論文捏造 (村松 秀 著:中公新書ラクレ)

 余りにもタイムリーな話題である科学界での捏造研究を取り上げたこの本、ミソなのは出版が2006年という点です。扱われているのはもちろんSTAP細胞ではなく、2000年から2001年にかけてのベル研究所の研究員ヘンドリック・シェーンによる有機超伝導体に関する研究捏造(シェーン事件)ですが、事件の経緯が驚くほどSTAP細胞の件と似ており、読んでいて唖然としました。しかも捏造の経緯や捏造者の言動だけでなく、対象者の所属した研究機関や出身大学の発覚前後の対応までが両方の事件で類似しており、一見すると「STAP事件を参考にして書かれた本」かのように見えるほどです。もちろんそれはありえないのですが、その逆にシェーン事件を参考にしてSTAP事件の報道がなされているために類似性が強調されているように見えるのでしょうか?
  両事件ともにそれまでは無名の研究者が有名な研究所に入ってから「ノーベル賞級」の発見をしており、ベル研究所も理化学研究所も名門ながらその時点でやや落ち目だったために、その巻き返しのために捏造者を全面的にバックアップして宣伝利用し、結果的に余計に深みに嵌っています。また問題の研究が行われた場所が実はあいまいなのも同じで、これが捏造が行われていたのを見逃す原因になっています。特にSTAPの場合、「ハーバード大」という海外の権威に対して理研や早大が全面的にひれ伏して思考停止していたのではないでしょうか。また、本来は「誰が実験しても同じ結果が得られる」という再現性こそが科学の根幹であり、両事例共にそれが出来ていない以上「科学的結果でない」とすら言える状況だったのに、逆にその点が「何かうまいコツがあって、彼らにしか出来ないのだろう」と捏造者を神の手を持つものかのように持ち上げる解釈がされた点も似ています。近年の特に新たな製品開発につながる研究では特許の問題で手の内を明かさない場合が多いのでこんな事になるのですが、これがまかり通るようでは科学とは言えないのでは。
 もう一つ印象的だったのは、調査委員会におけるシェーンの言動です。確かに肝心の部分は色々と言い逃れをしているのですが、あたかもまったく真摯に研究をしてきたかのように淡々と調査に答えており、本人自身も自分の(捏造の)研究内容を真実と思っているかのようです。恐らく自分を守るための嘘をいつの間にか自分で信じてしまったのだと思いますが、STAPの方の会見を見ても同様の事が起こっているように見えます。
 一方で、両方の事件での違いも色々あるのですが、それは日米の差というよりも時代の差、もっと言うと現在がネット全盛時代であるが故の差のように思えます。捏造発覚がシェーン事件よりはるかに早かった一方で、目に余る論文のコピペもその差が大きいでしょう。あのレベルのコピペは特に修士論文・卒業論文では横行していますから、彼女としては何で問題とされるのかがそもそも理解できていないのではと思います。早大の出した博士号を取り消すかどうかが問題になっていますが、正直なところこの問題は「パンドラの箱」だと思うので、これ以上事を大きくしたくないのが早大のみならず多くの大学の本音では。結局のところ、関係者の沈黙によってSTAP事件の真相や責任問題もシェーン事件と同様にうやむやにされていくと私は予想しています。

追記: 今日(8/5)になって新たな最悪の展開が起こってしまいました。しかし自殺とはある意味日本らしい結末で、シェーン事件で笹山氏と同様の立場だったバトログはあくまでも被害者を装ってその後も処分されずに研究を続けています。私の想像では、笹山氏は研究リーダーという立場での責任以上に、理化学研究所へO嬢を押し込んだずさんな人事の責任を取ったような気がしています。一方で、彼の自殺によってSTAP細胞の検証実験に影響がでる、という話ですが、そもそも検証実験自体が意味がないのでさっさと打ち切るべきでは。論文が撤回された以上、存在を保証する根拠がまるでないわけで、「ネッシーと同じ」という批判は言いえて妙だと思います。笹山氏の遺書では、彼自身は最後まで存在を信じているようにも見えますが、自分にそう言い聞かせなければならないまでに追い詰められていただけでは。
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