灼熱 (シャーンドル・マーライ 著:集英社)

 図書館に本を借りに行ったがその本がなかったため、ついでに「その他ヨーロッパ文学」の棚を見に行ってたまたま見つけた本です。実の所、この本を読むまで著者シャーンドル・マーライについて全く知らなかったのですが、1930年代のハンガリーを代表する作家ながら、共産主義体制を嫌って1948年に亡命した後はほぼ忘れられた存在となり、1989年に自殺した直後にハンガリーの共産主義体制が崩壊し、祖国での本作品「灼熱」(原題の直訳は「蝋燭が燃えつきる」)の出版によって国際的に再評価されたとの事です。現時点では、邦訳されている彼の作品はこの一作のみのようです。
 主人公のヘンリクは70歳過ぎのハンガリー大貴族出身の老将軍で、もう長い間森の中の館に引きこもって暮らしています。そこに41年前に別れた旧友コンラートが訪ねて来る場面から物語は始まり、ヘンリクの両親の出会いからヘンリクとコンラートとの友情が描かれます。しかし小説の半分以上を占めるのは二人が再会して夕食の席での、老ヘンリクとコンラートとのやり取りです。しかも実際にはコンラートはほぼ相槌を打っているだけで、事実上はヘンリクのコンラートへの問い掛けという形の独演会です。
 ウィーンの士官幼年学校で出会って以降双子同然の仲だった二人が、ある出来事の直後にコンラートがヘンリクの元を去り、そのまま41年の間会うことがなかった、ヘンリクの問いはもちろんその出来事、はっきり書くと妻とコンラートとの裏切り行為についてなのですが、彼にとってその真実自体は実はどうでも良い事でした。彼がコンラートに本当に問いたかったのは、友情や愛情というものの本質です。すなわち、相手が誠実である事を前提とした友情や愛情は本物と言えるのか、相手の誠実さ抜きで信頼する感情こそが真の友情や愛情なのではという問い掛けです。正直なところ、友情や愛情といった感情ははるかに複雑なものであり、このように純粋に捉えるのは不可能なのではと私自身は考えますが、それでも興味深い哲学小説といえるでしょう。
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