ドニャ・ペルフェクタ -- 完璧な婦人 (ベニート・ペレス=ガルドス著:現代企画室)

 ベニート・ペレス=ガルドス(Benito Perez Galdos)は19世紀から20世紀初めにかけて活躍したスペインの国民的作家で、スペイン国内では歴史小説シリーズ「国史挿話」が最も有名ですが、他にも当時のスペイン社会をリアルに描いた多くの小説や劇作を書いており、ここで紹介する「ドニャ・ペルフェクタ」もその一つです。今回はGreenさんによるこちらの記事で興味を持って読んでみました。翻訳者の大楠栄三氏によるかなり長い年表と解説が巻末にあり、著者ペレス=ガルドスの生涯や彼の作品が同時代あるいは現在のスペインにおいてどのように読まれ評価されているのかが詳しく解ります。なお彼の作品のいくつかは同国人ルイス・ブニュエルによって映画化されていて、以前に紹介した「ナサリン」もその一つでした。
 一見すると、開明的な主人公ペペ・レイと叔母ドニャ・ペルフェクタを筆頭とする旧弊なオルバホッサ社交界との対立とその結果の悲劇と見えるこの作品ですが、実際にはそう単純ではありません。進歩思想を徹底的に敵視してペペ・レイに対して陰謀をめぐらすペルフェクタばかりではなく、ペペ・レイの方もまた解説にあるスペイン人特有の「情念」に囚われており、いわば情念同士の対立によって事態はどんどんと悪化して破滅的結果へと導かれていきます。ペルフェクタを筆頭とするオルバホッサ社交界の偽善的な悪どさは明らかですが、ペペ・レイも考えなしに思った事を口に出して相手を不快にさせる人物であり、さらにはロサリオへの情熱に駆られ周囲を巻き込んでの暴走によりオルバホッサと政府軍との戦闘を招いてしまうなど、かなり迷惑な人物です。そもそもかなり近い身内である甥のペペ。レイにペルフェクタが敵意を持ったのも、彼が無思慮にオルバホッサをこき下ろしたのが元々の原因であり、そう考えると彼の運命もいわば自業自得な面があります。

 ところで物語の遠景となっているカルリスタ戦争は、1833年から1876年まで3度に渡って続いたスペインの王位継承をめぐる内戦ですが、同時に近代化による中央集権か伝統主義による地方特権保持かも大きな対立点であり、両勢力の内部でも複雑な対立があって戦争がなかなか収まらない状況でした。この小説が書かれた1876年は長期の内戦に疲弊したスペインが王政復古によって一応の落ち着きを取り戻した年ですが、「情念」の対立から脱却できていないスペインはいずれ過去と同じ道をたどるだろうという著者ペレス=ガルドスの危機感がこの小説に描かれているように思います。


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