FC2ブログ

エドガルド・モルターラ誘拐事件 -- 少年の数奇な運命とイタリア統一 (デヴィッド・I・カーツァー著:早川書房)

 題名から想像するような推理小説ではなく、副題から解るように19世紀のイタリア統一に大きく影響を与えながらその後忘れ去られたある事件に関する歴史ノンフィクションです。キリスト教徒の召使によって両親に内緒で洗礼をされたユダヤ人の子供が、それを知った教会によって強制的に親元から引き離されキリスト教徒として育てられる、という現代の感覚では考えられない事例は、19世紀のローマ教皇領で何度も起こっており、ボローニャに住む9歳のエドガルド少年の事件もその一つでした。しかしこの事件が起こった1858年は、ローマ教皇の権威が失われオーストリアやフランスなどの周辺大国の軍隊によってその領土をようやく保っている時期だったため、両親を始めとするユダヤ社会による訴えにそれまでになく国内外での世論が沸騰して、それをきっかけとして歴史はサルディーニャ王国による教皇領の併合と最終的なイタリア統一へと進んでいきます。しかし一方で、教皇ピウス9世自らによりカソリック教育を受けたエドガルド少年自身はついに親元には戻らず、成人後はヨーロッパ中で布教を行う神父として活動しています。
 実はこの事件について私はこの本を読むまで全く聞いたことがなく、さらに読後にイタリア統一に関してネットで調べてみても全く記載がありませんでした。当時は国際世論を大いに騒がせたこの事件ですが、あとがきによると現在ではイタリア史においてもほぼ忘れ去られているようです。カソリック教会が自らの黒歴史であるこの事件を可能な限り忘却させたいのは当然として、ユダヤ教徒側でもほぼ忘却された理由に関しては、「エドガルド少年がユダヤ教と家族を捨てカソリックを受け入れた事が、ユダヤ教のキリスト教に対する敗北で民族の恥とみなされた」という著者のあとがきによる考察が的を射ているように思います。

続きを読む»

スポンサーサイト

テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

サルは大西洋を渡った -- 奇跡的な航海が生んだ進化史 (アラン・デケイロス著:みずず書房)

 ダーウインの逸話に登場するガラパゴス諸島のそれぞれの島での固有種進化がその例であるように、比較的相互の距離が近い陸地間では元々の生物種が別々の陸地に拡散し、お互いに個別に進化してやがて別々の種が生まれるというシナリオは、進化論が定説になって以降は普通に受け入れられてきました。特に問題となる生物種が長距離飛行可能な鳥などの場合は、お互いの距離がかなり離れていても移住が可能であり、その結果かなり離れた場所で同じ祖先種から進化した別種が進化する事も十分にあり得ると考えられます。一方で、空を飛んだり長距離を泳げない陸上動物はそれとは異なり、距離が近い島はともかく数百km離れた島には人為的手段を除けばたどり着く事が出来ないと考えられてきました。常識的に考えても、自分で船を造る事のできない人間以外の陸上動物が海を渡るには自力で泳ぎ切るか浮遊物に乗って偶然たどり着くしかなく、ある程度以上の餌や水が必要なサイズの陸上動物が長距離航海するのはほとんどあり得ないと考えられます。しかしながら「ほとんどあり得ない」というのは地質年代レベルの時間単位で考えたときには必ずしも真実ではなく、実際に過去にはそれが何度も起こっていたというのが、今回紹介する本の主張です。

続きを読む»

テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

プーチンの国 -- ある地方都市に暮らす人々の記録 (アン・ギャレルズ著:原書房)

