スペース・マシン (クリストファー・プリースト著:創元推理文庫SF)

 以前に紹介した「タイムシップ」と同じく、H.G.ウェルズ作品へのオマージュとして同じ英国SF作家によって描かれたSFです。時間と空間とを自由に移動できる「スペースマシン」の暴走によって火星に放り出された男女が、蛸型火星人の地球侵略ロケットに密航する形でロンドンに戻りそして・・・という、題名から連想する「タイムマシン」と同じく非常に有名な「宇宙戦争」とを合体させてさらに一ひねりした作品なのですが、主人公エドワードとヒロインのアメリアのある意味ご都合主義的な火星冒険部分はE.R.バローズの一連の作品をも連想させます。
 さすがにハードSFの第一人者が描いた「タイムシップ」に比べると、特に火星の描写に関してやや粗が目につきます。バローズの火星シリーズとは書かれた時代が異なるのに、火星の地表から見た衛星の様子が地球の月とは一目で違うと判らない(大きさがかなり違い、特にダイモスは満ち欠けが判らないレベルに小さい)点や、さらには地球の半分以下の重力の差も始めのうち気が付かないなどの点はかなり気になりました。しかしそもそも火星に薄いながら呼吸可能な大気があり、人類とほぼ区別がつかない知的生命が存在しているという「火星シリーズ」と同様の世界設定の時点で、細かい点を突っ込むのは野暮というべきなのでしょう。
 興味深いのは、火星の機械文明が「スチームパンク」として描かれている点です。ウェルズの初期SF作品が書かれた19世紀末における科学技術が、20世紀初頭の量子力学や相対性理論による一大転換を受けずにそのまま進歩したような文明がスチームパンクですが、火星の鉄道や侵略ロケットの描写はまさにその路線上にあります。これは「タイムマシン」や「宇宙戦争」の世界にそのまま繋げるために、作者が意図的にそのような設定をしたのでしょう。エドワードとアメリアのロマンスが非常に抑制的に描かれているのも、同様にビクトリア朝小説の伝統に則ったものと思います。
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No title

スチームパンクというジャンルを知ったのはつい最近のことでした
元々アニメの「鋼の錬金術師」を見ていて、19世紀末ごろを模しているのかな、中々味のある時代設定だな、と思っていたのですがそれがどうやらスチームパンク的世界観に他ならないと気づき自分の不勉強さを思い知りました

「タイムマシン」「宇宙戦争」が描かれた時代は、まさにリアルタイムだったのでしょうが、その時代背景そのものがジャンル化されているというのは面白いですね

No title

yonetchさん、お久しぶりです。
スチームパンクより広い概念がレトロフューチャーで、確かVOYでトム・パリスが嵌っていたTV番組がその一例ですよね。TOSやさらにはTNGですら、現在からみるとすでにレトロな描写が目立つわけで、全てのSFの「未来技術」は、後の時代から見るとレトロフューチャー化する運命にあるのでしょうね。
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