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パラークシの記憶 (マイクル・コーニイ著:河出文庫)

 先日紹介した「ハローサマー、グッドバイ」の続編、あるいは前作で残っていた様々な疑問に対する解決編です。
 物語の舞台は「ハローサマー、グッドバイ」の惑星で、前作から恐らく数千年後、主星と巨大惑星ラックスとによる惑星の取り合い周期のちょうど1サイクル後の年に、主人公の少年と一族の長であるその叔父との対立を描きながら、再び訪れようとしている40年の「大凍結」への対処がより大きなテーマとなっています。もちろん、惑星の特殊な天文学的条件は前作に引き続き大きなポイントですが、一方で前作とは二つの大きな設定の違いがあります。
 一つは、主人公たちの種族には自らの先祖の記憶を遺伝的に保持する能力があるという、前作ではまったくなかった設定です。正確に言うと、男性は自分の父親が自分を受精させるまでの記憶をそのさらに祖先の記憶も含めて引き継ぎ、同様に女性は自分の母親が自分を妊娠するまでの記憶を引き継いでいます。この設定によって、自分の生まれる前の過去に起こった出来事も祖先の視点から正確に思い出す事ができ、その結果現在直面した出来事に対して祖先がどのように対処したのかを倣う事ができます。そのため種族の社会的風習は非常に安定的に保持される一方で、新しい発想はほぼ生まれない非常に保守的な社会となっています。恐らくその理由で科学技術レベルは前作の世界よりもかなり退化していて、内燃機関による自動車は非常な貴重品であり、内陸と海辺との集落とはほぼ分断され交流がほとんどない状態です。また、遠い昔になればなるほどその記憶を想起するのは困難になるため、前作の主人公だったドローヴとブラウンアイズは遥か昔の危機を救った伝説の恋人としてのみ記憶され、彼らの具体的な行動はほとんど知られていません。
 もう一つの違いは、地球とは異なるこの惑星にすでに地球人が到達していて、原住民と一定の交流がある点です。この世界における二大宇宙航行種族の一方である地球人は鉱物資源を採掘するために数世代前からこの惑星に少人数ながら駐屯しており、原住民への限定的な物資・技術援助も行っています。ただ両者の関係は必ずしも良好ではないようです。もし「ブロントメク!」と共通の世界での作品であるなら、駐在しているのはヘザリントン機関の代表者なのかもしれません。また、地球人の科学技術レベルは原住民よりはるかに高いもののこの惑星に関する知識は限定的であり、主星・ラックスによる惑星の取り合いという数千年周期の現象に関しては、物語開始時点では気が付いていないようです。

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ハローサマー・グッドバイ (マイクル・コーニイ著:河出書房)

 以前に紹介した「ブロントメク!」と同じ作者の長編SFで、やはり地球とは天文学的条件の大きく異なる惑星での生態系を扱うと共に、ドローヴとブラウンアイズという若い恋人たちを主人公とする青春小説でもあります。piaaさんがブログで絶賛していたので私も読んでみましたが、なるほどSFとしてはやや粗いものの、非常に面白い作品でした。
 舞台となる惑星には地球人によく似た原住民が生活していますがこの時点では地球とは接点がなく、彼らは地球からの植民者の末裔などではなく、この惑星で独自に生まれた種族です。この作品の続編となる「パラークシの記憶」では、同じ惑星の恐らく1000年以上後の出来事を描いており、そちらでは地球人が舞台の惑星に到達しているのですが、「ブロントメク!」と共通する世界なのかははっきりしません。正直なところ、この「ハローサマー・グッドバイ」で残された謎の多くが続編の「パラークシの記憶」において解決されることになるので、こちらだけ単独でレビューを書くのはやや難しく感じます。そのため以下では主に舞台となる惑星と生態系について記載しておきます。

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バベル-17 (サミュエル・R・ディレーニー 著:ハヤカワSFシリーズ)

