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幻の国を売った詐欺師 (ディヴィッド・シンクレア著:清流出版)

 いつの世にもまたどこの国でも世間を騒がす詐欺事件というものは存在しますが、ここまで壮大な詐欺はさすがに珍しいでしょう。今回紹介するのは、どこにも存在しない国の国債や土地を大々的に売り出し、さらにはその幻の国に植民者を送り込んで多数の死者を出した、という19世紀英国における驚くべき詐欺事件について、その主犯の生涯も含めて詳しく紹介したドキュメント本です。新聞の書評に惹かれて少し前に読んだ「世界をまどわした地図」でこの詐欺事件について初めて知りました。
 主人公の詐欺師グレガー・マグレガーはスコットランドの名門一族の端くれとして生まれ、士官として軍隊に勤務するものの生来の虚飾癖と怠け癖によってどこでも周囲と衝突しては飛び出し、各地を転々としていました。その中で南米に渡った彼は、やがて現在のホンジュラスからニカラグア北東部の海岸部に新たに独立したというポヤイス国の支配者を名乗りロンドンに登場します。当時のイギリスではスペインから次々と独立した中南米諸国の国債が大々的に売りだされ、素人も含めて多くの人が争って買い求めていました。そのような状況下、堂々とした押し出しの「ポヤイス公」自らが宣伝したポヤイス国債もまた順調に売り出されます。さらにポヤイス公は、単なる労働者だけではなく新独立国の官吏を始めとする上流階級の移民も土地付きで募集し、それに応じた多くの人々がチャーターされた船に乗ってポヤイス国の首都に向けて出発しました。ところが彼らが到着した場所は、首都どころか集落すら存在しない原野で、帰国の手段もないままそこに放り出された人々は飢えや病気に苦しみ、ベリーズからの船によって偶然発見されて救出されるものの最終的に百人以上の死者を出す惨事となりました。
 驚くべきは、騙されて中米の原野に置き去りにされた労働者の多くが英国に帰国後も「ポヤイス公」グレガーを信じ続け、惨事の原因はポヤイス公の信頼を裏切って彼を利用した周囲の者たちにあると主張したことです。ポヤイス国の上級官吏になるつもりで移民に応募した上層階級出身者は、自分たちがグレガーの詐欺にあった事を間もなく悟りさっさと現地を脱出して損害の一部でも取り返そうとしたのに対し、一般の労働者として移民に応募した人々は何とかして原野を開拓して社会を築く事を望み、その指揮を取ろうとしない指導者に不信感を募らせるという両者の意識のずれが一つの理由ですが、詐欺の被害者に特有の「自分が手ひどく騙された事をあくまで認めようとしない」思考回路がより大きな原因と思われます。
 一方でここまで多くの人々を見事に騙したグレガーは確かにある意味で天才詐欺師かもしれません。当時の情報伝達の遅さや遠方の情報の真偽確認の困難さ、そして南米の新興国ブームを利用した彼の計画は、「あまりに大きな嘘は、まさかそんな嘘はつかないと誰もが思うのでばれない」という大詐欺の原則を正に地で行くものでした。また、状況が悪化したときの逃げ足の速さも中々のものです。
 当然重罪に問われるべき大惨事を引き起こしたグレガーですが、さすがにイギリスからは逃げ出したもののその後もフランスでポヤイス国の売り出しを続け、一旦は逮捕されるものの裁判で無罪となって、最後にはベネズエラで建国の英雄の一人として迎えられて1845年に死んだときは陸軍葬で見送られました。実際に彼がベネズエラの解放戦争で戦って一定の成果を挙げた事は事実ですが、その功績は彼自身の大言壮語によって大幅に増幅されたもののようです。
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