「アンドロメダ星雲」再読:特に科学的考証

 エフレーモフの「アンドロメダ星雲」に関する以前の記事は、実は理論社から出版されていた「アンドロメダ星雲への旅」を読んでのものでした。今回「星の船」と合わせて世界SF全集に収録されていた全訳を読んでみて、「・・・旅」は本来の作品の半分程度しかなく、いくつもの章や文章が省略されている事に気が付きました。さすがにジュブナイル版のような粗筋そのものの変更はないようですが、主要人物の省略部分で生じた変化を次の章の始めに数行で説明する形に改訳されています。話の展開が急すぎるとか登場人物の考えの変化が良く解らないと感じたのは正にその省略によるものだったので、前回の記事のそれらの部分に関しては撤回したいと思います。
 そんな事もあり、改めて再読後の記事を書く事にしました。また、以前にも書いたようにこの作品は科学的考証が非常にしっかりとしており、書かれた当時の最新の科学知識が文中に登場するため、今回の記事では特にそれについて考察してみます。
まず、序盤に登場する「鉄の星」ですが、「光は消えているが完全に冷え切ってしまったわけではなく、赤外線しか出していない」という描写からして、黒色矮星と考えられます。現在の知識では、白色矮星が黒色矮星状態にまで冷えるまでの時間は宇宙年齢以上になるため現在の宇宙には未だ黒色惑星は存在しないとされていますが、この時代の知識としては十分に科学的な設定でしょう。ただ、かなり小さな軌道を持つ惑星を持っていることから考えると、この星が赤色巨星段階を通ったとは思えず、従って重水素核融合段階が終わった褐色矮星がそのまま冷えて出来た黒色矮星と考えるべきなのかもしれません。このような星がバーナード星(ジルダの母星)よりもさらに太陽近くに存在する可能性は現在ではかなり低いでしょうが、これが書かれた時点ではあり得る話だったと思われます。
 一方でその第一惑星ですが、質量が地球の43.2倍で表面重力が2.5Gとされています。これから計算される直径は地球の4倍強でかなり大きい惑星ですが、その描写からするとスーパーアースに属する惑星です。2.5Gという重力は実際には相当で、この作品にあるようなパワードスーツがあっても実際に惑星表面を探索するのは相当厳しいように思います。そもそも宇宙船の中で息をするのも苦しいのではないでしょうか。尤ももしかするとこの時代の地球では、Nonn Space世界の「フカミゼーション」のような肉体の強化措置が普通に行われているのかもしれません。(あるいはもしかすると質量が地球の4.32倍の間違いなのかもしれません。それなら直径も地球の1.3倍という尤もらしい値になります。)
 暗黒惑星に居た黒い十字架状の巨大生物は、明らかに「宗教」を暗喩しています。十字架状というその姿ばかりか、超音波によって餌食の意思を支配して従順にしてしまうという描写は、正に「宗教はアヘンだ」というスローガンそのままです。そうなると、高地に居た黒いクラゲの方は「宗教に支配された愚民」をイメージしているのかもしれません。それはともかく、これらの生物が視覚の代わりに電気感覚を利用しているというのは、なるほどな発想で、しかもそれが発達した説明として惑星大気そのものが過度に帯電していると設定してあるのはかなりの説得力があります。
 一方でやや気になるのが、デネブや巨嘴鳥座イプシロンなどの恒星系に高度な文明を持つ惑星が存在する点です。これらの星は明るすぎる上に寿命が短いため、文明を生じる惑星を持つ事は不可能と思われます。この話の中で詳しく描かれたベガの惑星系が正にその状況で、こちらの描写はとても科学的なのになぜという気がします。(実は同じ巨嘴鳥座のゼータ星は太陽にかなり似ている「ソーラーアナログ」なので、こちらと間違えた可能性もありますが、作品中の主星の描写はやはりイプシロンの方です。)
 天体に関する部分だけでなく、そこへの往復が亜光速の宇宙船によって相当の年数を掛けて行われているのも科学的というか、少なくとも通常SFよりも現実的です。そこで描写される船内時間の遅れなどもそれなりにつじつまが合っているのですが、相対論の式ぴったりとはならないようで、この辺はエフレーモフの計算間違いなのかもしれません。一方で、「双曲数学」の理論がかなり詳しく書かれているのですが、正直言って良く解りません。その理論によって光速の壁を越えられるという事からすると、ワープ理論のようなものなのでしょうか?
 始めにも書いたように、全訳を読むとダル・ヴェーテルやヴェーダ・コング、ムヴェン・マスらの心の動きがきちんと描かれているので不自然さはあまり無くなるのですが、それでもやはりこの話の登場人物たちに感情移入するのは私にはかなり難しく感じます。というのも彼らはあまりに「欠点の少ない」性格に描かれており負の部分を持たないからで、人間的な感情があまり見えないからです。この点は以前の記事にも書いた「新スタートレック」(TNG)の特に第一シーズンにも少し見られる欠点で社会主義リアリズムの影響でしょう。それらを含め、どうもこの未来社会は綺麗だけれども人間性を感じられない、あまり楽しくないかもしれない社会であり、ある意味これは「理想社会」の本質的欠点を表しているのかもしれません。それから「忘却の島」(地理的には明らかにセイロン島)でムヴェン・マスが出会ったベート・ロンは、未完成の転送実験で何人もの志願者を文字通り消し去ってしまった典型的なマッドサイエンティストですが、あのように解りやすい粗暴な人間に描いてしまったために、話の深みが損なわれてしまった気がします。
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