 1990年のソ連崩壊後に民主化へと向かうかと思われたロシアは、2000年のプーチン大統領就任以降再び抑圧的な権威主義に覆われ、政治面ではソ連時代に戻ったかのような状態が続いています。クリミア半島併合やウクライナ紛争への事実上の軍事介入などに対する欧米諸国の度重なる制裁による経済状況の悪化によって「今度こそプーチン支配は揺らぐのでは」という希望的観測とは裏腹に、ロシア国内でのプーチン支持率はむしろ上昇して国内政治基盤が盤石となっているのはなぜなのかを、ロシアの地方都市チェリアビンスクに住む人々の暮らしから探った本です。著者のアン・ギャレルズは嘗てTVネットワークABCのモスクワ支局長を務めたジャーナリストで、1982年に「ペルソナノングラータとしてソ連を強制出国させられた経験がありますが、ソ連崩壊後の1993年からモスクワとは異なる真のロシアを代表する地方都市として無作為に選んだチェリアビンスクを2015年まで定期的に訪問してこの本を書きあげています。
 無茶苦茶な言動を繰り返し国内外に混乱をもたらしている米トランプ大統領が、政権発足から一年経っても公約をほぼ実行できていないのにも関わらずなぜその支持率がほとんど下がらないのかを、彼の支持基盤であるラストベルトに入り実際の支持者から取材調査した書籍や記事は日本でもいくつか見られますが、それ以上に盤石の支持率を誇る露プーチン大統領が、どのような理屈で支持されているのかを解説している本はあまりなく、その点で非常に貴重な内容です。

続きを読む»

テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

幻の国を売った詐欺師 (ディヴィッド・シンクレア著:清流出版)

 いつの世にもまたどこの国でも世間を騒がす詐欺事件というものは存在しますが、ここまで壮大な詐欺はさすがに珍しいでしょう。今回紹介するのは、どこにも存在しない国の国債や土地を大々的に売り出し、さらにはその幻の国に植民者を送り込んで多数の死者を出した、という19世紀英国における驚くべき詐欺事件について、その主犯の生涯も含めて詳しく紹介したドキュメント本です。新聞の書評に惹かれて少し前に読んだ「世界をまどわした地図」でこの詐欺事件について初めて知りました。
 主人公の詐欺師グレガー・マグレガーはスコットランドの名門一族の端くれとして生まれ、士官として軍隊に勤務するものの生来の虚飾癖と怠け癖によってどこでも周囲と衝突しては飛び出し、各地を転々としていました。その中で南米に渡った彼は、やがて現在のホンジュラスからニカラグア北東部の海岸部に新たに独立したというポヤイス国の支配者を名乗りロンドンに登場します。当時のイギリスではスペインから次々と独立した中南米諸国の国債が大々的に売りだされ、素人も含めて多くの人が争って買い求めていました。そのような状況下、堂々とした押し出しの「ポヤイス公」自らが宣伝したポヤイス国債もまた順調に売り出されます。さらにポヤイス公は、単なる労働者だけではなく新独立国の官吏を始めとする上流階級の移民も土地付きで募集し、それに応じた多くの人々がチャーターされた船に乗ってポヤイス国の首都に向けて出発しました。ところが彼らが到着した場所は、首都どころか集落すら存在しない原野で、帰国の手段もないままそこに放り出された人々は飢えや病気に苦しみ、ベリーズからの船によって偶然発見されて救出されるものの最終的に百人以上の死者を出す惨事となりました。

続きを読む»

テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

誰がネロとパトラッシュを殺すのか -- 日本人が知らないフランダースの犬 (アン・ヴァン・ディーンデレン/ディディエ・ヴォルカールト編著:岩波書店)

 「フランダースの犬」はイギリスの女流作家ウィーダ(Ouida)によって1872年に書かれた短編小説ですが、恐らく多くの日本人はこの小説そのものではなく、1975年に放送されたアニメとして知っていると思います。実際、私自身今回紹介する本を読むまでは、ウィーダの名をまったく知りませんでした。なおウィーダは彼女のペンネームであり、本名はMarie Louise de la Raméeです。彼女はその当時は非常に売れっ子の作家であり、イギリスだけでなく他のヨーロッパ諸国の上流階級とも派手に付き合っていたのですが、晩年は財産を失い1908年にイタリアのヴィアレッジョ近郊の村で孤独な死を迎えています。
 この本は、原作小説とハリウッドでの映画化、そして日本でのアニメそれぞれを比較して、特に日本でなぜ「フランダースの犬」が大々的に受け入れられ、それが現在のフランダース地方(ベルギー北部)にどのように影響したかを論じた学術研究書です。主著者のディーンデレンとヴォルカールトは共にフランダース人であり、この件に関するドキュメンタリー映画「パトラッシュ、フランダースの犬 -- メイド・イン・ジャパン」を作っています。

続きを読む»

テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

プロフィール

X^2

Author:X^2
このブログは、旧ブログ
Babylon5以外のメモ
からの移転先として立ち上げました
。連動するホームページである
Babylon5 Episode Guide
にもどうぞ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
リンク