銀河の間隙より (ランドル・ギャレット著:ハヤカワ文庫SF)

 ずっと以前の中学か高校生時代に一度読んで印象に残っていたSF作品ですが、今回再読してみたところ記憶にない部分が多く、覚えていたのは展開の一部のみだった事を知りました。「銀河の間隙より」という邦題は侵略ものSFの半数くらいには当てはまるのではないかと思えるほどありきたりで、原題の"Anything You can do..."(きみにできるあらゆること)をそのまま生かすべきだったのでは。著者のランドル・ギャレット(ただし発表時のペンネームはダレル・T・ランガート)は魔術が支配するパラレルワールドでの推理小説「ダーシー卿」シリーズが有名な米作家で、内容的には相当に科学的・社会学的考察のしっかりしたSF作品です。
 「地球に単独で侵入した凶暴なエイリアン(ナイプ)と、それに対抗すべく世界政府の秘密プロジェクトによって育成された強化人間との死闘」という物語の本線は印象が強くそれなりに覚えていたものの、主人公の強化人間が一卵性双生児の片割れでそれが最後のどんでん返しの伏線になっている事や、10年の間人間を襲って食らい続け半ば恐怖の伝説と化していたナイプの隠れ家が実はかなり以前から解っていて政府の監視下にあったという部分は、主人公ではありませんが正に記憶から欠落していました。
 実の処、主人公マート・スタントンとナイプとの最後の戦いは「死闘」というにはやや一方的であり、過去10年間の観察と徹底した考察によってナイプの行動を完全にシミュレートしているスタントンの勝利は、読者視点からもまた世界政府視点からでも対決前に明らかでした。驚かされたのは敗れたナイプが殺されず、地球人が初めて接触する異星文明の代表者として賓客として扱われる点です。通常の人々から見ればナイプは多くの人々を無差別に殺して食った残虐な怪物に他ならないのですが、実はナイプは非常に理性的であり犠牲者の遺体を食い尽くしたのも相手に敬意を示す行動だったという事が、ナイプの独白と地球側の専門家による解説によって読者には明かされるとは言え、この結末はかなりの衝撃です。
 「ナイプのもっている知識のほうが、長い目で見れば、何人かの人の生命よりも人類にとってずっと大事なのだと説明することはできるのだろうか?」「ナイプの心にしまわれた貴重な情報のため、いかなる犠牲をはらってもナイプの生命を守らなければならないということが理解できるだろうか?」この引用は結末近くでの主人公の自問自答ですが、非常に悩ましい問いかけです。未知現象の科学的解明は非常に重要であり、人道支援等に回せるであろう莫大な費用を払っても行う価値があるものであるという事は、特にSF愛好家にとっては宇宙開発などを考えれば明らかな事なのですが、一方でもし明らかにすれば絶対多数の人々が反対する事を「無知な大衆には理解できないから」と隠して行う事を正当化するのも相当に難しいだけでなく、非常に危険な考えだと思います。
スポンサーサイト

テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

X^2

Author:X^2
このブログは、旧ブログ
Babylon5以外のメモ
からの移転先として立ち上げました
。連動するホームページである
Babylon5 Episode Guide
にもどうぞ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
リンク