夢宮殿 (イスマイル・カダル著:東京創元社)

 イスマイル・カダルは1936年生まれのアルバニア出身の大作家で、日本でも幾つかの作品が紹介されています。というより恐らくアルバニア文学は彼の作品以外はほとんど日本に紹介されていないかもしれません。私自身はかなり昔にラジオドラマ(2000年8月19日:NHK-FMのFMシアター)として紹介された「誰がドルンチナを連れ戻したか」を始めて読み、その後「死者の軍隊の将軍」「砕かれた四月」に続き、四冊目に読んだのが本作「夢宮殿」です。
 「国中の臣民の見た夢を集めて分類・解釈し、国家の存亡に関わる深い意味を持つ夢を選び出す機関」であるタビル・サライはもちろん架空の存在ですが、物語の枠組みとなる衰退期のオスマン・トルコ帝国の描写は現実そのままであるために、タビル・サライもまた実在の国家機関であるかのような錯覚を覚えます。公式にはそれほどの権限はなく、その長官も閣僚よりは格下であるにも関わらず、実際には情報収集・操作によって国家全体に隠然とした影響力を及ぼす巨大機関タビル・サライは、諜報機関あるいは思想警察に近い存在であり、その意味では舞台となる国家は実は社会主義アルバニアを模しているようにも思えます。また主人公マルク=アレムの属するキョプリュリュ家もまたオスマン・トルコの実在の名門であり、恐らく後半の主題となる権力闘争も、実際に似たような史実が存在したのだろうと感じられます。
 「親夢」の恣意的?な解釈によるキョプリュリュ家への攻撃に対して、一族の総帥である伯父「大臣」による反撃のすばやさを見ると、大臣は初めからこれを予期してあえて晩餐会にセルビアの吟遊詩人を呼んだと思われます。そう考えると、実は「親夢」の解釈は当たっていたとも言えますし、下の叔父クルトの処刑さえも初めから「大臣」の思惑通りだったのかもしれません。ただし政変の詳しい経緯そのものは物語では語られず、政変の結果タビル・サライの長官補佐官にまで押し上げられたマルク=アレムすら、少なくとも物語の範囲ではその真相を知る事はできないままで終わります。この辺は、マルク=アレムが母親を通して「大臣」と近い親戚であるとは言え、所詮はキョプリュリュ姓ではない「外様」であるが故なのかもしれませんが、真相がわからずじまいの結末がまた、この物語の幻想性に一役買っているように感じます。
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