ピサへの道 -- 七つのゴシック物語1 (イサク・ディネセン:白水社Uブックス)

 この本はかなり以前に晶文社版で読んでいるのですが、今回は白水社の文庫版で再読しました。著者のイサク・ディネセンはデンマークの女性作家ですが、結婚後の本名であるカレル・ブリクセン名義でも小説を出版しており、日本での翻訳版では両方の名のものが混在しています。別の名での別々の短編集に同じ作品が含まれている事があり、気が付かずに読んで「何だかすごく似た話があった気がする」などと思った事がありました。「七つのゴシック物語」は彼女の始めての著作で、タイトル通りに7編の中短編から成っていますが、昭文社版も白水社版でも二冊に分かれており、1巻目には順に「ノルデルナイの大洪水」「老男爵の思い出話」「猿」と表題作の「ピサへの道」の四篇が収められています。確実に以前に読んでいるはずなのにどの一篇も既読感がないのが極めて不思議でした。
巻末の解説にもあるように、四篇共に「登場人物が実は別の人物だった」という共通のパターンを持っていますが、そのレベルにはかなりの差があります。「老公爵の思い出話」での美少女実は街角の娼婦というのは、物語中の説明にもある没落貴族の娘と考えれば十分にありそうな話ですが、「猿」での老修道院長と飼い猿とが入れ替わっているのは正に幻想小説の領域です。この作品では特にそこに至るまでの主人公の心理描写が自然なだけに、この最後の意外性が印象的です。「ノルデルナイの大洪水」と「ピサへの道」での入れ替わりはその中間というか、やや無理やりな(正にゴシックロマン的な)設定を認めればありうる話に思えます。ただ「ノルデルナイの大洪水」の老枢機卿と従僕との入れ替わりは、物語内部の時間的には十分可能でも、枢機卿の崇高な振舞いが後の世に語り継がれるようになったという後日段まで考えるとやはり相当に無理があるかもしれません。尤も後の世に語り継がれるのはいつも事実そのものではなく、より人の心を捉えるように脚色されたそれという現実を作者は描いているのかもしれません。「ピサへの道」は一見するとバラバラに見える幾つかの出来事が終盤になって急に繋がってくる、これも中々印象的な作品でした。
 なお、ディネセン(ブリクセン)の生家はコペンハーゲン郊外のRungstedにあり、現在はBlixen博物館として一般公開されています。コペンハーゲンのカストロップ国際空港から郊外電車を使えば1時間ほどで行ける場所なので、SASの乗り継ぎ等でこの空港を使う方は行って見るのも面白いかもしれません。
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