もうひとつの街 (ミハル・アイヴァス著:河出書房新書)

 確か今年の春あたりに新聞の書評欄で見かけ、ずっと気にしていたチェコの幻想小説をようやく読むことができました。著者ミハル・アイヴァスはチェコではかなり有名な幻想小説作家らしいのですが、調べてみた限りでは日本語に翻訳されているのは、この一作だけのようです。以前に紹介した「時間はだれも待ってくれない」に、同じ翻訳者による8,9章のみの部分訳が出ており、そのときに何だか不思議な理解しがたい話だなと思ったのですが、今回全話を通して読んでみて、正にその通りだったと再確認しました。
 「理解しがたい」というのは「詰らない」という意味ではなく、文字通りに何がどうなっているのか局所的には理解できるものの全体としては解らないという意味です。「見たことのない文字で書かれた」菫色のビロードの装丁の本を偶然入手した主人公は、それを切っ掛けとしてプラハの街と重なるように存在している異次元の街と行き来するようになり、その街の謎を解こうと四苦八苦する、という物語の展開自体は理解できますが、この「もうひとつの街」で起こっている出来事がおよそ意味不明です。それでも地の文の部分はそれなりに何が起こっているのかは解るものの、例えば「司祭長」の説教や「歴史家」の講義などは、確かに日本語の文章で局所的には意味が取れるのですが、何を言いたいのかが全く理解できません。最近は見かけなくなりましたが、ブログペットによる長文の作文を読んでいるような気分になります。もしかしてとんでもない誤訳をしているのではと非常に失礼な想像をしてしまうくらいですが、まさかそんな事はないのでしょうね。
 現実のプラハの街と重なって存在する、といっても両方の街の地図は大きくずれており、プラハの街のどこかの建物の入り口がもう一つの街に繋がっていたり、図書館の書棚の奥の闇がはるかに広がるジャングルに繋がっていたりと、この辺は「ナルニア国」に近いものを感じさせます。しかし一旦ナルニアに入ってしまえばその世界の確固たる法則に支配されているのとは異なり、もうひとつの街はまるで夢の中のように法則が感じられず、この世界の「中心」にたどり着いて世界を理解しようと試みる主人公は、読者と共にひたすら翻弄される事になります。恐らくこの世界でも何らかの法則があり、司祭長やその娘のアルヴェイラには理解できているのでしょうが、主人公と読者にはその法則が全く理解できないのです。
 一旦は理解を諦めて現実世界に戻った主人公ですが、本棚に置かれていた菫色の本がいつの間にか近くの本を理解できない文字に書き換え、自分の周囲の世界を侵食している事に気づきます。そして街中でふと横に停まった緑色の石の路面電車に乗りこむところで物語は終わります。恐らく今度こそ彼はもう一つの街の住民として生きていく事になり、もしかすると古道具屋の老主人が示唆していたようにいずれはアルヴェイラと結ばれてもう一つの街の指導者となるのかもしれません。
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