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酷い翻訳についての考察

 ネット上でかなり話題となっている、機械翻訳そのままが出版された事件について、幾つか思う事を書きます。事件の概要と、その「悲惨な翻訳結果」自体は、以下の記事が参考になります。
悲惨すぎる翻訳-『アインシュタイン その生涯と宇宙』
悲惨すぎる翻訳-続報
 なぜこのような状態の翻訳がそのまま出版されてしまったかは、おそらく上の「続報」の考察がかなり的を射ていると思います。指摘されている通り、倫理観の長年の麻痺により、超えてはならない一線を越えてしまったというのが直接的な説明なのでしょうが、ここでは別の点を指摘したいと思います。

 ネットでの機械翻訳は、特に海外のホームページなどの内容をとりあえず知りたいときには便利で、私自身も何回も利用しています。また何かのテキストをきちんと翻訳しなければいけない場合でも、とりあえず下訳として使うと言う事は、時間の節約という意味でも否定できないと思います。しかしそれを(ほぼ)そのまま出版してしまうというのは、正に「あり得ない」出来事だと思いますし、その意味で今回の事件は衝撃的でした。今回の翻訳文などは正にそうですが、外国語の通常の文章を機械翻訳して得られる日本語の「文章」は、そのままでは日本語としても意味が取れず、「自分が訳した」ものとして他人に見せるのは恥ずかしすぎるし、ましてやお金を取る事は一見して不可能と判断出来る代物です。従って今回の場合、いい加減な翻訳者がこれを送っていたとしても、編集者段階で出版を阻止されるはずなのですが、そうならなかったという事はそもそも編集者が原稿を読んでいないのでしょう。そう考えると、翻訳責任者を含めた「多段階防御」を突破してこの翻訳が出版されたのは、原発事故と同様に「多段防御が実は機能していなかった」事を示しています。

 ところで、酷い翻訳あるいは誤訳は結構あるものの、今回のような日本語としてあり得ない翻訳が実際に出版されたのは、さすがに今までは無かっただろうと思っていたのですが、下にリンクした記事を見ると、すでに結構昔にも似たような代物が堂々と出版されていたようです。
悪い翻訳あれこれ:自然科学書の訳本にはとんでもないものが
 引用されているうちの、「バーバンク『植物の育成』8巻(中村為治訳.昭和30-37年)」の訳は、正に「日本語になっていない」翻訳で、機械翻訳の存在しない時代になぜこのような翻訳が生じたのかが非常に不思議です。まあ確かに自分の大学生時代を振り返ると、英語の講義での学生によるテキストの訳本作りで、このレベルの訳を平気でする奴は結構いたのですが・・・。

 もう一つ、これまでに挙げてきた「日本語が意味不明」とは少し違うのですが、ある意味より悪質なのが、次のリンクにあるような「内容の意図的な改変」です。
『海からの贈りもの』 落合恵子の翻訳の問題点
 StarTrekのアニメ版TASの吹き替え版MUDは、考えて見るとこのパターンなのですが、MUDの場合は検証してツッコミの対象とすれば楽しめるのに対し、上のように「翻訳者の思想」を紛れ込ませるのは、余りに不誠実でしょう。
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No title

ごぶさたしています。
この機械翻訳の件は初めて知ったのですが、これはすごいですね。
以前、たまに機械翻訳のリライトを請け負ったことがありますが、「これなら最初から自分で訳した方がよっぽど楽」(しかもリライトだと仕事料金は安い)と思ったので、今は避けています。
翻訳としての完成度が低いというか、訳者の名前のわりに「あれ?」と思う内容のときは、ひょっとすると下訳のまま出てしまったのかなと思ったりします。
問題は、ベストセラーや売るタイミングのある本など(アインシュタインもそんな感じですよね)を早く出したいと思う出版社が、当然ですがある程度知名度のある翻訳者に依頼し、そういう訳者は仕事が集中するのでひとりでさばききれず多数の下訳などに出し、この例のようにチェックしきれない状態で出版せざるをえない、という流れになってしまっていることではないかと思います。

No title

narumiさん、お久しぶりです。実際の経験からのコメントをありがとうございます。
「機械翻訳のリライト」の依頼というのがあるんですね。フォーマットに乗った文章ならそうでもないのでしょうが、小説などだと少なくとも現在レベルの機械翻訳だと、確かに自分で全部始めから訳した方が楽かもしれません。
翻訳責任者が忙しすぎて、実際には小分けに下請けに出さざるを得ないのは判るんですが、やはり最後に自分でチェックしないのは無責任のそしりを免れないのでは、というか最終的に責任を取るのが仕事のうちですからね。
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