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ロリータ/魅惑者 (ウラジーミル・ナボコフ著:新潮社ナボコフコレクション)

 非常に有名だが、実はあまり読まれていない文学作品というものは結構あります。例えば「ドン・キホーテ」などは、縮約版というか一部を切り取ったものが世間に流布していますが、作品全体を読んでいる人はかなり少ないでしょう。また「フランケンシュタイン」は、「狂気の科学者に創造された怪物が創造者に牙をむく」という部分のみが知られていて、ついにはフランケンシュタインが怪物の名前だと間違えられている始末です。今回取り上げるナボコフの「ロリータ」もまた、そのような作品の一つではないでしょうか。そう思ったのは、この作品から生まれた「ロリータコンプレックス(ロリコン)」という言葉の現在の日本における使われ方の軽さと、この作品の内容とのギャップに今回初めて読んだ私自身も驚いたからです。

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テーマ:読んだ本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

人形 (ボレスワフ・プルス著:未知谷 ポーランド文学古典叢書7)

 以前に紹介した「ラ・レヘンタ」も相当に厚い本でしたが、今回紹介する「人形」はさらにその上を行く厚さの、解説まで含めると1236ページの単行本です。別の翻訳小説の書評をしらべていたときにamazonのお勧めに何度も出てきて気になって図書館で探して借りたのですが、書架での存在感に驚かされました。
 著者のBoleslaw Prus (本名はAleksander Glowacki)は1847年に現在のポーランド最東端にあたるフルビェシェフで生まれたジャーナリスト兼作家であり、この「人形」も1887年から1889年に掛けて新聞連載小説として発表されています。つまり日本で言えば夏目漱石に経歴がかなり似ており、さらに両者の作品の言語が20世紀の両国の国語を育てたと言えるような国民的作家という立場も同様です。
 非常に大雑把な粗筋をまとめてしまうと、理性的で行動力もある平民出身の豪商である主人公スタニスワフ・ヴォクルスキが、零落しかかっている士族(シュラフタ)の娘イザベラ・ウェンツカ嬢を見初めて「恋は盲目」状態に陥るが、遂に決定的な裏切りに逢って目が覚める、というある意味それだけの話です。しかしもちろんそれだけではなく、19世紀後半のポーランドの社会状況とポーランドを取り巻く困難な国際的環境がかなり詳しく物語に取り入れられており、主人公を始めとする登場人物たちの言動や心の動きに現実性を与えています。

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四人の交差点 (トンミ・キンヌネン著:新潮クレスト・ブックス)

 トンミ・キンヌネンはフィンランド北部の小都市クーサモ出身で、2014年に発表された本作でデヴューした作家です。訳者あとがきによると、この作品はフィンランド国内で大きな反響を呼び、ベストセラーランキングで13週連続一位となっただけでなく複数の文学賞を受け、さらには舞台化もされたとの事です。
 作者の出身地クーサモをモデルとするロシア国境近くの街が物語の舞台であり、そこに家を建てて暮らす一家の100年に渡る生き様を、祖母マリア・母ラハヤ・息子の妻カーリナという3人の女性とラハヤの夫オンニをそれぞれ主人公とする4つの章に分けて、飛び飛びのある時点の出来事が描かれていきます。主人公が同一であるそれぞれの章内では時系列に沿った出来事が描かれていますが、別の章では再び古い出来事から順に描かれているため、同一の出来事が別々の視点から描かれることもあり、両方の見方を合わせる事によってある事件の真相が明らかになります。ただしマリアとオンニはカーリナがこの家に嫁いでくる以前に死亡しており、カーリナの章の中では彼らが残した遺品や手紙によって過去が語られています。
 四人の人生を結びつける「交差点」としての役割を果たしているのが、建物としての家そのものです。この地域唯一の助産婦として働き続け未婚のまま娘を育てる強い女性であるマリアが建てた家は、彼女の強迫観念に駆られるような建て増しを繰り返して巨大となっていきますが、ソ連との「継続戦争」の戦況悪化によってその地方も戦場と化し、一家が強制疎開させられている間に焼け落ちてしまいます。その後同じ場所にラハヤが再建した新たな家では、今度は彼女が主として君臨しますが、彼女の家への執着と家族への干渉によって夫のオンニや嫁のカーリナは苦しめられていきます。この辺りのラハヤの描写はいわゆる「毒親」そのものであり、どこの国の家族でも同じような問題が起こっているのだと考えさせられます。

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オレンジ党、最後の歌 (天沢退二郎 著:復刊ドットコム)

 オレンジ党シリーズの最終巻で、三部作が書かれた1980年代からかなり時代を経た2011年に出版されています。この「一旦は完結していると思われていた三部作に、ずっと後に四作目が書かれる」というのは、ル=グィンの「アースシー三部作」と全く同じ経緯で、偶然とは思えない何かを感じます。そしてまた、東日本大震災とそれによる原発事故の影響が明らかにみられるこの作品は、かなり癖があるオレンジ党シリーズの中でも最も政治的主張が強く感じられる「問題作」であり、読者によって好き嫌いが相当に分かれるのではないでしょうか。少なくともはっきりと見えるのは、ここ十年程度の間に特に顕著になってきた日本における一連の政治的・社会的状況に対する著者の強い危機感です。

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ラ・レヘンタ (クラリン 著:白水社)

 スペイン北部に位置するアストゥリアス州の州都オビエドを旅行したときに、大聖堂前の広場の一角に立つかなり目立つ貴婦人の銅像を見ました。
La Regenta
気になって帰国後に調べてみて、この銅像は1884-85に出版されたオビエド(作中ではベツスタ)を舞台とする小説"La Regenta"のヒロインのものであると知り、さっそく図書館で借りてみました。ほぼ800ページある分厚い単行本で、おそらくこのような機会がなければ手に取る事はなかった作品なのですが、読んでみるとなるほど非常な傑作小説で、このような形で知ることができて運が良かったと思います。Wikipediaのスペイン語ページに書かれている「ドン・キホーテ以降のスペイン文学における最も重要な作品」という形容も大げさではないのでは。なお「クラリン」(ラッパの意味)は、オビエド大学の法学教授を務める傍ら文筆活動を行っていた著者Leopoldo Alasのペンネームであり、代表作とされるこの小説以外にも舌鋒鋭い文芸評論や短編小説で知られています。

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