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魔の沼 (天沢 退二郎 著:筑摩書房)

 少し前に紹介した「オレンジ党と黒い釜」の続編で、「三つの魔法」シリーズの第二話となります。実はこのシリーズの作内時間は第一話から第四話までを通してある年の4月から11月までのわずか半年程度に過ぎず、この「魔の沼」は「オレンジ党と黒い釜」から2か月ほど経った7-8月頃、小学校の一学期が終わり夏休みに入った頃の話となります。オレンジ党の本来のメンバーである6人の小学校6年生のうち、名和ゆきえが遠くの施設に預けられて姿を消し、その代わりに中学生の田久保京史が準メンバーのような形でオレンジ党と共闘しています。「オレンジ党と黒い釜」では基本的にとき老人の導きに従って行動していたオレンジ党ですが、とき老人が姿を消したこの話では彼ら自身で遭遇した出来事の意味を考え、この先に何が起こるのかを予想して行動する必要に迫られ、特に李エルザのリーダーシップが際立ってきます。前話では六方・千早台両小学校の近辺が中心だった冒険範囲もより広がり、新たに登場した地名から舞台のモデルが現在の千葉市北部から印旛沼の辺りであるのがはっきりとしてきました。恐らく現在ではすっかり住宅街となっているはずですが、この物語の想定されている時代(1950-60年頃)は実際にこのような半田舎の風景が広がっていたのでしょう。
 物語はルミの見た(物語の)現実世界では存在しない黒い沼の夢から始まり、その沼の出現を始めとする異常現象がルミの体調異常と同期して進んでいきます。「黒い沼」は前話での黒い釜の中身と同様に現代社会によって作られ自然を破壊する汚染物質を象徴しており、前話や「光車よ、まわれ!」ではそこまで明確ではなかった作者の現代文明への批判が現れています。ルミの異変も環境汚染の人体への影響を表わしているのでしょう。一方で黒い沼から現れた今回の主敵である「沼の王」の描写はスイマジン大王に酷似しており、「光車」の世界とのつながりも暗示しているかのようです。
 前話では影の薄かったルミの父親ですが、今回は父親としてだけでなく六方小学校の鈴木先生としても物語にかなり関わっています。さらに謎めいた政治的な動きによって六方小学校の存立自体が危ぶまれる状況が起こり、先生たちもこの動きに翻弄されています。この背後にあるのは実は古い魔法や黒い魔法ではなく、さらに危険なものであった事が後に明らかになっていきますが、この話ではそれは明らかにされません。なお終章で六方小学校の校舎跡地に湧き出した「物言う泉」の水を飲み、言葉を取り戻したルミの一言で、小学校の先生を務めながら著作活動もしている鈴木先生は実は著者の分身であり、現在彼が書いている童話こそがこの作品そのものである事が暗示されています。
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テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

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