プーチンの国 -- ある地方都市に暮らす人々の記録 (アン・ギャレルズ著:原書房)

 1990年のソ連崩壊後に民主化へと向かうかと思われたロシアは、2000年のプーチン大統領就任以降再び抑圧的な権威主義に覆われ、政治面ではソ連時代に戻ったかのような状態が続いています。クリミア半島併合やウクライナ紛争への事実上の軍事介入などに対する欧米諸国の度重なる制裁による経済状況の悪化によって「今度こそプーチン支配は揺らぐのでは」という希望的観測とは裏腹に、ロシア国内でのプーチン支持率はむしろ上昇して国内政治基盤が盤石となっているのはなぜなのかを、ロシアの地方都市チェリアビンスクに住む人々の暮らしから探った本です。著者のアン・ギャレルズは嘗てTVネットワークABCのモスクワ支局長を務めたジャーナリストで、1982年に「ペルソナノングラータとしてソ連を強制出国させられた経験がありますが、ソ連崩壊後の1993年からモスクワとは異なる真のロシアを代表する地方都市として無作為に選んだチェリアビンスクを2015年まで定期的に訪問してこの本を書きあげています。
 無茶苦茶な言動を繰り返し国内外に混乱をもたらしている米トランプ大統領が、政権発足から一年経っても公約をほぼ実行できていないのにも関わらずなぜその支持率がほとんど下がらないのかを、彼の支持基盤であるラストベルトに入り実際の支持者から取材調査した書籍や記事は日本でもいくつか見られますが、それ以上に盤石の支持率を誇る露プーチン大統領が、どのような理屈で支持されているのかを解説している本はあまりなく、その点で非常に貴重な内容です。
 ソ連崩壊後のエリツィン時代はロシアにとって混乱というか大混迷の10年であり、国家資産をネコババしてしこたま儲けたごく一部のニューリッチ以外の一般人にとっては生活する事自体が極めて困難な苦しい時代でした。どっと入って来た西側文化や言論の自由に目を輝かせたロシア人たちもやがて、一向に良くならないというよりむしろはるかに悪化した経済や生活レベル・治安に失望し、これなら自由はなくても少なくとも治安が保たれ飢え死する事はなかったソ連時代の方が良かったと思う人々が増えていきます。そして登場したプーチン政権の下では、折からの国際資源価格高騰の恩恵も受け経済は好調になり、さらに強権手法によって治安も改善していきます。そのため、特に経済的に疲弊していた地方のロシア人にとっては、基本的な衣食住すらなく生活が成り立たなかった混乱のエリツィン時代は最悪であり、言論が制限されていても一定レベルの生活を保障できる強力なプーチン政権の方が遥かにましな訳です。実の処、通常の欧米メディアと接触のあるロシア人はモスクワやサンクトペテルブルグの人間に限られており、彼らの意見は一般のロシア人の意見を代表していません。そのため、経済制裁によってロシア国内にもプーチン政権への不満が高まっているような欧米での報道は、特にロシアの地方都市での状況とはまったく異なっています。
 さらに言うと、ソ連時代には曲がりなりにも世界の超大国の国民であったロシア人にとって、西側諸国から三流国扱いされ過去の栄光をすべて否定されたエリツィン時代は、彼らの誇りを酷く傷つけられた決して我慢ならない時代でした。そのため現在のプーチン政権のウクライナへの介入を始めとするソ連外交回帰は、国民にとって誇りを取り戻し歓迎できるものであり、欧米の制裁はむしろ却ってプーチンへの支持を高める原因となっています。
 色々書いてみると、ロシア国内でのプーチンへの支持の高さの原因は、日本の安倍政権へのそれと極めて似ている事に気が付きます。内部対立によって重要な決定ができなかった民主党政権にウンザリした国民が選んだ現政権は、プーチン政権のそれとはレベルが異なるものの自らへの批判を許さない強権的手法を取りながらも、5年間の間その支持率はかなりの高水準を保っています、批判勢力に「フェイクニュース」のレッテルを張る手法は米露両政権とも共通ですが、全体的には安倍政権の手法は米トランプ政権よりもむしろ露プーチン政権のそれに近いように思えてきます。それは日本とロシアそれぞれの国民気質が、アメリカとは異なり「お上任せ」である点と関係しているのではないでしょうか。
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