ヘルハウンド・プロジェクト (ロン・グーラート著)

 所謂「米文学」には含まれないパルプフィクションやアメコミなどのサブカルチャー系では、昔から「もしアメリカが独裁国家となったら」というテーマの作品が書かれていました。以前に紹介したジャスティスリーグの「より良き世界」やそこから始まるカドムスアークものなどはその一例です。これまではそれらはあくまでも「うっかり間違うとこうなってしまうよ」という警告に過ぎなかったのですが、ここ数週間のアメリカやさらには日本の状況を見るにつけ、「マンガが現実と化す」事が本当に起こりつつあると感じています。今回取り上げる「ヘルハウンド・プロジェクト」もまさにそういった作品の一つです。
 この作品は新潮文庫の「クリスマス13の戦慄」という短篇集に収録された中編SFで、他の収録作と比べて特に印象に残っています。この短編集には作者紹介がないため名前の正しい綴りすらわからず、以前に行った日本語表記での検索でも何も分からなかったのですが、この記事を書くために再度検索して見つけた記載を基にして英語綴りで再度検索した結果、英語版のWikipediaの記事を発見しました。Ron Goulart
この記事によると別名で書いていたアメコミ作家としての方が有名なようで、なるほどだからこそのこのテイストなのでしょう。この主人公とヒロインによる続編シリーズがあっても不思議ない気がしますが、残念ながら彼の小説作品はほぼ翻訳されていないようです。

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狂った致死率 (トマス・L・ダン著:ハヤカワ文庫NV)

 かなり以前に読んだ本で、数年前の時点では「感染症の世界的大流行(パンデミック)によるパニック」というテーマが(その当時の)今日的だったのですが、米トランプ政権が発足して二週間という現時点ではむしろ、「妄想に取りつかれた超大国の大統領による核戦争の危機」という方がより今日的です。この作品はどう見てもSFに分類されるべき内容なのに、どういう訳かハヤカワ文庫ではSFではなく一般小説(NV)に分類されています。正直なところ、SFの定義自体がきわめて曖昧であるという点を考慮しても、ハヤカワ文庫のSF, FT, NV等の分類基準には首をかしげる点が多いです。
 本来伝染病ではないはずの癌の発生率が西側世界で異常に上昇し、統計操作までしてその事実を隠そうとする米厚生当局vs民間科学者との攻防という序盤の展開が、すでにトランプ政権の「もう一つの事実」を思わせますが、西側諸国での癌の大流行が明らかになってからが本物の政治的危機となります。元々はテレビの売れっ子だったタレント教授であり、その任に堪える能力がなかったのにメディアによってその地位に押し上げられた米国大統領は、この未曾有の危機に愛娘の癌発病という個人的試練も重なり、段々と妄想に囚われていきます。その結果、米国での癌の大流行がソ連による生物兵器攻撃によると断定して核による報復への道を突き進んでいくという展開は、もしかするとトランプ政権下の米国の近未来を描いているようにも思えてきて、所詮SF小説で現実とは違うとばかりは言っていられなくなります。少なくとも、就任後わずか二週間程度で国内外をここまで大混乱に陥れたトランプ大統領が、あと四年間その職を続けてまったく想定できないような事態に直面したとき何が起こりうるのか、という問への一つの答えがこの小説に描かれているように思えてなりません。

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イシャーの武器店 (A.E.ヴァン・ヴォークト著:創元推理文庫SF)

 私の子供時代にタイトルは見ていた作品ですが、読んだのは今回が初めてとなります。作者のヴァン・ヴォークトはSF黄金期を支えたカナダ出身(ただし後に米国籍)の大作家で、デヴュー作「宇宙船ビーグル号の冒険」や「スラン」が特に有名です。今回取り上げる「イシャーの武器店」は日本では後に出版された「武器製造業者」との二部作を成すという事は昔から認識していましたが、解説によると実は「武器製造業者」の方が先に(1947年)書かれておりそちらが本編で、1951年に書かれた「イシャーの武器店」は外伝に近い作品のようです。
 物語の最初に登場して未知の世界に投げ込まれる20世紀の新聞記者マカリスターがてっきり主人公かと思って読み進めるとさにあらず、実際の主人公はケイル・クラークとイシャー帝国の女帝イネルダであり、さらに彼らの行動を操っているシリーズを通しての主人公は武器店の創設者である不死者ヘドロックという奇妙な構成の作品で、マカリスターは時間振り子の一方の錘としてとてつもない未来と過去とを行ったり来たりする役割しか果たしていません。もちろんラストの一行で彼の行為が物語世界のすべてを作っている事が判るのですが、それは半ばメタな話で実際の話には一切かかわってきません。

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銀河の間隙より (ランドル・ギャレット著:ハヤカワ文庫SF)

 ずっと以前の中学か高校生時代に一度読んで印象に残っていたSF作品ですが、今回再読してみたところ記憶にない部分が多く、覚えていたのは展開の一部のみだった事を知りました。「銀河の間隙より」という邦題は侵略ものSFの半数くらいには当てはまるのではないかと思えるほどありきたりで、原題の"Anything You can do..."(きみにできるあらゆること)をそのまま生かすべきだったのでは。著者のランドル・ギャレット(ただし発表時のペンネームはダレル・T・ランガート)は魔術が支配するパラレルワールドでの推理小説「ダーシー卿」シリーズが有名な米作家で、内容的には相当に科学的・社会学的考察のしっかりしたSF作品です。

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ラブスター博士の最後の発見 (アンドリ・S・マグナソン著:創元SF文庫)

 昨年新聞の書評で見て記憶に留めていたアイスランド作家のSF小説ですが、さらにpiaaさんのレヴューを読んで購入を決めました。作品自体は良かったのですが相当久しぶりに文庫本を購入したので、通常の厚さの文庫本が本体価格1000円とはいつの間こんなに本が高くなっていたんだろうとびっくりしました。また、裏のカバーの紹介文「優しくてちょっと奇妙な・・・」は、piaaさんも書かれている通り何だかずれているように思います。以前に紹介した「すばらしい新世界」や「1984年」が20世紀のディストピア小説なら、こちらはビッグデータが支配する21世紀のディストピア小説というべきでしょうか。
 現実世界でamazonで買い物をするとしつこい「関連商品」の広告に悩まされるのは、顧客の買い物情報を蓄積したビッグデータの解析によってamazonが推測した「次に買いそうなもの」を勧めてくる仕組な訳ですが、ビッグデータ解析が究極まで進んだ世界がどうなるのかというのが、この作品の一方のテーマです。ショッピングサイトが蓄積しているのは(本当にそれだけか疑いの余地はあるものの)公式には自社サイトを通した買い物データだけですが、インターネット関連の全ての事業を傘下に収める巨大企業グループが成立し、生体に埋め込まれた端末や超小型監視装置によって個人の全ての行動データを蓄積・解析する事が可能になったとき、個人はもはや自由意志で行動する事は出来ず、「あなたにとって最適」という形で強制された生活を送るようになるこの作品世界は、決して現実味のないものではありません。すでに現実のものになったウェアラブル端末や、「公共の安全」という大義名分によってすっかり受け入れられている街中の監視カメラがさらに進歩していけば、技術的には十分にあり得る近未来図です。
 他方で「世界中の祈りの行き先」や「ラブゴッド」にまつわる部分はかなり幻想的な展開であり、また「インラブ」によって引き裂かれたインドリティとシグリッドの試練と遍歴は深刻でありながらどこかユーモラスです。インラブがシグリットの「運命の人」と計算したペル・ムラの正体がシステムをハックしたストーカーだった展開はかなりぞっとしました。

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