ヴィーナス・プラスX (シオドア・スタージョン著:国書刊行会)

 国書刊行会の「未来の文学」はやや変わったテイストのSF作品からなる叢書シリーズで、今回紹介するのはその中の一冊です。著者のスタージョン(1918--1985)は、「SFの90%はクズである。ただし、あらゆるものの90%はクズである」という言葉が有名な米SF黄金期の作家であり、おそらく「人間以上」が最も有名な作品でしょう。この記事を書くために調べてみて、彼はまたStar Trek(TOS)のエピソード"Shore Leave"(おかしなおかしな遊園惑星)と"Amok Time"(バルカン星人の秘密)の脚本も書いた事を知りました。後者は「ヴィーナス・プラスX」の主題と重なる人類とは異なる性的規範を主題とする作品であり、なるほどと思いました。
 ホモ・サピエンスが滅んで両性具有の新人類「レダム人」の住む未来世界に突然連れてこられた主人公がその世界を紹介されるパートと、作品の書かれた現在(1950年代)アメリカにおける子供二人の「普通の」家庭の日常のパートとが交互に描かれており、両方のパートは表面的には最後まで全く交わらないのですが、前者のパートでレダム人から指摘される現代人が当たり前と思っている性差や性規範の人為性が、後者のパートではそれらが実際に揺らいでいる事が描かれています。あとがきにもあるように、性についての議論を積極的に取り上げた所謂「ジェンダーSF」の一つですが、個人的には同じくジェンダー系作家のル・グインの作品に比べると堅苦しくなく気楽に読めた気がします。
 レダム人の両性具有を肯定的に受け入れていた主人公が、それが生まれながらのものではなく出生後の手術によるものだと知った途端に態度を一変させ、レダム人を怪物であるかのように罵るのは、表面上は極めてリベラルであるように振舞っている人間の奥底にも大きな文化的偏見が隠れていて、何らかの理由でそれが現れると偏狭な差別主義者に一変する可能性がある事を示しています。実際に私自身も常にリベラルの立場で振舞う事は心がけているものの心の奥底はある種の差別意識があり、そこを突かれた時には同様に振舞う可能性を否定しきれないだけに、この指摘には非常に考えさせられました。
 ラストでのそれまでの前提を完全に覆すような謎解きは、以前紹介した「創成の島」を思い出しました。ホモ・サピエンスの滅びた原因について「間抜けな」と作中で形容されていたため、てっきり文化的な性的忌避が行き過ぎて出生数が激減したとかいう事かと想像したのですがこれは外れでした。どうやら物語の時点では完全には滅びておらず、ドームの外で愚かな核戦争を続けているようですね。
 ところで作品価値とは無関係ですが、女性の性染色体がXXで男性がXYですから、タイトルの「ヴィーナス・プラスX」は「ヴィーナス・プラスY」が正しいのではないでしょうか?おそらく作者の単純な勘違いで、そこを修正しても筋に何ら関係ないのですから、逆に編集者が指摘して修正すればよかったのでは。
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