時間はだれも待ってくれない (東京創元社:高野史緒 編)

 副題の「21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集」が示す通り、少し前に紹介した「東欧SF傑作選」の続編とでもいうべき作品集ですが、SFだけではなく幻想小説も含まれています。収録されているのは、オーストリア、ルーマニア、ベラルーシ、チェコ、スロヴァキア、ポーランド、旧東ドイツ、ハンガリー、ラトヴィア、セルビアの9カ国11作品で、特筆すべきなのは、重訳ではなく全て現地語から直接翻訳されている点です。また序文と解説での「東欧」に関する歴史的文化的な解説も充実しています。
「東欧傑作選」と同様に、個人的には面白いと思った作品も今一つという作品も混じっているので、印象に残った数作を取り上げて見ます。
 「ハーベムス・パーパム (新教皇万歳)」:ヘルムート・W・モンマース(オーストリア)
 宇宙に遍く広がったキリスト教会の2866年のコンクラーベの様子を外から描いたこの作品、偶然の一致とは言え驚きなのが、亡くなった前教皇が「ベネディクト17世]、一方でコンクラーベの結果選出された教皇が「ヨハネ・パウロ3世」という点です。もちろん書かれたのが現教皇の選出後なら不思議でも何でもないのですが、実際にはその一年前に書かれています。さらにまた、ベネディクト16世の次の教皇を選ぶコンクラーベを控えるこの時期に私がこれを呼んだのも、全くの偶然です。女性、エイリアン、そしてロボットの合計がわずかに過半数を超えるまでになった枢機卿団による精神界最大の指導者選出結果は如何に、というのがもちろんポイントなのですが、物質界最強国家の指導者が少数民族から選ばれたこの時代にある意味ふさわしい作品かもしれません。

 「もうひとつの街」:ミハル・アイヴァス(チェコ)
 SFというよりはっきり幻想小説で、我々が見ている通常の世界に重なって別の世界が存在し、それを行き来している者が居るという、ブラックウッドの一連の小説を連想させる作品です。長編小説の一部(8,9章)のみの部分訳のため、1-7章の粗筋はあるものの話の流れがやや解り難く、訳出された部分の後が存在するのか、そうだとしたらこの後どういった風に進むのかも気になります。

「カウントダウン」:シェファン・フスリツァ(スロバキア)
 テロリストによる原発占拠と脅迫という、破滅物SFです。ハリウッド映画なら、主人公の超人的な働きによって間一髪で危機が回避されるところですが、こちらは全く異なる結末に暗然とします。同時収録された「三つの色」と共に、非常に暗い話です。

「時間はだれも待ってくれない」:ミハウ・ストゥドニャレク(ポーランド)
こちらは「別の世界」ではなくワルシャワ蜂起の後に完全に破壊された過去の街が現在のワルシャワに現れるという、ジャック・フィニイを連想させる作品です。ただ、過去の街では時間があっという間に経っていき、その結果建物が消えていくという部分は、フィニイとはかなり異なります。「黒い男」はもしかすると以前に過去のワルシャワから迷い出ていた人物なのでしょうか?

「労働者階級の手にあるインターネット」:アンゲラ&カールハインツ・シュタインミュラー(旧東独)
電話の混線で歴史が微妙に異なる平行世界とつながってしまう、といったタイプの話は他にも読んだ記憶がありますが、多くの場合はラブドラマ仕立てなのに対し、こちらはかなり怖くて後味の悪い結末です。もしあのプログラムをインストールしてたら何が起こったのか、もしかするとこちらの世界が東側陣営が存続する世界に書き換わってしまうとかが起こったのかもしれませんが、それを書かずに読者の想像に任せているのがこの作品の味なのでしょう。「シュタージ」という言葉に反射的にパニックになってしまう描写は、やはり実際に東独で生活してきた人でなければ体感できない皮膚感覚とでも言うべきものと思われ、その他の感情描写も含めて色々と考えさせられる作品です。
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