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ゼロ・シティ (Город Зеро)

 かなり以前に一度観た1988年製作のソビエト-ロシア映画ですが、改めてビデオで観る事ができました。以前に観たときもソ連社会に対する風刺はそれなりに理解していたつもりでしたが、今回久しぶりに観るとまた色々と見えてくるものがあり、ソビエト崩壊前後の混乱を風刺するシーンが満載だったと気がつきました。こちらに日本語のポスターがあります。ゼロシティ
また、粗筋はこちらのページの中ほどをご覧ください。ruscinesummary

 主人公の技師ヴァラーキンが工場に行き着いたとき、訪問者名簿に名が無かったまでは、(特にソビエト-ロシアでは)普通にありそうな展開ですが、工場長のオフィスで女性秘書が全裸でタイプを打っているシーンから、一気に異常世界へと踏み込んで行きます。ヴァラーキンにそれを知らされた工場長も、「本当に?」と言ってわざわざ確認するのですが、その後まるで気に留めていない様子です。これ以後「どんな異常な事が起こっても驚くべきではない」と言う事を(ヴァラーキンにも観客にも)伝えているかのようです。
 工場長とその秘書とのやり取りから、ヴァラーキンと会うはずの工場の技師は既に死んでいて後任も居ないという事が判明し、訪問の意味を失った彼はとりあえず昼食のために町のレストランに入りますが、ここからカフカを思わせる不条理の世界に入り込んでゆきます。いきなり自分の頭そっくりのケーキを食べるよう迫られ、それを拒否するとシェフが自殺してしまい、警察で事情聴取されるはめになります。何とか解放され、モスクワに帰ろうとするヴァラーキンですが、駅の窓口では切符を売ってくれません。仕方なくタクシーで隣の駅に向かうものの途中で降ろされ、奇妙な地下歴史博物館に迷い込んだり、子供に「あなたは永遠に町から出られない」と予言されたりします。
 この歴史博物館の展示が、ある意味「ソビエト連邦」を象徴する内容です。姿を消したローマ軍団が町の起源とする最初の展示は、アネクドートネタにもされる「ロシア人が世界中のあらゆるものを発明、発見した」とするソビエト時代の公式見解を連想します。またそれ以降特に近代に関する展示は、歴史上の有名人物、事件とこの町とが微妙に関係していると主張する、真実性が疑われるものばかりです。そして途中の展示にある、町で始めてロックダンスを踊ってコムソモールを追放された男こそ、自殺したコックであるニコラエフの若き日の姿でした。
 結局再度の取調べのために町に戻されたヴァラーキンは、検事からニコラエフの息子という事にされてしまい、とにかくそのように振舞うように命じられます。そして年齢的にも辻褄が合わないにもかかわらず、町の人たちもそれを受け入れ、ニコラエフの偉業を記念するロックダンス大会で挨拶をさせられたり、ニコラエフと共にダンスを踊ってコムソモールを追放された彼の恋人が尋ねて来たりと、「ニコラエフの息子」というレッテルに振り回され、自分自身のアイデンティティがあいまいになってゆきます。この辺りは、ソビエト崩壊後のロシア人の思いを象徴しているように思えます。
 また、ヴァラーキンを取り調べた検事スマロージノフは、嘗ての事件でニコラエフを追放したコムソモール書記でもあり、ソビエト旧体制を象徴する人物です。ロックダンス大会での自殺未遂の末の醜態は、ソビエト連邦末期の保守派による「8月クーデター」を連想させます。嘗ての影の実力者も、現在は妄想に囚われた変人であり、市長からもむしろ哀れみの視線を投げかけられるような存在と化しています。最後に彼がヴァラーキンに「行ってよい」と告げるシーンは、自分の時代が終わった事を遂に悟り、それを受け入れた事を示しているのでしょう。しかしそのヴァラーキンがボートに乗って向かう先は霧に包まれ、何も見えてきません。これもまた、ソビエト崩壊後の先の見通せないロシアを象徴しているように思います。

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