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ハローサマー・グッドバイ (マイクル・コーニイ著:河出書房)

 以前に紹介した「ブロントメク!」と同じ作者の長編SFで、やはり地球とは天文学的条件の大きく異なる惑星での生態系を扱うと共に、ドローヴとブラウンアイズという若い恋人たちを主人公とする青春小説でもあります。piaaさんがブログで絶賛していたので私も読んでみましたが、なるほどSFとしてはやや粗いものの、非常に面白い作品でした。
 舞台となる惑星には地球人によく似た原住民が生活しているものの、この時点では地球とは接点がなく、彼らは地球からの植民者の末裔などではなく、この惑星で独自に生まれた種族です。この作品の続編となる「パラークシの記憶」では、同じ惑星の恐らく1000年以上後の出来事を描いており、そちらでは地球人が舞台の惑星に到達しているのですが、「ブロントメク!」と共通する世界なのかははっきりしません。正直なところ、この「ハローサマー・グッドバイ」で残された謎の多くが続編の「パラークシの記憶」において解決されることになるので、こちらだけ単独でレビューを書くのはやや難しく感じます。そのため以下では主に舞台となる惑星と生態系について記載しておきます。
 舞台となる惑星の自転軸は天王星と同様に公転面とほぼ平行であり、さらにその公転軌道は離心率のかなり大きな楕円軌道です。この公転軌道のため太陽からの距離によって季節変化が起こるため、両半球で季節が逆となる地球とは異なり惑星全体で四季が同期しています。自転軸は近日点で公転軌道と接する向きなので、夏(近日点)冬(遠日点)では一日の間に昼夜が繰り返すのに対して、春秋には一方の半球がずっと昼で他方が夜となります。作中の描写からすると、どうやら春には南半球が昼で、秋には北半球が昼となるようです。惑星そのものが太陽から大きく離れる冬の期間は地球の冬よりも遥かに過酷であり、そのためこの惑星の人々は寒さを非常に恐れています。実際、冬ではなく夏の夜であっても、寒さに対する恐怖は精神異常を引き起こすほどで、寒さそのものよりもそれによる精神異常によって命を落とす事が多いようです。
 もう一つ重要なのは、外側の軌道を公転している惑星ラックスの存在です。この惑星は恐らく木星型の巨大惑星であり、その引力は舞台の惑星の運動にかなりの影響を与えています。実はラックスは元々はこの太陽系の一員ではない自由浮遊惑星であったものが太陽系に捕らえられた存在であり、、さらに舞台の惑星自体も元々はラックスの衛星であると考えられています。この設定が物語ラスト近くでの大破局につながってきます。
 次に惑星自体の地理ですが、両極ともに広大な海に覆われ、その間に赤道を半周以上覆っている単一の大陸があります。つまり南北の大洋を比較的狭い海が結んでいる訳ですが、大陸西岸にあるのが主人公ドローヴの属する国エルトであり、海を挟んで反対側の大陸東岸にあるアスタと慢性的な戦争状態にあります。エルトの首都アリカは南半球の内陸にあり、一方で物語の舞台となる港町パラークシは北半球にあります。春から夏にかけて夜のない南半球の海が熱せられ、大量の水が蒸発して濃くなった海水が両大洋を繋ぐ海を北に流れる「粘流」という現象が夏の終わりに毎年起こり、この粘流による海の恵みがパラークシの経済を支えているだけでなく、この物語で起こる事件や主人公たちの行動にも関係してきます。そして秋になると待機中の水分が大量の雨となって降り注ぎ、やがてそれが雪に変わって長い冬に入ります。
 大陸の深内陸部がどうなっているかはほぼ説明がないのですが、エルトとアスタ両国以外の国の存在が見えないので、恐らく両国とも大陸両端の比較的沿岸部にのみ領土が存在し、内陸部は広大な無人地帯が広がっているのではと想像しています。
 惑星に生息している人類は地球で言えば19世紀後半程度の文明レベルにあり、電気は主に照明に利用されているものの動力の主役は内燃機関です。ここで興味深いのは、燃料として用いられているのは植物由来のアルコールであり、石炭・石油がまったく存在しない事です。これは化石燃料が単に発見されていないのではなく、実はこの惑星自体に化石燃料が存在しない可能性が高そうです。この辺りのやや奇妙な設定は、「パラークシの記憶」での謎解きと関係がありそうです。
 人以外の主要な生物種としてロリンが居ます。ロリンは恐らく人よりやや小型の毛深い類人猿であり、半知性体であるばかりでなく弱い精神感応力があるようです。その他に馬やヤギに似たロックスという大型哺乳動物が家畜として使われており、一方で「氷魔」を始めとする地球とは全く異なる生物も存在しています。さらにこ惑星の植物は地球のそれとはかなり異なり、ある程度の運動能力を持って捕食可能な食肉植物が多いようです。

 さて、この物語のラスト近くになって、「大氷期」の到来という事件が起こります。この惑星の軌道はラックスによって大きく乱されているのですが、実はその結果再びラックスの引力に捕らえれてラックスを公転する軌道に入るようになり、いわば「永遠の冬」が訪れる事になります。実際にはこの長い冬は40年ほどで終わり、再び惑星は元の楕円軌道に復帰するのですが、通常の人類はその長い冬を生きて超える事は出来す、文明が滅びる事になります。実はエルトの政府上層部は大氷期の到来に気が付いており、アスタとの戦争もそれに備えた「やらせ」で、首都アリカを占領されてパラークシに逃れた政府の移った先が実は大氷期を乗り越えるために事前に用意していた地下施設でした。この施設にはもちろん40年分の燃料や食料が備蓄されているものの、その恩恵を受けられるのは一握りの政府首脳部だけで、残りの国民は棄民とされる運命でした。政府要人の息子であるドローヴは地下施設に入れた一方で、パラークシの民間人の娘であるブラウンアイズは外に置き去りとなり、引き裂かれた恋人たちの運命がどうなるか、ラスト数ページまで全く見えずにハラハラしながら読み進めていくと、やや唐突な結末を迎える事になり、これが続編の「パラークシの記憶」につながっていきます。
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