モレルの発明 (アドルフォ・ビオイ=カサーレス著:書肆 風の薔薇)

 SF小説とするか幻想小説とするかやや微妙なアルゼンチンの作品です。著者はホルヘ・ルイス・ボルヘスのかなり年下ではあるが親密な友人・共作者として知られており、事実上の彼のデヴュー作であるこの作品は、ボルヘスに「完璧な小説」と賞賛されています。正直なところ私自身は読んでいてかなり混乱してしまい、完全に理解できていないのではという感じがあるのですが、理解できた範囲で内容を紹介してみたいと思います。
 何らかの理由によって一般社会で死刑を宣告された主人公が逃げ込んだ不毛の無人島に突然人々が現れ、主人公の存在を無視して牧歌的な生活風景を見せ続けるという展開から、始めは「発明」の内容を部分的なタイムトラベル関係と想像して読み進めていました。実際には非常にリアルなホログラム、それも実体の在るいわばStarTrekのホロデッキのそれのような発明でしたが、決定的に違うのは過去のこの島での一週間分の記録された映像を一切の変化無しに繰り返して再生している点です。そのため後から現れた主人公はその映像に干渉する事は不可能であり、逆に言えば彼らから何らかの物理的な害を与えられる可能性もありません。その時点で一旦は拍子抜けしたものの、実は記録された人々は放射能障害のような症状を起こしやがては命を失うという、恐ろしい裏がありました。と言うよりもむしろ、記録された者たちは本体から映像の方にその生命が移され、映像として生き続けるというのが正しいかも知れません。発明者のモレル自身はそれを知った上であえて自分を含めた仲間たちを永遠の記録として残すためにこの孤島を選んだわけで、潮汐エネルギーによって駆動する上映装置が故障しない限り彼らは「生き続ける」運命にあります。それを理解した主人公もまた、映像のフォスティーヌと共に永遠の繰り返しを生きるために同じ撮影装置に身を晒し、現実世界の命を捨てるという所までは私の理解が及んだのですが、解説を読むとどうやらその先にまだ理解できていない部分があるようです。実際に解説にある「ペルシャ式風車」の刊行年とモレル一行が島で暮らした年代との矛盾だけでなく、召使が主人公を認識したかのような描写も謎で、恐らく私がまだ理解できていない部分に関係しているのだと思います。
 なお、物語の舞台となっている島は主人公によればエリス群島に属しているとされていますが、このエリス群島は現在ではツバルとして独立国になっています。太平洋上の赤道よりやや南の他の国からかなり離れた位置に点在する非常に標高の低い環礁から成るバチカンに次いで人口が二番目に少ないミニ国家で、近年では地球温暖化に伴う海水面増加の影響を最も深刻に受ける国の一つとして話題になっています。舞台の島の描写とはやや合わないのですが、島の地理的位置は物語の本筋に関係しないのでどうでも良い差異でしょう。
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