タイム・シップ (スティーブン・バクスター 著:ハヤカワSF文庫)

 余りにも有名な古典SFであるH.G.ウェルズの「タイムマシン」の続編として、同じ英国の現代SF第一人者であるスティーブン・バクスターによって書かれた傑作であり、タイムトラベルの現代科学による再解釈だけでなく科学的考証によるさまざまな遠未来予想が描かれるハードSFです。
 多くの読者が想像したようにエロイの少女ウィーナを救いに再び未来に向かったタイムトラベラーは、その未来がすっかり変わっているのを発見します。タイムトラベルものSFにおいては、タイムパラドックスをどのように処理するかが常に問題になる訳ですが、この作品ではエヴェレットの多世界理論を採用しており、未来から戻ったトラベラーが話した内容を「作家」(H.G.ウェルズ)が作品として世に出した結果未来が変わり、トラベラーが再び訪れた未来は前に訪れた未来とは別の時間線にある別の世界となっています。新たな未来では「モーロック」に対応する未来人(新モーロック)によって金星軌道の外側に太陽をスッポリと包むダイソン球が作られ、地球自体は闇に包まれています。新モーロックたちは科学技術を極め非常に思索的で平和な種族なのですが、実はダイソン球は二層になっていて新モーロックたちは永遠の夜の世界である外側の球面で暮らしており、永遠の昼である内側の球には「新エロイ」が住んでいるという、ある意味ウェルズの描いた未来と同様の状況になっているのが興味深いところです。しかも光の世界の住人である新エロイたちは、闇の世界の住人である新モーロック人とは対照的に破滅的な戦争に明け暮れているという点は非常な皮肉であり、この後に描かれる英独戦争と共に、人間の性(さが)を思い知らされる重苦しい描写です。
 さて、タイムトラベルによって未来が変わり、いわば自分が「未来世界を滅ぼしてしまった」のを知ったトラベラーは、いっそタイムマシンの完成を阻止しようと今度は過去に戻るのですが、その結果今度はドイツと英国による「時間戦争」に巻き込まれ、遂には新モーロック人の一人ネポジプフェルと英国軍小部隊と共に5000万年前の暁新世に島流しになります。この「殖民者」によってさらに未来は決定的に変わり、遂には通常の生命を超えた超越的な能力を持つ「普遍建設者」や、さらにその上を行くまさしく神に等しい「観察者」が登場するに及んで、本来は戻れるはずのなかった「元の時間線」にトラベラーはたどり着き、タイムトラベルの円環は閉じられる事になります。この普遍建設者以降の展開からは、オラフ・ステープルドンの「スターメーカー」の後半を連想しました。このようないわば「世界の外に立って時の流れ全体を俯瞰する」ような作風は、後書きにもあるように恐らく英国SF本流の伝統のようなものであり、TVシリーズの「ドクター・フー」にも通じる所があるように思います。
 
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