火星の秘薬 (現代ソビエトSFシリーズ 7: ラドガ出版局)

 現代ソビエトSFシリーズは、1980年頃に出版された全7巻の短編集シリーズですが、現在では入手困難なようで、ネットで調べてもかなりの値段がついています。図書館にあったのも、全7巻のうちのこの一冊だけでした。収録されているのは、「雪男の話」「ピアノの調律師」「力のかぎり」「火星の秘薬」「役に立たない惑星」の5作とまえがきの「空想の翼」ですが、「ピアノの調律師」と「力のかぎり」の2作は、味がありますがSFどころか幻想小説とも言いがたい普通の小説です。表題作の「火星の秘薬」は300ページ以上あり、全体の過半を占めています。
 その表題作は、地方の小さな町の地下室に隠されていた若返りの秘薬が、偶然の事故によって発見される話です。この秘薬によってステンカ・ラージンの時代から生き永らえてきた男女と発見者を合わせて九人が薬を飲み、それぞれに若返るのですが、その後の経緯がいかにもソ連的です。基本的に善意の人である彼らは若返りの事実を秘密にせず、逆に当局に伝えようとするのですが、官僚的な相手に軽くあしらわれます。この辺のやり取りは同じソ連のSF作家であるストルガツキー兄弟の作品「トロイカ物語」を連想させます。結局最後には一人の記者を納得させ、彼の援助でモスクワに向かうところで話は終わるのですが、モスクワに行っても当局にたらいまわしされるのではという気がします。実の所若返り以外は大した事件はなく、若返りに伴う人間関係のどたばたと、それにも関わらず淡々と進む町の日常が描かれているのは、例えば「巨匠とマルガリータ」のような他のソビエト文学にも見られる特徴なのかもしれません。
 表題作以外では短編の「役に立たない惑星」が印象的でした。これはファーストコンタクトものの一種ですが、ラストまで読んでやっと「ピグマリオン神話」のSF解釈だった事に気がつきました。また「雪男の話」は天才数学者とその弟子の回想録の形で、別の惑星の文明と地球とのかかわりを描いています。いずれもアメリカのSFとはかなり異なる雰囲気の、ちょっと変わった作品です。
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お久しぶりです。
このシリーズは何冊か持っていた気がします。
コロンビアに引っ越す時に人に譲ったんですよね。今思うと、あの数冊くらいは手元に置いていてもよかったかも、という気もしますが、当時はとにかく持ち物を減らさなくてはと思っていたので。
おりしも、いまストルガツキイの「月曜日は土曜日に始まる」を再読しています。以前図書館で読んだもので、先月久しぶりに日本から本を買う時に一緒に買ったんですが、まだ手に入ると知ってうれしかったです。内容もほぼ忘れているので新鮮な気持ちで読んでいます。

narumiさん、こちらjこそお久しぶりです。実はかなりびっくりしました。
何とこのシリーズの他の巻も読まれているんですか。ネットで調べても題名しか判らない状態なので、非常に興味があるのですが。
先日ボリス・ストルガツキー逝去のニュースがありましたが、彼らの作品を読んでいると、正に現在の閉塞した日本社会を先取りしていたかのように感じることもあります。

実はネットで表紙を見ても今ひとつ見覚えがなく、タイトルもまったく覚えていないので本当にそのシリーズかどうか確信がないんですが、プログレス出版から出たSFのシリーズがこれしかないのなら、それを持っていたんだろうと思います。
たまに大阪のナウカに行くことがあったのでそこで買ったか、日ソ協会のイベントで買ったと思うんですが。
そんなふうなので内容も全然覚えていません。
「月曜日は土曜日に始まる」もまさに日本の閉塞感に通じるところがあると思います。社会制度というものは案外簡単にソ連的状況に陥ってしまうということでしょうか。

そういえば、narumiさんは元々はロシア語学科のご卒業でしたっけ?これに限らず、ソ連東欧系文学作品はかなり以前に翻訳されたものが結構あるようなのですが、どれも入手困難のようですね。
「月曜日は土曜日に始まる」では、絶対認識部の仕事ぶりには身をつまされる、というわが身を省みて反省させられます。一方続編の「トロイカ物語」は正に官僚主義的国家ソ連の戯画そのままなんですが、これがまた現在の日本にもそのまま通じる気がします。
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