第三の魔弾 (レオ・ペルッツ著:白水社Uブックス)

 レオ・ペルッツは1882年にプラハに生まれ、主に両大戦間のウィーンで著作活動をしていたユダヤ人作家です。本作「第三の魔弾」を始めとする一群の「幻想歴史小説」で人気を博していましたが、ナチスドイツによるオーストリア併合後にパレスチナに亡命し、1957年に亡くなっています。 経歴を見ていると、どうやら以前に取り上げたクビーンロートと同じ系譜の作家のようです。
 コルテスによるアステカ王都テノチティトラン攻略に、一足先に新大陸に渡りアステカの客将となっていた「ラインの暴れ伯」ことグルムバッハと配下のドイツ農民が立ち塞がるという展開は、もちろん正史ではないがあり得たかもしれないレベルの微妙な偽史といえます。そしてまた、グルムバッハと配下たちの行動原理は、ほぼ同時期にドイツ本国で起こっていた騎士戦争と農民戦争それぞれの反乱側のそれを体現しているかのようであり、両方共に神聖ローマ帝国皇帝であるカール5世(スペイン国王としてはカルロス1世)を擁く勢力に敗れ去ったのに対応するかのように、部下の農民たちはコルテスらに殺され、グルムバッハもまたメンドーサ公爵の前に這いつくばる事になります。
  武装解除されたグルムバッハは手に入れたわずか三発の弾でコルテスの無敵軍に戦いを挑み、相手を大混乱に追い込みます。しかしこの弾は呪いによって狙いが狂わされており、狙い通りに命中しながら本来当たるべき相手には当たらないという皮肉な運命にありました。特に最後の「第三の魔弾」は時空を飛び越え、26年後のミュールベルクの皇帝軍陣営においてこの物語を語っていた老兵を殺して、グルムバッハ自身のアイディンティティを最終的に失わせる結果となります。もしかすると、作者はこのグルムバッハの運命に、中欧ユダヤ人の運命をも重ねていたのかもしれません。
 ところでこの物語の外枠の世界は、宗教改革直後の神聖ローマ帝国における新旧両教徒間のシュマルカルデン戦争の結末であるミュールベルクの戦い直後に設定されています。実は私はこのシュマルカルデン戦争を、ほぼ一世紀後の30年戦争と混同していました。学生時代は世界史を取っていなかったとはいえ、その後さまざまな海外小説を読んだり実際にヨーロッパに何度も旅行してかなり歴史に詳しくなっていたつもりでしたが、こんな大間違いを今までしていたとは赤面の至りです。
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