誠実な詐欺師 (トーベ・ヤンソン著 筑摩書房)

 ムーミンシリーズで世界的に有名なフィンランドの作家トーベ・ヤンソンは、実際には児童文学作家という訳ではなく、他にも多くの長短編小説を書いています。筑摩書房から「トーベ・ヤンソン・コレクション」として8巻本のシリーズが翻訳されており、この「誠実な詐欺師」はその2巻目の丸々一冊に入っている中長篇です。私の読んだのは1995年にに出版されたハードカバーなのですが、最近になって新訳の文庫版が出ているようです。ネットで調べて見ると、この作品はヤンソンのムーミンシリーズ以外の小説として、最も評価が高いもののようです。
 主人公の二人の女性、カトリとアンナは、性格は全く異なりながらある意味似たもの同士というべき存在です。私自身、人付き合いがあまり得意でないので、カトリには途中まで結構共感できたのですが、あそこまで他人の欺瞞を正直に指摘してしまう事は出来ないですね。それに、アンナに対して行われてきた「不正を正す」事によって、自分が報酬を得られる権利があると考えられるのは、やはり傲慢と言えるのでは。
 一方で多額の遺産や印税や登録商標による収入で孤独に暮らす老婦人アンナの方は、恐らくヤンソン自身を投影しているように見えます。児童書の画として何の気なしに書き始めたウサギ一家に捕らわれてしまった彼女の、もううんざりだという思いはそのまま、ムーミンシリーズによって世界的に有名になったがゆえに、常にその新作を迫られていたヤンソンの、心の中を表しているようにも思います。カトリによってそれまでの平穏な生活を乱された結果として、現実世界に目を向けないできたアンナも変わっていき、結果として「ウサギ一家」への囚われから解放された訳ですが、実際ヤンソンもこの小説が書かれた時期以降は、もはやムーミンシリーズを手掛けていません。
 ところで、「カトリ」という名前で日本人の名字のようだなと思ったのですが、どうやらこの名前はフィンランドではありふれた女性の名前のようです。私自身は知らなかったのですが、「牧場の少女カトリ」というフィンランドの作家原作のアニメがあるようです。
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