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四人の交差点 (トンミ・キンヌネン著:新潮クレスト・ブックス)

 トンミ・キンヌネンはフィンランド北部の小都市クーサモ出身で、2014年に発表された本作でデヴューした作家です。訳者あとがきによると、この作品はフィンランド国内で大きな反響を呼び、ベストセラーランキングで13週連続一位となっただけでなく複数の文学賞を受け、さらには舞台化もされたとの事です。
 作者の出身地クーサモをモデルとするロシア国境近くの街が物語の舞台であり、そこに家を建てて暮らす一家の100年に渡る生き様を、祖母マリア・母ラハヤ・息子の妻カーリナという3人の女性とラハヤの夫オンニをそれぞれ主人公とする4つの章に分けて、飛び飛びのある時点の出来事が描かれていきます。主人公が同一であるそれぞれの章内では時系列に沿った出来事が描かれていますが、別の章では再び古い出来事から順に描かれているため、同一の出来事が別々の視点から描かれることもあり、両方の見方を合わせる事によってある事件の真相が明らかになります。ただしマリアとオンニはカーリナがこの家に嫁いでくる以前に死亡しており、カーリナの章の中では彼らが残した遺品や手紙によって過去が語られています。
 四人の人生を結びつける「交差点」としての役割を果たしているのが、建物としての家そのものです。この地域唯一の助産婦として働き続け未婚のまま娘を育てる強い女性であるマリアが建てた家は、彼女の強迫観念に駆られるような建て増しを繰り返して巨大となっていきますが、ソ連との「継続戦争」の戦況悪化によってその地方も戦場と化し、一家が強制疎開させられている間に焼け落ちてしまいます。その後同じ場所にラハヤが再建した新たな家では、今度は彼女が主として君臨しますが、彼女の家への執着と家族への干渉によって夫のオンニや嫁のカーリナは苦しめられていきます。この辺りのラハヤの描写はいわゆる「毒親」そのものであり、どこの国の家族でも同じような問題が起こっているのだと考えさせられます。

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オレンジ党、最後の歌 (天沢退二郎 著:復刊ドットコム)

 オレンジ党シリーズの最終巻で、三部作が書かれた1980年代からかなり時代を経た2011年に出版されています。この「一旦は完結していると思われていた三部作に、ずっと後に四作目が書かれる」というのは、ル=グィンの「アースシー三部作」と全く同じ経緯で、偶然とは思えない何かを感じます。そしてまた、東日本大震災とそれによる原発事故の影響が明らかにみられるこの作品は、かなり癖があるオレンジ党シリーズの中でも最も政治的主張が強く感じられる「問題作」であり、読者によって好き嫌いが相当に分かれるのではないでしょうか。少なくともはっきりと見えるのは、ここ十年程度の間に特に顕著になってきた日本における一連の政治的・社会的状況に対する著者の強い危機感です。

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ラ・レヘンタ (クラリン 著:白水社)

 スペイン北部に位置するアストゥリアス州の州都オビエドを旅行したときに、大聖堂前の広場の一角に立つかなり目立つ貴婦人の銅像を見ました。
La Regenta
気になって帰国後に調べてみて、この銅像は1884-85に出版されたオビエド(作中ではベツスタ)を舞台とする小説"La Regenta"のヒロインのものであると知り、さっそく図書館で借りてみました。ほぼ800ページある分厚い単行本で、おそらくこのような機会がなければ手に取る事はなかった作品なのですが、読んでみるとなるほど非常な傑作小説で、このような形で知ることができて運が良かったと思います。Wikipediaのスペイン語ページに書かれている「ドン・キホーテ以降のスペイン文学における最も重要な作品」という形容も大げさではないのでは。なお「クラリン」(ラッパの意味)は、オビエド大学の法学教授を務める傍ら文筆活動を行っていた著者Leopoldo Alasのペンネームであり、代表作とされるこの小説以外にも舌鋒鋭い文芸評論や短編小説で知られています。

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オレンジ党、海へ

 「オレンジ党と黒い釜」、「魔の沼」に続く、「三つの魔法」シリーズの第三話です。オレンジ党の冒険の舞台はさらに広がり、太平洋に面した千葉県外房側の丘陵地が主な舞台となります。
 主人公のルミたちが何度か鳥の幻影を見た直後に、オレンジ党あてに海を臨む丘陵地帯を根城とする「鳥の王」からの助けを求める手紙が幻のような少年によって届けられます。一方で道也の元には、その鳥の王に捕まったという「カモメ」から助けを求める手紙が届き、「鳥の王」と「カモメ」のどちらを信用するべきかオレンジ党だけでなく読者も悩まされることになります。さらには古い魔法の使いてある源先生と配下の西崎ふさ枝のグループや「オレンジ党と黒い釜」にちらりと登場した「緑衣隊」、また「鳥博士」と呼ばれる異端の鳥類学者の石橋幸太郎先生も絡む複雑な構図で、正直なところかなり分かりにくい展開で話が進んでいきます。実は主題となるのは、オレンジ党リーダーである李エルザが、イギリス人の母方の祖母から受け継いだ宝石(正確には宝石そのものではなくそれがもつ不思議な力)の争奪戦であり、「鳥の王」はその力を横取りしようとする僭称者で、源先生グループもほぼ利用されていただけにすぎません。今作のラストでは、緑衣隊の追跡を逃れたオレンジ党は海に旅立ち、以前の黒い魔法との戦いで亡くなったそれぞれの両親に(彼岸の国で)再会したらしい事が暗示されています。彼らの乗る船の船長として名が出てる「金船長」は、オレンジ党シリーズの前作である短編集「闇の中のオレンジ」に登場する人物のようです。

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魔の沼 (天沢 退二郎 著:筑摩書房)

 少し前に紹介した「オレンジ党と黒い釜」の続編で、「三つの魔法」シリーズの第二話となります。実はこのシリーズの作内時間は第一話から第四話までを通してある年の4月から11月までのわずか半年程度に過ぎず、この「魔の沼」は「オレンジ党と黒い釜」から2か月ほど経った7-8月頃、小学校の一学期が終わり夏休みに入った頃の話となります。オレンジ党の本来のメンバーである6人の小学校6年生のうち、名和ゆきえが遠くの施設に預けられて姿を消し、その代わりに中学生の田久保京史が準メンバーのような形でオレンジ党と共闘しています。「オレンジ党と黒い釜」では基本的にとき老人の導きに従って行動していたオレンジ党ですが、とき老人が姿を消したこの話では彼ら自身で遭遇した出来事の意味を考え、この先に何が起こるのかを予想して行動する必要に迫られ、特に李エルザのリーダーシップが際立ってきます。前話では六方・千早台両小学校の近辺が中心だった冒険範囲もより広がり、新たに登場した地名から舞台のモデルが現在の千葉市北部から印旛沼の辺りであるのがはっきりとしてきました。恐らく現在ではすっかり住宅街となっているはずですが、この物語の想定されている時代(1950-60年頃)は実際にこのような半田舎の風景が広がっていたのでしょう。

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