蟻塚の中のかぶと虫 (A&B ストルガツキー:早川書房)

 マクシム・カンメラーを主人公とするシリーズの第二作で、1980年に発表されています。ずっと以前に読んだ時には、内容がほぼ理解できない極めて難解な作品という印象ばかりがあったのですが、今回読み返してみると、かなり解り易く、逆に以前なぜそのように感じたのかが不思議なほどです。恐らく昔読んだ時は、スペースオペラを代表とするアメリカSFにばかり親しんでいて、それとは全く異なる系統の作品は受け入れ不能だったのが、その後ストルガツキーの他のSFだけでなく多くのロシア・ソビエト文学に親しむようになり、私自身の感性がかなり変化したためだと思います。また、直前に「収容所惑星」を読んでいるのも大きく、さまざまな伏線が回収されていくのが爽快に感じました。
遍歴者と呼ばれる謎の異星人が、人類を含め他の種族を監視し、その発展に何らかの介入をしているという設定が、この話において描かれました。この事実はコムコンの上層部は早くから認識しており、「収容所惑星」でルドルフ・シコルスキーが名乗っていた「遍歴者」という通称は、サラクシにおける自分の立場はその外の宇宙における遍歴者種族と似たようなものであるという、シコルスキーのしゃれっ気によるものと考えられます。
 はるかに高度な異星人が地球を見守っているという設定自体は近代SFでかなりメジャーであり、そもそも現代版の神に他ならないのですが、遍歴者の場合その意図が理解できないという怖さがあります。「蟻塚の中のかぶと虫」というタイトルは、蟻塚に入り込んだ巨大なかぶと虫を見て蟻が右往左往するが、かぶと虫の方は蟻の事など何も思っていない、というニュアンスの比喩として使われていますが、遍歴者もまた下位種族に対して好意も悪意も持っておらず、ただ下位種族には理解できない自分たちの目的のために行動しているようです。実は「ストーカー」(路傍のピクニック)でも似たような事が語られており、ストルガツキー兄弟の作品を通して貫かれている思想と思われます。ただ、惑星「希望」での出来事は、自ら滅びの道を選んだ住民を救ったのではなくて惑星を住民から救ったのだという指摘は、その後の住民の消息が一切不明な点からすると当たっているように思え、そうなると遍歴者の興味の対象は下位種族の運命よりも惑星の生態系なのかもしれません。
 「収容所惑星」でちらりと姿を見せた犬型知的生命体ビッグヘッドが、この作品ではヒューマノイドとは姿だけでなく考え方も全く異なる異星人として、かなり詳しく描かれています。恐らく過去の核戦争の結果生まれたミュータント種族である彼らは、他者に感情を押し付けるなどの超能力を持ち、さらに人間には感知できない遍歴者由来の異常も感知できるようです。彼らはまた、惑星パンドラに住む巨大生物タホルグに興味を示して調査に赴いています。「知識欲こそ旺盛だが、好奇心は持ち合わせていない」彼らにしてはやや意外な行動で、タホルグには何らかの秘密があるのかもしれません。
 サラクシと地球しか描写されなかった「収容所惑星」と異なり、この作品では惑星「希望」を始めとしてさまざまな惑星の話がちらちらと出てきます。その一つが「地獄から来た青年」の一方の舞台である惑星ギガンダで、レフアルバキンと同じ「捨て子」の一人のコルネイ・ヤシマアもそちらの主要人物です。あちらでは全く描かれなかった彼の秘密は「地獄から来た青年」での彼の言動の伏線になっているのでしょうか?
 サラクシ、ギガンダなどの諸惑星は、ビッグヘッドのような少数種族は別として主な住民は地球人とほぼ同じで文化程度はより低いヒューマノイドですが、その他にタゴールという地球と同等あるいは上位の異星種族が存在しています。彼らの姿は一切不明ですが、非ヒューマノイドなのではと思われます。
 ところで本作に登場する「石棺」と「ストーカー」の「ゾーン」という用語は、共にチェルノブイリ事故後に再三目にするようになった単語でもあります。恐らくロシア人たちは、チェルノブイリ事故後の状況を、ストルガツキー作品の世界に重ねているように思います。そういえば、「ストーカー」のゾーンを残したのも遍歴者なのでは、つまり「ストーカー」もNoon Universe世界の作品なのかもとも考えましたが、そうするとコムコン2がゾーンに全く言及していないのは不自然すぎるので、さすがに無理ですね。
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ビッグヘッドが「惑星パンドラに住む巨大生物タホルグに興味を示して調査に赴いて」いたという記述はどこにありましたでしょうか?
この作品は何度も読んでいますがそのような事が書かれていた記憶が全くないのですが…

piaaさん、申し訳ありません。ご指摘の件に関して再度確認したところ、私の誤読でした。「そして、惑星パンドラに行き、あの怪物めいたタホルグ人を相手にして・・・」はビッグヘッドたちではなくてタラコーネッツの事でした。ただ、その直後に『ビッグ・ヘッド』隊が、パンドラに移動するための輸送機関を要請したのは本当か確かめる必要がある。」という一文があるので、彼らがパンドラに調査に赴くほど興味を示しているとレフ・アルバキン自身は考えていたようです。
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