ボリバル侯爵(レオ・ペルッツ 著:国書刊行会)

第三の魔弾」の著者レオ・ペルッツの次の幻想歴史小説の舞台は、1812年冬、ナポレオン軍占領下のスペイン北部です。「第三の魔弾」の訳者あとがきを見て、以前にこちらで同じ著者の作品紹介記事を読んでいた事に気づき、早速図書館で借りてきました。すでに死んだ者の意思によって自由意志で行動しているはずの生者の運命が翻弄され、結果的に死者の計画が実現してしまう、という展開そのものは前作「第三の魔弾」と同様なのですが、こちらの方がはるかに読みやすくて、わずか二日で一気に読み終わりました。ボリバル侯爵の計画を結果的に実現させて自らを滅亡させてしまうナッサウ連隊の士官たちの行動原理が連隊長の愛人との密通目当てというのが、ロートの代表作「ラデツキー行進曲」でも描かれたハプスブルク君主国の軟弱軍人そのままで笑ってしまいます。ドイツの軍人というと規律正しく戦争に強いイメージがありますがそれはあくまでプロシア系であって、「幸いなるオーストリアよ、汝は結婚せよ」という家訓が示すように、ハプスブルク帝国は周到な婚姻政策によって成立した「帝国」であり、戦争に関してはかなり弱い国でした。
 死者の計画に生者が翻弄される、というと「死せる孔明、生ける仲達を走らす」の故事を連想し、周到な計画が死後も機能するイメージがありますが、この作品の場合はナッサウ連隊側が自主的に侯爵の代わりとなって行動してしまう点がかなり違います。最後の合図の成立だけはかなり偶然の要素があるものの、特に最初の合図などはナッサウ連隊士官の一人が意図的に行った訳で、言ってしまえば見えている地雷をわざわざ踏みに行くような展開です。「ナッサウ連隊の壊滅は、自軍の将校たちが明確に意識して、ほとんど計画的にもたらしたものである」という言葉は正にその通りで、それがどのようにして成立したのかがこの小説の最大の読みどころです。
 一方で、領民の尊敬を一身に集める信心深いが謎の多い人物であり、序盤で死亡しながら最後まで物語を動かす原動力となるボリバル侯爵と、周囲に死と敗走をもたらしながら自分は決して死ねない「さ迷えるユダヤ人」サリニャック大尉の対比も、この作品にアクセントを添えています。考えてみると、「ドクター・フー」とそのスピンオフ「トーチウッド」に登場するキャプテン・ジャックは正にサリニャック=さ迷えるユダヤ人そのものですね。
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