、直接的ではなくとも何らかの形で必ず触れられるテーマとなっています。この「蜘蛛女のキス」は正にその時代のアルゼンチンで警察に捕らえれた反体制活動家ヴァレンティンと、未成年者への性的行為で逮捕され、ヴァレンティンと同房となった同性愛者モリーナとの会話によって成り立っている作品です。モリーナはヴァレンティンから反体制組織に関する情報を聞き出せば釈放すると刑務所長に言い含められており、彼と親しくなるためこれまで自分の観た幾つもの映画の内容をヴァレンティンに語り、それに対するヴァレンティンの反応がほぼ二人の会話(従ってこの作品)の大部分を占めています。始めのうちは刑務所長の言いなりになっていたモリーナが段々とヴァレンティンに惹かれて行きそして・・・という粗筋のこの小説の主題は、階級も思想も異なり本来なら出会わないであろう二人の心の触れ合いなのですが、それとは別にモリーナがヴァレンティンに語る映画の話が中々興味深いものです。
小説自体に関する詳しい解説はかなり多くの記事を見つける事ができ、例えば以下の記事が詳しいです。
odd_hatchの読書ノート
松岡正剛の千夜千冊

続きを読む»

テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

図書館大戦争 (ミハイル・エリザーロフ著:河出書房新社)

 「図書館戦争」はもちろん日本の小説ですが、きわめて似た日本語タイトルのこちらは現代ロシアの小説です。原題の直訳は「図書館司書」であり、この邦題には「図書館戦争」に意図的に似せた訳者と出版社の商魂を感じます。作者ミハイル・エリザーロフの生まれは旧ソ連時代のウクライナ(1973年)ですが、ロシア語で著作活動をしているロシア作家です。実はこの本を読んだのは一年以上前の事で、新聞の書評を見て興味を持って図書館で借りて読み、実際にかなり印象には残ったものの読んでいて気分が悪くなるような暴力とカルト描写にかなり引いてしまい、これまで紹介せずにいました。今回改めて記事をまとめる気になったのは、同じく現代ロシアの小説である「氷三部作」を読んで、「図書館大戦争」と同じテイストを感じたからです。
 現代ではほぼ忘れ去られているソ連の作家グロモフの書いた7つの本は、集中して一気に読むと読者に不思議な作用を与えるため、その力を知る熱狂的な読者には本来のタイトルではなくそれぞれ「記憶の書」「力の書」「喜びの書」「忍耐の書」「権力の書」「憤怒の書」「意味の書」と呼ばれ、貴重な宝物として扱われています。そして本を共有する読者のグループは「司書」をリーダーとする「図書館」や「読書室」を作り、本を奪い合う血みどろの戦いを繰り広げています。もちろんその戦いは本の力を知らない一般人には分からないところで行われており、戦いによる死者や重傷者も警官や医者を買収するなどして通常の事故によるものとして処理されています。このような、グロモフの本の不思議な力の発見と各図書館の成立およびその抗争の歴史が、この作品の初めの部分をなしています。グロモフの小説はソ連時代の公式に認められた文学である硬直した「社会主義レアリズム」の作品であり、大部分の読者には退屈あるいは馬鹿馬鹿しくて真面目に読む気がしない代物です。そのためソ連時代にさえ「集中して一気に読む」読者は稀であった上に、ソ連崩壊後は紙くず扱いされてほとんど目に留める人もいなかったのが、偶々何かのはずみに集中して読んだ読者が段々と図書室・図書館を形成し抗争が繰り返されていく過程は、ファンタジー世界の歴史記述のように読めて中々面白く感じました。

続きを読む»

テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

干支天使チアラット

 他のサイトで偶々存在を知って、このところマイブームのWebコミックです。すでに単行本化されて2巻まで市販されていますが、公式サイトでは最新話を含めて10話分と第1話を無料で読む事ができます。「セーラームーン」に代表される戦闘美少女チームものですが、メンバーがいかにも現代の女子中高生な上にいずれも性格が少し歪んでおり、また敵の怪人らの行動や攻撃が卑猥だったりとかなりパロディの要素を含みながら、一方でメンバーの精神的成長というこのジャンルの中心テーマもしっかり押さえている作品です。
 基本設定としては、干支の動物を決める際にネズミに騙されたネコが数千年の時を経て化け猫の化身として蘇り、ネコ抜きの干支に何の疑問も持たない愚かな人類を恨みや妬みのエネルギー(怨ネルギー)によって生じる「怨魔」を使って滅ぼそうとするのに対し、次々と覚醒する十二支の化身である干支天使(エトランジェル)がそれを阻止するという筋書きで、干支天使はそれぞれの干支の生まれの少女(少なくとも若い女性)というのがポイントです。変身後の姿がチアガールのコスチュームなので、メンバーの名前はすべて「チア〇〇」となっています。最終的には12人の干支天使が登場するのでしょうが、その場合メンバー間に最小でも12歳の年齢差が生じる事になります。
 他作品のパロディの部分がかなりシャレにならないレベルなので、どこかからの圧力がかかるのではと心配する声もあるようですが、私が気になったのはいくつかのネーミングセンスの方です。敵サイドではなく善サイドで「ジェノサイド」や「KKK」は、この作者の場合確信犯的にやっているのだろうと思いますが、ナチスのカギ十字と同じレベルに拙いのではないでしょうか。
 私が読んでいるのは公式サイトの公開分とWeb検索で読める単行本の一部のみなので未だストーリー全話は把握できておらず、さらにタレントには全く疎いために、モブとして登場しているのが具体的に誰なのか等はほぼ理解していません。とりあえず主要登場人物のみ紹介してみます。

続きを読む»

テーマ:アニメ・コミック - ジャンル:アニメ・コミック

場所 (マリオ・レブレーロ著:水声社)

 「フィクションのエルドラード」は中南米作家の作品を集めた水声社の叢書ですが、今回紹介する「場所」はその一冊です。1982年に発表されたウルグアイの作家マリオ・レブレーロ(1940--2004)の中編小説で、「都市」、「パリ」と共に「意図せぬ三部作」と呼ばれています。訳者の寺尾隆吉氏はレブレーロを阿部公房に准えていますが、突然異常な世界に投げ込まれた主人公が周囲と意思疎通できぬまま彷徨うという展開から私が連想したのは、以前に紹介したミハル・アイヴァスの「もう一つの街」とカリンティ・フィレンツの「エペペ」でした。ただしこれらに比べると同じ不条理小説でも第二部以降の不条理度はやや低く、第二部では主人公と同様にこの場所に迷い込んだ現実世界の様々な人々と主人公は意思疎通ができていますし、第三部ではむしろ現実世界でもあり得るような暴力の不条理さが目立っています。さらに言えば、外が見えない奇妙な建物の中を一方方向にひたすら進むという第一部の展開自体も、一度体験した事を戻って再び体験する事ができない人生を象徴したものとも捉える事が可能で、そう考えると「もう一つの街」や「エペペ」とはかなり異なる現実世界の戯画的小説とも思えてきます。

続きを読む»

テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

プロフィール

X^2

Author:X^2
このブログは、旧ブログ
Babylon5以外のメモ
からの移転先として立ち上げました
。連動するホームページである
Babylon5 Episode Guide
にもどうぞ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
リンク