脱獄計画 (アドルフォ・ビオイ=カサーレス著:現代企画室)

 「モレルの発明」や「日向で眠れ」と同様に、SFなのかやや微妙なカサーレスの中篇小説ですが、一応SF小説のカテゴリにしました。「モレルの発明」、「日向で眠れ」もそうだったのですが、主人公の書簡という形で物語が語られており、そこにその場に居なかった遠方の他者の注釈や書簡が差し挟まれる格好で全体が構成されているためか、正直なところ私にはやや読みづらく感じました。このような体裁で書かれていると、主人公の視点でしか描かれていない事実関係が本当の事実なのかそれとも主人公の思い込みや錯覚なのかが判別できず、さらにどの作品でも主人公自身が混乱しているために余計に事実関係が疑わしく見えてきます。恐らく正にそれこそが作者の狙いであり、小説のみならず現実世界であっても見えている部分や語られている部分は全体の一部を主観的に解釈したものでしかないという事実を読者に突きつけているように思えます。
 この小説で主題となっている「人間の感覚の変換」は、「モレルの発明」や「日向で眠れ」での処置よりもさらに理解し難いものであり、そのため最後の章でのファイルによって実際に説明がされるまで悪魔島で何が起こっているのかが理解できませんでした。確かに例えば人間が見ているものは実際には目の網膜に映ったパターンを脳が解釈しているものであり、従ってそのパターンを変化させたり脳における解釈を変えれば別のものが見えるわけで、それは視覚だけでなく五感全てでも同様です。しかし被験者にそのような処置を行ったからと言って、遠くからものに触れるばかりかそのものに力を及ぼす事ができるのようになる(正にテレキネシス)というのはさすがに説明に無理があるのでは。
 ところで物語の舞台である悪魔島を含む群島は、実際に南米のフランス領ギアナ沖合にある旧流刑地であり、作中でも言及されているように「ドレフィス事件」でアルフレド・ドレフィスが流刑となっていた場所です。大陸本土から11kmほど離れた三つの島からなり、Google Earthで見ると島の間の距離はかなり近く数百m程度です。作中で他の島から悪魔島の建物の様子がはっきりと見えているのに違和感があったのですが、なるほどこの距離なら見えるだろうと納得しました。流刑地の島なので「絶海の孤島」というイメージがあったのですが、こんなに接近した島々からなる群島だったのはやや意外です。
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