イシャーの武器店 (A.E.ヴァン・ヴォークト著:創元推理文庫SF)

 私の子供時代にタイトルは見ていた作品ですが、読んだのは今回が初めてとなります。作者のヴァン・ヴォークトはSF黄金期を支えたカナダ出身(ただし後に米国籍)の大作家で、デヴュー作「宇宙船ビーグル号の冒険」や「スラン」が特に有名です。今回取り上げる「イシャーの武器店」は日本では後に出版された「武器製造業者」との二部作を成すという事は昔から認識していましたが、解説によると実は「武器製造業者」の方が先に(1947年)書かれておりそちらが本編で、1951年に書かれた「イシャーの武器店」は外伝に近い作品のようです。
 物語の最初に登場して未知の世界に投げ込まれる20世紀の新聞記者マカリスターがてっきり主人公かと思って読み進めるとさにあらず、実際の主人公はケイル・クラークとイシャー帝国の女帝イネルダであり、さらに彼らの行動を操っているシリーズを通しての主人公は武器店の創設者である不死者ヘドロックという奇妙な構成の作品で、マカリスターは時間振り子の一方の錘としてとてつもない未来と過去とを行ったり来たりする役割しか果たしていません。もちろんラストの一行で彼の行為が物語世界のすべてを作っている事が判るのですが、それは半ばメタな話で実際の話には一切かかわってきません。
 この作品世界が興味深いのは、地球全体(というより世界全体)を統治するイシャー帝国と、その支配に対抗する「武器店」との対立において、一方が善で他方が悪という図式ではなく、どちらも相手を必要としているという点です。武器店の執行委員会側はそれをはっきりと認識しており、イシャー帝国側も若くて経験の浅いイネルダ女帝はともかくとして、周囲を固める重臣たちは武器店の存在を容認しており、必要悪というよりむしろ社会の不可欠な一部と見なしています。考えてみると「イシャーの武器店」(The Weapon Shop of Issar)というタイトル自体が、「武器店」がイシャー帝国の不可欠な部分である事を意味しているように読めます。
 「横暴な政府から自衛するための武器を手に入れる権利が全ての者にある」という武器店の基本的理念は、実は現在問題になっているアメリカでの銃規制反対派の主張そのものであるのも興味深い点です。実はこの理念は、英国植民地からの独立という建国の経緯からくるものであり、アメリカ合衆国という国家の根幹に関わる最も重要な思想です。そのため現在の米国のような深刻な状況にあっても銃規制賛成の主張が広がらない訳で、非常に深い問題です。この作品世界での「武器店」の武器は謎の超技術によって「自衛のためにしか使えない」という仕掛けが施されており、それによって面倒な問題を回避していますが、現実世界の武器は常に両方向を向くためにこの作品世界のようにはいかず、それが現代アメリカ社会の抱える大きな問題となっている訳です。
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