 以前に紹介した「ベータ2のバラッド」の作者の代表作です。実は学生時代から作品名は知っていたものの、どうせニューウェーブ系作品は訳が分からないだろうと敬遠していたため実際に読んだのは今回が初めてとなります。事前の想像(というより偏見)に相違して「美女艦長が率いる宇宙船の、異形のエイリアン(実際には肉体改造をした人類)を交えたクルーの冒険」という典型的なスペース・オペラの形式を持ちながら、ニューウェーブSF特有のアイディアが主題となっている不思議な作品でした。
 主題となるインベーダーの謎の通信「バベル-17」とはどうやら人造言語であり、それも通常の言語ではなくむしろコンピュータ言語に近いものと思われます。それは「私」(一人称単数)の概念が存在しない言語であるとか情報伝達速度が非常に速いという点だけでなく、それを受け取った相手の人格を乗っ取って思い通りに行動させるというコンピュータウイルスを連想させる能力に現れており、それを武器として用いるというアイディアは現在を先取りしている感があります。また登場する宇宙船の管制システムも海軍の戦艦を模した古典的スペースオペラのそれとはかなり異なり、三名の航宙士の精神的な繋がりやさらには肉体的には死亡した「霊体人」のクルーが重要な役割を持つなど、いかにもニューウェーブ的なものになっています。

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ブロントメク! (マイクル・コニイ著:サンリオSF文庫)

 マイクル・コニイは1932年に英国のバーミンガムに生まれ、処女作を発表したのが1968年というかなり遅咲きのSF作家です。所謂ニューウエーブ系の作家の一人として主に70年代に活躍し、この「ブロントメク!」も1976年の作品です。なお、1972年にカナダのバンクーバー島に移住しており、2005年にブリティッシュコロンビア州でなくなっています。以前に紹介した「恋人たち」で触れたpiaaさんのブログレヴューで、この作品が「恋人たち」と似てると書かれており、興味を持って読んでみました。なるほど、特に作品のポイントとなる無定形生物「アモーフ」が恋人たちのラリサと重なっており、また舞台となる惑星アルカディアが銀河規模の超巨大企業ヘザリントン機関に惑星ごと買収されてしまう原因となった惑星の生態系描写なども含めて、確かに「恋人たち」を思わせます。この惑星の生態系はSFとしても非常に魅力的な題材で、この作品自体ではそれほど展開に関係しないのですが、1973年に書かれた本作の前日話 "Syzygy"で主題として使われているようです。
 ところでこの「ブロントメク」という作品名は、作中に登場する半自律型巨大トラクターの名前から取られています。実のところ同じくヘザリントン機関がアルカディアに持ち込んだアモーフの方がはるかに作品の展開に直接関係しているので、ブロントメクの方をタイトルとしているのはやや奇妙な感じがしますが、惑星全体を買収した巨大企業が住民の意思など意に介せずに力ずく金ずくで開発を推し進めるその象徴としての巨大トラクターの大群と考えると、確かにこちらの方が作品名にふさわしいのかもしれません。これはまた、現在の日本でも沖縄や原発の集中立地する過疎地域で普通に見られる構図です。
以下の追加部分はネタバレとなります。

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人間以上 (シオドア・スタージョン著:ハヤカワ文庫SF)

 以前に紹介したヴィーナス・プラスXの著者シオドア・スタージョンの代表作で、1952年に発表された中編「赤ん坊は三つ」に主人公がそれぞれ異なる前・後編「とほうもない白痴」と「道徳」を加筆して一つにまとめ、1953年に出版されたのがこの「人間以上」です。そのためか作品全体としてのまとまりがやや悪い印象を受けました。特に他者の意思や記憶を操作する能力を持つ主人公ヒップ・バロウズと精神科医スターンとの会話の形式をとる「赤ん坊は三つ」はストーリーが追い難く、これが単独で発表された時点では理解できない読者が多かったのではという気がします。この作品自体が、ヒップの記憶抑制の謎と彼の能力の恐ろしさを描いているが解りにくい「赤ん坊は三つ」に、ホモ・ゲシュタルトの誕生までを描く「とほうもない白痴」と、善悪を考えずに無批判に自分たちの能力を使おうとするヒップを「頭」とするホモ・ゲシュタルトに善悪の概念を与える者が加わり正しい者となる「道徳」が加わって、一つの作品となっている訳で、不完全な能力者たちがまとまって完全なホモ・ゲシュタルトとなるというテーマを体現しているようにも思えます。

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