誰がネロとパトラッシュを殺すのか -- 日本人が知らないフランダースの犬 (アン・ヴァン・ディーンデレン/ディディエ・ヴォルカールト編著:岩波書店)

 「フランダースの犬」はイギリスの女流作家ウィーダ(Ouida)によって1872年に書かれた短編小説ですが、恐らく多くの日本人はこの小説そのものではなく、1975年に放送されたアニメとして知っていると思います。実際、私自身今回紹介する本を読むまでは、ウィーダの名をまったく知りませんでした。なおウィーダは彼女のペンネームであり、本名はMarie Louise de la Raméeです。彼女はその当時は非常に売れっ子の作家であり、イギリスだけでなく他のヨーロッパ諸国の上流階級とも派手に付き合っていたのですが、晩年は財産を失い1908年にイタリアのヴィアレッジョ近郊の村で孤独な死を迎えています。
 この本は、原作小説とハリウッドでの映画化、そして日本でのアニメそれぞれを比較して、特に日本でなぜ「フランダースの犬」が大々的に受け入れられ、それが現在のフランダース地方(ベルギー北部)にどのように影響したかを論じた学術研究書です。主著者のディーンデレンとヴォルカールトは共にフランダース人であり、この件に関するドキュメンタリー映画「パトラッシュ、フランダースの犬 -- メイド・イン・ジャパン」を作っています。

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生命の星の条件を探る (阿部 豊 著:文藝春秋)

 1995年のPeg51を巡る太陽系外惑星の発見以降、多くの系外惑星が観測されるようになり、その大きさも木星あるいはそれを上回る質量の巨大惑星から海王星レベル、そして最近は地球と同程度の惑星までが次々と発見されるようになりました。当然の事として、そのような系外惑星に生命が存在するか、少なくとも生命が存在し得るかという疑問が、現実的な科学的問題となってきています。ここで取り上げたのは、最近の系外惑星観測や惑星系形成理論の進歩を取り込んで生命を育める惑星の条件を考察した、非常に面白い本です。
 「惑星表面に液体の水が永続的に存在し得る」という条件自体は、恒星周囲のハビタブルゾーンとしてよく知られた基本的な話ですが、この本によればさらに、単に海が存在すればよいのではなく生命現象を支える元素であるリンの供給場所として大陸が必要であり、そのためにはむしろ水の量は少ない方が良い、と結論されており、これはかなり意外でした。指摘されてみると確かに、地球全体に占める水の割合は極めて少ないのにその表面は7割が海に覆われている訳で、惑星の構成物質に含まれる水の量の少しの差で海惑星になるか陸惑星になるかが変わってくる事になります。また惑星の大きさも、大気を保持できるために下限が必要なだけでなく、スーパーアースもあまり良くないと述べられており、その論拠もなるほどと感じました。大きな地球型惑星はそれだけ表面重力が大きく、さらに内部の熱が逃げにくいため地殻の岩石が柔らかい、そのため地形の凹凸が小型惑星より小さくなって一面の海惑星になりやすいという理屈です。
 もちろんこの本での議論はすべて、地球上の生物とある程度似た生物の発生と進化を前提としており、それと大きく異なる生命については考慮されていません。しかし例えば非炭素系生物や、水以外の液体に依存する生命に関しては、少なくとも現時点では科学ではなく純粋SFでしか議論できない状況なので、仕方ないでしょう。

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偉大なる失敗 -- 天才科学者たちはどう間違えたか (マリオ・リヴィオ 著:早川書房)

 ダーウィン、ケルヴィン、ポーリング、ホイル、アインシュタインというそれぞれの時代・分野を代表する科学者たちの犯した学術上の過ちとその原因について詳しく考察したノンフィクションです。取り上げられている5人のうちダーウィンとアインシュタインは説明不要でしょう。、ケルヴィン(本名はウィリアム・トムソン)は特に熱力学分野でさまざまな法則を発見した19世紀を代表する物理学者、ライナス・ポーリングは化学結合の本質を解明し、化学賞と平和賞で二度のノーベル賞を受賞した化学・生化学者、そしてフレッド・ホイルは恒星内での元素合成理論の基礎を築いた天体物理学者です。ただし、フレッド・ホイルに関しては、上に書いた業績よりもむしろビッグバン宇宙論のアンチテーゼである定常宇宙論の提唱者としての方がはるかに有名で、これが「偉大なる失敗」の一つとして正に取り上げられています。

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考古学崩壊 -- 前期旧石器捏造事件の深層 (竹岡 俊樹 著:勉誠出版)

  2000年11月に明らかになった「前期旧石器時代」の石器捏造事件の告発者が、事件によって壊滅的打撃を受けた日本の考古学界がどのように反省し何を学んだか、というより事件から14年間の間何も反省せず何も学ばなかった事を糾弾している著作です。ここで告発されている内容が真実なら、日本の考古学は学問ではない、少なくともまともな学問とは言えないでしょう。
 考古学会による事件の検証は「自分たちは非常に巧妙な手口の詐欺によって騙された被害者である」という主張に終始しているのですが、一方でその捏造を行った「詐欺師」である藤村新一氏自体は考古学の基本的な知識も持たない無知で純朴なアマチュアであったとも強調しています。常識的に考えてもこの両方の主張はつじつまが合わず非常な無理を感じるわけで、そのため一部では別に捏造の黒幕が居て、藤村氏は黒幕に言われるままに動いた操り人形であるという陰謀説が唱えられるほどでした。実際には、在野のアマチュアである藤村氏は学会の権威たちと同等の知識を持っており、だからこそ彼らを騙すためのポイントをしっかり抑える事ができたというのが著者の主張であり、学会の検証結果に比べてはるかに説得力があります。そう考えれば、自分たちの目が本物の石器と偽物とを見分ける事の出来ない節穴であり、自分たちのレベルは在野のアマチュアと同等であるという非常に不都合な事実を認めたくないが故の責任逃れの結果、学会の検証はあのような内容になったという事になります。 藤村氏が偽造を行ったのも、「学会で崇められている権威者たちは実際には石器について何も知らない無能ぞろいで、在野の自分の方がはるかに石器に関する知識があるのに、学歴がないために馬鹿にされているのは我慢できない」という鬱屈した感情から来た一種の復讐であったと考えれば納得がいきます。

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経済政策で人は死ぬか? -- 公衆衛生学から見た不況対策 (デヴィッド・スタックラー&サンジェイ・バス共著:草思社)

 少し前に新聞の書評を読んで興味を持った本を図書館の新着コーナーで見つけ、早速借りてきました。金融恐慌などの大不況時におけるいろいろな国で取られた対策がどのように作用したのかを検証した、かなり本格的な内容の本なのですが、その割にはかなり読みやすく、2-3日で読み終わる事が出来ました。これまで、現在の日本の財政状況から見る限り消費税の10%さらにそれ以上の再増税は必要で避けられないと考えていたのですが、その意見を変えるべきかもしれないとこの本を読んで思い始めています。

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