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トリポッド 1 襲来 (ジョン・クリストファー著:ハヤカワ文庫SF)

 以前から他の方のブログで気になっていたジュブナイルSF作品で、今回図書館で借りて読んでみました。元々のトリポッドシリーズは異星からの侵略者によって支配された地球を描いた作品として1967-68に発表された三部作なのですが、その前日譚として1988年に新たに発表されたのが、今回紹介する「襲来」です。ジョン・クリストファーは1922年生まれの英国SF作家で、当初は「トリフィド時代」等で有名な同じ英国SF作家のジョン・ウィンダムと共にアポカリプス系本格SFの騎手と目されていましたが、現在ではこの「トリポッドシリーズ」を始めとするジュブナイルSF作家として知られています。
 おそらく1970年代の地球の米国・ソ連・英国にそれぞれ現れた三機のトリポッドは、通常兵器によってあっさり破壊され重大な脅威とはみなされなかったものの、実はその後の巧妙な侵略の前触れにすぎなかったという展開は、三本足歩行の巨大機械であるトリポッドの姿から容易に連想されるH.G.ウェルズの「宇宙戦争」のオマージュであるのはもちろんですが、おそらく最初のトリポッドは偵察にすぎず、それらが集めたデータを利用した洗脳によって本格的な侵略が行われるというのは、20世紀当初の古典SFでの武力侵略をより現代化したものです。単純な武力によるものではないこの巧妙な侵略に有効な手を打てずに、地球文明はあっさりと崩壊し、人々はトリポッドを崇める奴隷と化していきます。

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第6の大絶滅は起こるのか (ピーター・ブラネン著:築地書館)

 地球で原始的な生命が誕生したのは40億年前程度と推測されていますが、大型の多細胞生物が地球全域に広がったのは5憶7900万年前のエディアカラ紀以降とされています。その後の地球上生命の歴史は決して平坦なものではなく、地球上の大部分の生命が死に絶えた「大絶滅」と呼ばれる現象が少なくとも5回起こっています。古い順に並べると、オルドビス紀末(4億4500万年前)、デボン紀後期(3億7400万年前及び3億5900万年前)、ペルム紀末(2億5200万年前)、三畳紀末(2億100万年前)、そして白亜紀末(6600万年前)であり、最後の大絶滅は有名な恐竜が滅びたものです。
 タイトルの意味は、現生人類の登場から始まる現在進行中の多くの種の絶滅現象が、これらの大絶滅に匹敵するものになりうるかという問いであり、その答えは「現時点では明確にノー、しかしここのまま手をこまねいていると将来的にはあるいはイエス」というものです。史上最大の大絶滅であるペルム紀末絶滅ではその時点で生存していた97%以上の種が絶滅したとされていますが、他の大絶滅でもそれに匹敵する規模の割合で種の絶滅が起こっており、現在人類によって起こされている絶滅の規模とは比較になりません。しかしながら、過去の大全滅においては、さまざまな理由によって起こった空気中の炭酸ガス濃度の急上昇が、気温の急激な上昇を引き起こしており、有効な手を打たなければ今世紀末以降には過去の事例とかなり近いレベルの温室効果ガス濃度急上昇が起こりうるとされています。この本の主題はこの問題に対する警鐘であり、なるべく早く非常に厳しいレベルの温室効果ガス削減が必要であると主張しています。

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四人の交差点 (トンミ・キンヌネン著:新潮クレスト・ブックス)

 トンミ・キンヌネンはフィンランド北部の小都市クーサモ出身で、2014年に発表された本作でデヴューした作家です。訳者あとがきによると、この作品はフィンランド国内で大きな反響を呼び、ベストセラーランキングで13週連続一位となっただけでなく複数の文学賞を受け、さらには舞台化もされたとの事です。
 作者の出身地クーサモをモデルとするロシア国境近くの街が物語の舞台であり、そこに家を建てて暮らす一家の100年に渡る生き様を、祖母マリア・母ラハヤ・息子の妻カーリナという3人の女性とラハヤの夫オンニをそれぞれ主人公とする4つの章に分けて、飛び飛びのある時点の出来事が描かれていきます。主人公が同一であるそれぞれの章内では時系列に沿った出来事が描かれていますが、別の章では再び古い出来事から順に描かれているため、同一の出来事が別々の視点から描かれることもあり、両方の見方を合わせる事によってある事件の真相が明らかになります。ただしマリアとオンニはカーリナがこの家に嫁いでくる以前に死亡しており、カーリナの章の中では彼らが残した遺品や手紙によって過去が語られています。
 四人の人生を結びつける「交差点」としての役割を果たしているのが、建物としての家そのものです。この地域唯一の助産婦として働き続け未婚のまま娘を育てる強い女性であるマリアが建てた家は、彼女の強迫観念に駆られるような建て増しを繰り返して巨大となっていきますが、ソ連との「継続戦争」の戦況悪化によってその地方も戦場と化し、一家が強制疎開させられている間に焼け落ちてしまいます。その後同じ場所にラハヤが再建した新たな家では、今度は彼女が主として君臨しますが、彼女の家への執着と家族への干渉によって夫のオンニや嫁のカーリナは苦しめられていきます。この辺りのラハヤの描写はいわゆる「毒親」そのものであり、どこの国の家族でも同じような問題が起こっているのだと考えさせられます。

