アンドロメダ星雲 (I.A.エフレーモフ)

 子供の頃に読んだジュブナイルSFで、「どこかの惑星で女性宇宙飛行士が巨大な黒い十字架状の怪物に攻撃される」断片シーンと挿絵だけが記憶に残っているものがありました。たったこれだけの情報では探しようもなく、長年記憶の片隅に留めたままになっていたのですが、ペレーヴィンの「宇宙飛行士オモン・ラー」を読んだときに、登場人物の話の中に該当しそうなシーンが「アンドロメダ星雲」の内容として言及されていたため、図書館から借りて読んでみました。実際、上に書いたシーンは正に第三章「暗やみにとらえられて」の一場面であり、子供時代からの疑問は解決しました。
 第37恒星遠征隊の宇宙船タントラ号が出会った出来事が描かれる1,3,6章と地球での出来事の章がほぼ交互に続く作品構成のうち、正直なところ地球の章はやや(特に子供には)退屈で、もしかするとジュブナイル版はタントラ号の章だけを切り出してまとめたのではという気もします。 
 現在から2000年後という遠未来でありながら、光速の壁を越えられずに数十年がかりでの太陽系外探査を行うなど現実の物理法則と科学技術の進歩に即した設定はかなり綿密であり、また作品中で使われている恒星に関するデータも書かれた時代の知識としてはきわめて正確で、通常の「ハードSF」以上に科学考証は厳密です。2000年後の話なので北極星がこぐま座alphaでなくなっている所などもきっちり書いています。一方で理想社会主義世界とでも言うべき社会制度とそこで生きている「理想的な人類」の描写は正直なところ魅力に欠けており、むしろ不気味とすら感じます。言ってみれば、サイエンスの部分は傑作だが、人間ドラマとしては駄作という、ややアンバランスな作品です。
 唯一の完全な卑劣漢として描かれているブール・ヒスの言動が、ある意味最も人間的であり、特に「功名心という利己的な動機で無謀な実験を行った」というムウェン・マスに対する糾弾は、実際に悪意があったにせよ正論としか思えません。「人類の幸福をめざす実験だから犠牲者が出ても罪に問われない」というこの世界での論理は、正にマッドサイエンティストのそれであり、さらに言えばチェルノブイリ事故のきっかけとなった原発での実験も、この論理では正当化されることになります。
 また、全地球規模での自然改造が肯定的に描かれている点も、少なくとも私は違和感がありました。確かに「全てうまく行けば」良い事なのでしょうが、ある場所の気候を改善すれば他の場所が悪くなるという事になりそうですし、何より失敗したときのリスクが大きすぎると思います。現実世界でのソ連でのアラル海周辺での自然改造の結末を知っていると、この作品での全面的な賛美はあまりにも能天気な楽天主義にしか思えません。一方、タントラ号が調査に赴いた惑星ジルダの状況は、後のチェルノブイリ事故を予見していたかのようなものです。これを見る限りエフレーモフは単純に科学技術万能の夢に浸っていた訳でもなく、その危険性も正しく認識していたはずですが、気候改造に関してはそのような危機を感じていなかったようです。
 この作品で地球も加盟している「大宇宙連合」の実態は、その名前から想像するものとはかなり異なっています。光速の壁を越えられないために、他の恒星系とのやり取りは事実上映像通信のみに限られているのは当然なのですが、さらに興味深いのは銀河系中心に近いより古い文明との関係です。映像のやり取りはあるものの、彼らの文明が異質すぎて理解できないという描写は、ステープルドンの「スターメーカー」の世界あるいは後のスタニスワフ・レムの世界を連想させ、西側の主流SFとは本質的に異なるものを感じさせます。
 ところで、今回私が読んだのは全訳版ではなく、理論社のジュニアライブラリに入っている抄訳版「アンドロメダ星雲への旅」です。前書きを読む限り、抄訳といっても大きな省略部分はなさそうですが、アンドロメダ星雲が実際に話に登場するのは最終章での通信と「鉄の星」に墜落していた宇宙船の正体に関してだけですから、「・・・への旅」はタイトルに偽りありのような気がします。
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