日曜日に老いたる母は・・・ (ワシーリー・シュクシーン著:群像社)

1974年に45歳の若さで亡くなっているソ連の作家・映画監督・映画俳優であるワシーリー・マカローヴィチ・シュクシーンの短編集で、すでに何冊かを紹介した「現代のロシア文学」シリーズの第1巻です。表題作ほか21編が収められており、どれもロシアの一般の人々が主人公であり、「社会主義リアリズム」系の作品とは全く異なる味わいがあります。印象に残った何篇かを取り上げてみます。
・変人君
悪い人では無いがやる事なす事一々滑っていて頓珍漢な主人公の姿は読んでいてかなり「痛い」のですが、同時に確かにこういう人は居るなとも感じてしまいます。これは「顕微鏡」やその他の幾つかの短編も同様ですが、つい調子に乗ったために後でしっぺ返しを食うという、日常にありがちな話を主人公の心の中を含めてうまく書いていると思います。

・日曜日に老いたる母は・・・
この表題作の中の、以下に紹介する「監獄の歌」がすばらしいです。

日曜日に老いたる母親は
牢獄の門にやってきた、
腹を痛めた息子に
差し入れを持ってきた。

渡してください、この差し入れを、
どうしてなら、人の噂では---
牢屋の囚人がたくさんで
ひどく飢えているとのことだから。

老婆に門番はにやり笑って言った---
「お前の息子はここにはいない。
きのうの夜中に銃殺されて、
あの世に発出させられた」

老いたる母親はきびすを返し、
牢屋の門をはなれて行った......
そしてだれにもわからない---
どんな気持ちで帰って行ったのか。

民謡を収集していた研究者の前で主人公の老人がこの歌を歌うことを頑なに拒んだ理由は必ずしも理解できないのですが、単にへそを曲げたのではなくて、むしろ相手に迷惑をかけまいという配慮だったのでしょうか?

・母親の心
これもまた監獄関係なのですが、どんな息子でも母親にとっては大切であるというある意味当たり前の事実を見事に描ききっています。酒が入ると粗暴になる息子の描写や、ひたすら官僚的な警察・検察の態度がいかにもソ連です。

・スリップしはじめやがった
他の収録短編での社会批判は間接的ですが、この短編はかなり露骨でよく検閲に引っかからなかったなと思います。ゴーゴリの「死せる魂」の中の作中詩「トロイカ・ロシア」を息子が暗誦しているのを聞いていて、ふと(ロシアそのものに例えられている)トロイカに乗っているのが詐欺師のチチコフに他ならないと気が付いた主人公の憤慨はまた、現実のソ連社会への怒りにも重なります。
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