チグリスとユーフラテス (新井素子:集英社)

 ずっと以前にどこかで書評を読んで心の片隅に止めていた作品ですが、最近になって友人に薦められて読みました。もちろん著者の名前は以前から知っていましたが、その作品を活字で読んだのは恐らく始めてだと思います。第1章はかなり読みにくい文章と感じたのですが、2章以降はそうでもなくなり、実は主人公ルナの目論見を悟らせないための意図的なミスリードによるもののようです。
 子供が生まれなくなって人口が減り続け、ついに最後の一人となってしまった殖民星ナインの状況は、遠い未来の日本を象徴しているようです。出版された1999年時点ではまだ日本の総人口が増加していたもののいずれ減少に転じる事は明らかになっていましたから、著者はもちろんその事を意識して書いていたと考えられます。実際に2007年以降は総人口は減り続けており、ここ数年こそ出生率は増加に転じたものの長期的に総人口が減少し続けるのは確実です。もちろん超長期的には状況そのものが大きく変化するので「数千年後には0人になる」等の極論は無意味ですが、逆に言うとナインが描かれている滅亡を避けられなくなるまえに他に何か手を打てなかったのか、という点から見ると現実社会に対する警鐘を鳴らしている本とも読めます。そのように読んだとき、ナインの人々は人工子宮の使用再開を最後まで拒んだ点を始めとして「自ら滅びの道を選んだ」点は否めないのですが、それはまたナインの人々の出身地である日本人自体の国民性に由来しているとも思え、なかなか著者は深く観察して書いているなと関心させられました。もちろん私とは逆に、その点を物足りなく感じる読者も多いと思います。少なくとも外国のSF作家だったらこの展開はありえず、悪戦苦闘の結果最後には新たな新生児が誕生するというわずかな希望の見える結末になったのではないでしょうか。
 一方で未来の科学技術に関しても、かなり現実に即した描写がされています。超光速技術は存在せず、太陽系外惑星への殖民が数十年かけて行われている点は現実的ですし、恐らくその数十年の宇宙暮らしによって遺伝子が傷つき、それが後の滅亡の原因となる点などは面白い視点です。また実質的な主人公である船長夫人アカリが始めのうち「無用の人」扱いされたのもなるほどそうなるだろうなと思いました。ナイン到着後に船員一族が特権階級となったのは、ラリー・ニーヴンの「ノウンスペースシリーズ」でのマウントルッキッザット星でも似たような事がありましたね。そういえば、地球から10光年強というナイン主星の設定自体も、あちらと同じくじら座タウを想定しているように見えます。もっともあちらは強制的だったのに対して、こちらでは人工子宮生まれの一般人が自らそういた点がはっきり違いますが。考えてみると、これもまた極めて日本的な状況に思えます。とにかく全体を通して、なるほどいかにも日本人作家のSFだなという読後感をもちました。
 
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