ぼくがきみを殺すまで (あさのあつこ 著:朝日新聞夕刊連載)

 掲載を終えたばかりの新聞連載小説です。朝刊に比べて夕刊の連載小説は短いものが多いのですが、この小説は全部で95回という夕刊連載としても異例の短さでした。嘗て共存していた二つの民族が互いに憎しみを募らせて戦争となり、戦場で捕虜となった少年兵の一人が処刑前夜に過去を回想する、という形のこの小説は、一見すると中東の状況を題材としているようで、実は日本の近未来の最悪形を描いていると考えられます。それは特に、主人公の兄が教師をしていた両民族共存の学校が閉鎖される経緯が、「政治的中立性」の名の下に、政府の方針に反する言動を教育現場から排除する現在の流れと重なって見えるからです。恐らく、最近の日本とその周辺国との状況にかなりの危機感を持って、著者はこの小説を書いたのでしょうし、私もそのように感じて重苦しい気持ちで読み進めていました。
 最終回直前になっても一体どの様にして結末を迎えるのかが私には予想できず、かなりやきもきして毎日読んでいました。ある意味で未完の様な形でぶっつりと終わった訳ですが、確かに他に終わり様がないとも思えます。題名が内容と合っていないとも感じられましたが、私自身は以下の様に題名を解釈しました。

 その意思を貫くのは困難だったとは言え、現実に流されて少年兵となり戦場に立った主人公は敵の少年兵たちを殺し、さらには味方の少年兵たちも死地に追いやった。主人公だけでなく他の兵士、さらには一般市民も同様であり、嘗ては友人同士だった一方の民族(ぼく)がもう一方の民族(きみ)を敵と見なして殺す事になるのは、ある一線を越えてしまえば本当に簡単であった。

 もちろん、読者の数だけの解釈が可能でしょうが、いかがでしょうか?
1/23 追記:この記事を公開して3週間強の間に、ほとんど押されない「拍手」が4つ押され、さらに1年以上ぶりとなるトラックバックがあるなど、どうやら私と同じ感想と危機感を持ってこの連載小説を読んでいた方が一定数は居るようです。実はこの小説のタイトルで検索した際に「打ち切りでは」という意見を目にして、その時点ではやや唐突ではあるもののこの終わり方も十分にありだろう、と考えていました。しかし今日になっても、通常は一週間程度で掲載される「連載を終えて」的な著者からのコメント記事が未だに掲載されない事を見ると、やはり新聞社の判断による事実上の打ち切りだったのかも、という思い(さらに危機感)を持つようになりました。例の「慰安婦報道」で散々に叩かれて以降、妙な両論併記の記事があるなど朝日新聞の報道姿勢に萎縮が目立ちます。この小説に関しては、読む人が読めば現在日本の状況を憂いて書かれているとは判るものの、ネット上でも特に叩かれて炎上している様子はありませんでした。もし本当に新聞社による打ち切りだったとしたら、これもまた社内の一部の意向による自主規制の結果なのではと思いますが、「そこまで来てしまったのか」とさらに焦燥感と恐怖を憶えます。
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[日々の冒険]ぼくがきみを殺すまで 今後僕たちが経験することかもしれない

 2015年の年末に朝日新聞夕刊で連載していた、あさのあつこさん『ぼくがきみを殺すまで』が終了しました。  架空の世界の物語で、カタカナの人名が登場するファンタジー的な舞台でしたが、描かれている出来事は生々しいものでした。  架空の世界の物語なのですが、設定が

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