エペペ (カリンティ・フェレンツ著:恒文社)

 広い意味でのSFとも考えられる小説ですが、一般小説のカテゴリにしました。こちらの記事を見かけて興味をもち図書館で借りてきたのですが、ディストピア小説というよりかなりぶっ飛んだ設定の不条理小説というべき作品です。読みやすいとはお世辞にも言えないのですが、個人的には街中で英語が通じないロシア・東欧圏を旅行したときの自分の体験が重なり、結構面白く感じました。もちろん現実世界では、どんな秘境の国に行ってもこの小説の描写レベルにコミュニケーションが取れない状況はあり得ないのですが、それでも特にホテルでパスポートを取り上げられた下りでは、初めて東欧に行ったときに同様の目に遭って一晩不安な夜を過ごした経験を思い出しました。また街中の異様な混雑ぶりも、発展途上国の空港を一歩出たときの第一印象を彷彿とさせ、あり得ないのに妙な現実味を覚えます。
 読んでいて結構可笑しかったのは、エレベーターガールの名前(というより主人公の聴きなし)が一つの節のなかでも次々と変化している点です。発音がはっきりせずにおよそ聴き取りが困難な事を表わしているのでしょうが、本当に同一人物と思えないほどに次々と変化していきます。
 訳者による解説では主人公の言語学者ブダイを「現代のヒーロー」の一種として妙に持ち上げているのですが、少なくとも現代の視点からすると、この評価にはかなりの違和感があります。「ヒーロー」というのなら、挫折感を憶え悩みを抱えながらも最終的には問題を解決してこそなのですが、ブダイの行動は一々的外れで上滑りしたり、勝手な憶測でするべき行動を起こさなかったりと、「頭でっかちの知識人が現実の前に何もできずに堂々巡りする」といった方がふさわしい状況です。最終盤で川の流れを見つけて、これを下っていけば外国への道となる海に行きつけると考えているのも机上の空論で、結局どこにも行きつけずエスカレータですれ違った男のように一生この国に暮らす羽目になりそうです。もしかするとこの男だけではなく、この国のすべての人々は現実世界からここに迷い込んださまざまな国の出身者であり、実はお互いにまったくコミュニケーションが取れていないまま暮らし続けているのかもしれません。終盤の暴動でも、一見すると天安門事件などを思わせる政府vs反政府の戦いのように見えるのですが、実のところ暴動を鎮圧しに出動した軍隊ですら同じ政府に所属しているのかはっきりせず、構図がよくわからないままです。下手をすると、実際には政府組織すら存在しない世界のような気が読んでいるうちにしてきました。
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