偽りなき者 (トマス・ウインターベア監督:デンマーク映画)

 多くの感想記事に書かれている通りに、観るには覚悟が必要な作品でした。単に冤罪事件への警告だけではなく、一見すると平穏で理想的に見える社会に潜む偏見の恐ろしさを浮かび上がらせているように思います。「影で噂するだけならともかく直接的物理的に『容疑者』を攻撃するのは日本社会ではありえない」などという感想も幾つか見かけましたが、現在の日本でも田舎なら同様の状況は起こりうるのでは。少なくともオウム事件以降頻発した信者排除では、スーパーの販売拒否等の村八分は普通に行われていたはずです。
 恐らくルーカスには失業と離婚によって「人生の落伍者」のレッテルが周囲の人たちによって密かに貼られており、さらに(別れた妻が言ったように)高等教育を受けた男性には「幼稚園の保父」は相応しくない職業であると見なされているため、一旦このような事件が起きたときに、「元々幼児性愛者だったのでは、失業してやけになっていたのでは」と憶測されたという事もありそうです。
 他の方の感想にもありましたが、主人公のルーカスが余りに人間が出来すぎでやや不自然な感はありました。単に村八分にされただけでなく無関係の息子も同じ扱いを受け、さらには愛犬を殺されるという目に会ったのに、たった一年で表面上和解できるものだろうか疑問ですが、おそらく彼の立場からするとこの村に暮らし続けるためにはそれしか選択肢はなかったのかもしれません。
 クララの作り話ですが、少なくとも字幕で見ている限りでは「ルーカスが男性器を見せた」とすら言っておらず、正に火のないところに煙が立った状況です。園長の心の中の妄想がどんどん膨らんでいって、発言するたびに尾ひれがついていくのが見ていて(笑うべきではないけれど)笑ってしまいます。彼女が呼んだカウンセラーの誘導尋問も露骨ですが、このような事も実際にありそうです。またクララの母親は恐らく自分たちよりも娘が懐いているルーカスを密かに嫉妬しており、それがこの事件を切っ掛けとして爆発したのかもしれません。一方で父親のテオの方は妻への負い目から彼女の前ではルーカスに敵意を見せているだけで、実はそれなりに冷静でルーカスへの糾弾に半信半疑のように見えます。それからこそ教会でルーカスの怒りの発作に抵抗せず、逆に彼の主張を信じる事ができたのだと思います。恐らくテオがルーカスを弁護する事によって一年後には村に一応の平穏が戻ったのでしょうが、それでも「やはりあいつは変質者だ」と思い続けている者たちが一部には居ることが最後の事件で明らかになり、一旦乱された平和は戻らない事を暗示しています。その銃撃の犯人が誰かは多くの方の記事で推測がなされていますが、私の想像ではクララの兄トルステンか、あるいはルーカス自身の見た幻覚かのどちらかだと思います。
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偽りなき者

スターチャンネル祭り第47弾は、海外ドラマ『ハンニバル』のレクター博士、マッツ・ミケルセン主演の社会派ドラマです。結末が書いてあります。

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お久しぶりです。
主演がマッツさんだったので観たら、どこでもありそうな現実的で怖い事件でした。
クララはお兄ちゃん達にショッキングな絵を見せられたのが発端で、作り話をしてしまったのですよね。
それを思うとクララも可愛そうでした。
そして、私もオウムの事件を思い出しました。

モリーさん、コメントをありがとうございます。確かにクララは自分の作り話の結果があのような形で大好きなルーカスに跳ね返ってくる事はまったく理解できなかったわけでショックだったでしょうが、一年後のシーンで、ルーカス自身はクララに何のわだかまりも持っていない事が示されており、彼女に関しては救われた気がします。ただ、あの場面を第三者に見られたらまた誤解されそう、というか今思うとあのシーンを密かに見ていたのが銃弾の犯人かもしれませんね。
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