神様はつらい (A&B.ストルガツキー)

 早川書房の「世界SF全集」24巻に入っている、ストルガツキー兄弟の中篇で、「収容所惑星」、「蟻塚の中のかぶと虫」、「波が風を消す」、「地獄から来た青年」と同じ世界の作品です。この世界における地球は(恐らく共産主義による世界統一の後)太陽系の外にまで進出しており、近隣惑星系の中で最も高度な文明となっています。そして、より遅れた社会に対して密かに工作員を送り込みその社会の発展を手助けしようと試みていますが、必ずしもうまく行っていない様子です。
 プロローグでの子供たちの装備が「トッツ元帥や国王ピッツ一世風の立派な武器」なので、すでにこの時点でアントンらはいずれアルカナル王国の惑星に送り込まれる事になっていたのでしょう。相当な年月を掛け、かなりの人数を投入してこの惑星の社会改革を試みながら、少なくともこの時点ではむしろ状況は悪化するばかりで、アルカナル王国では宰相ドン・レイバによる知識人に対する徹底的な弾圧とテロが行われています。この辺の状況は、「ドン」「ドナ」という敬称からしても、宗教裁判が隆盛を極めていた頃のスペインがイメージされているように思います。
 これまで数名の地球からの工作員が、積極的な干渉は行わないという一線を踏み越え、抑圧者を倒して理想社会を作ろうと行動しましたが、味方のはずの被抑圧者たちに裏切られる形で失敗に終わったことが語られており、この惑星の発展のためにどんな積極的な手を打っても結局は無駄になるので、ただ見守って最悪の状況だけを避けるしかないというのが、どうやら地球の方針になっているようです。そしてアントンもまた、恋人の死に逆上して一線を越えたものの、結局はアルカナル社会の状況を変える事は全くできなかったと思われます。
 考えてみると、ここに描かれた状況は現在の中東情勢にきわめて似ています。アフガニスタンやイラクそしてリビアと、アメリカを初めとする西側諸国は軍事介入を行って抑圧政権を崩壊させましたが、その結果新たにできた政権はすぐに腐敗し、下手をすると以前の政権の方がましだったくらいの状況に陥っています。その結果、現在のシリア内戦では、反政府側が権力をにぎればまた同じ事になると解っているため、もはや軍事介入せずに見守っているしかなく、これが正にアントンらが直面しているのと同じ状況です。そう考えると、民主主義の伝統がない社会に無理やり民主主義を導入しても決して根付かないという西側知識人が認めたくない現実を、すでに1964年の時点でストルガツキー兄弟はわかっていたようです。
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テーマ:SF小説 - ジャンル:小説・文学

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