月曜日は土曜日に始まる / トロイカ物語 (A&B ストルガツキー著:群像社)

 ソビエトロシアのSF作家中、最も日本での知名度が高いと思われるストルガツキー兄弟の連作中篇です。正直な所、彼らの作品は難解なものが多く、私には全然面白くないものもあるのですが、この作品は楽しめました。
 「月曜日は土曜日に始まる」が三つの中篇からなり、「トロイカ物語」はその続編なのですが、実はこちらは二種類のテキスト(「アンガラ版」と「スメナー版」)が存在し、日本語版は両方のテキストを収録しています。訳者後書きによると、最初に発表されたテキストを掲載した雑誌「アンガラ」は、その内容が体制批判と見なされて発禁処分を受け、ペレストロイカ時代に再び発表されたときにほぼ半分ほどが変更されたという経緯があるそうです。
 物語は、主人公のコンピュータープログラマー、サーシャ・プリワーロフがひょんな事から魔法妖術科学研究所(MYKK)で働く事になった経緯が第一話、彼が大晦日の夜に研究所当直を命じられて起こった出来事が第二話となっていて、第三話は研究所所長ヤヌス・ポルエクトローヴィッチ(二人居るのに同一人物)の秘密がテーマとなります。
 この研究所はロシアのどこかの小さな町にあるらしいのですが、外から見ると二階建てのこじんまりとした建物なのに、中に入ると少なくとも12階、実際には何階あるのか誰にも判らず、各階の広さも数km以上に広がっています。ここで行われている奇妙な研究や、ある意味それ以上に奇妙な研究員たちが引き起こす事件が物語のテーマなのですが、魔法妖術といってもそれほど不気味ではなく、かなり明るい笑えるものが多いです。
 登場するさまざまな妖怪の類は、口を利くカワカマスや「雄鶏の足の生えた小屋」に住むババヤガーなど、スラブ系のフォークロアの登場人物が多いものの、日本を含む全世界に渡っており著者の博識振りが窺えます。(「不死身のコシチュイ」ってどんなキャラクターでしょうか、ご存知の方はお知らせください。)
 しかし一方で、この世界はソビエトロシアの官僚主義がしっかりと支配しており、総務部部長代理のモデスト・マトヴェーエヴィッチの物言いはその典型です。またヴィベガルロやメーリンなども、似たような人物が実際にいくらでも居そうですし、「宇宙のエントロピーを増大させないために一切の仕事をしない」絶対認識部なども皮肉が効いており、学会の一つの側面を表しています。
 なお、「月曜日は土曜日に始まる」という題名は、真の科学者は週末も休まない、つまり「月月火水木金金」と同様の意味です。

 ソビエト官僚主義の極みを描いたのが「トロイカ物語」です。トロイカといっても童謡に出てくる三頭引き橇ではなくて「三人委員会」で、絶対的権限と「大印璽」によって異常現象の合理化を断行しているトロイカと主人公たちとの対決がテーマとなります。
 トップにおべっかを使いながらお互いに足を引っ張り合う二人のNo.2や、一旦思い込んだら一切の説明に耳をかさずに権威を振りかざす所など、トロイカは当時のソビエト体制そのものの見事な戯画になっています。(「お喋り南京虫」って、マヤコフスキーの戯曲と関係あるんでしょうか?労働者階級に寄生している知識人の戯画らしいとは想像つくんですが。)
 ただし先に書いた二つのテキストでは展開が少し違っており、物語の舞台もアンガラ版では研究所の76階にある街チムスコルピオンですが、スメナー版では研究所と少し離れた魔法の街キテジグラードです。(たまたま読んだ別の本の注釈によると、キテジグラードとは、ロシアのフォークロアに現われる、次のキリスト出現まで湖底に沈められた都市の名です。)
 全体としてはアンガラ版の方が皮肉がよりストレートで、最後はトロイカとの対決に疲れ果てた主人公たちが骨抜きにされかけた所で、彼らの上司たちが救援に現われて終わります。この顛末などは著者のそのままの思いかもしれません。

注記:この記事は、既に消えてしまった旧ブログ「Babylon5以外のメモ」の残っていたキャッシュからコピーしたものです。(2010/04/17)
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