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創造された「故郷」 -- ケーニヒスベルクからカリーニングラードへ (ユーリー・コスチャショーフ著:岩波書店)

 ヨーロッパ北部のバルト海沿岸の地図を眺めていると、リトアニアとポーランドの間にカリーニングラード州というロシアの飛び地がある事に気が付きます。ここは嘗ては東プロイセンと呼ばれていた地域の北半分であり、第二次大戦の結果としてドイツ領からソビエト連邦のロシア共和国に併合されました。その時点では連邦の構成共和国単位ではリトアニア共和国によって本土と分断された飛び地だったものの、実質は同じソビエト連邦であり飛び地感はなかったのですが、ソビエト連邦崩壊後には再び真の飛び地となったものです。この本は、カリーニングラード州の東プロイセン時代から現在までの歴史及びその新旧の住民たちについて書かれた一般向け専門書です。なお、カリーニングラード州の州都もまたカリーニングラード市であり、副題にあるケーニヒスベルクは、この街のドイツ時代の名称です。
 そもそも驚いたのが、ソ連の政治家であるカリーニンとこの都市とは実は縁もゆかりもなかった点です。生地であるとか亡命時代にここでカリーニンが活動していたとかいう由来があるのかと思いきや、新たにソ連領となったこの街の名をケーニヒベルクから変更する議論の最中に偶々カリーニンが死亡したために彼の名が付けられたのが真相でした。

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闇の左手 (アーシュラ・クローバー・ル=グィン著:ハヤカワ文庫SF)

 ル=グィンのSF小説中で、「所有せざる人々」と共に最も有名な作品ですが、実は私にとって今回が初読みでした。正直な処、彼女の社会科学系SFはやや苦手としていて、「所有せざる人々」の方は途中まで読んで挫折した記憶があります。今回読んだ感想も、なるほど名作ではあるが読んでいると何だか一々ごつごつと引っかかる感じがして、読み通すのにそれなりの努力が必要な作品というものでした。作品の感想を検索してみると、絶賛しているレヴューの一方で同様に感じている読者もそれなりに居るようです。なお、作品にいささかおどろおどろしいイメージすら与えているタイトルは、作中後半で主人公の一人であるエストラーベンが口にしたトルメルの歌の一節「光は暗闇の左手 暗闇は光の右手。二つはひとつ、・・・」からの引用であり、光と闇とは対立するものではなく表裏一体、さらには一身同体のものである事を表しています。
 古代ハインの遺伝子操作によって作られた両性具有人類の世界である惑星ゲセン(通称「冬」)に、エクーメンへの加入を即す使者として訪れた地球人男性の主人公ゲンリー・アイと、彼が最初に訪れた一方の大国カルハイド王国の宰相エストラーベンの二人が、共にこの作品の主人公です。前半ではエトラーベンの不可解にも思える言動に不信感を募らせてカルハイドを去ったゲンリー・アイは、次に訪れたもう一方の大国オルゴレインでは収容所に送り込まれ死にかけていたときに、故国を追われて亡命していたエストラーベンに救われ、二人で氷原を超えて決死のカルハイド行きを試みます。その過程でアイはようやくエストラーベンの心の内を理解できるようになるのですが、これはまた、「性のあり方」という文化の最も基本となる部分が異なる者間の理解の困難さを象徴しているように思えます。さらに言えば、作中しばしば言及される「シフグレソル」という概念が結局理解できないままなのも、この理解の困難性を示しており、それがまたこの作品の読み難さの原因になっているように思います。以下のレビューにある、「理解」という概念がある種『「上の立場にあることから生じる余裕」という余剰物によってもたらされる、どこか「上から目線の寄与」としての相手に対する押しつけ』といったニュアンスを孕んでいる、という記述が、私の感じた事にかなり近いようです。口の中の腐れ茸:アーシュラ・K・ル=グウィン「闇の左手」を読んで

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