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オレンジ党、最後の歌 (天沢退二郎 著:復刊ドットコム)

 オレンジ党シリーズの最終巻で、三部作が書かれた1980年代からかなり時代を経た2011年に出版されています。この「一旦は完結していると思われていた三部作に、ずっと後に四作目が書かれる」というのは、ル・グィンの「アースシー三部作」と全く同じ経緯で、偶然とは思えない何かを感じます。そしてまた、東日本大震災とそれによる原発事故の影響が明らかにみられるこの作品は、かなり癖があるオレンジ党シリーズの中でも最も政治的主張が強く感じられる「問題作」であり、読者によって好き嫌いが相当に分かれるのではないでしょうか。少なくともはっきりと見えるのは、ここ十年程度の間に特に顕著になってきた日本における一連の政治的・社会的状況に対する著者の強い危機感です。
 「魔の沼」と同様に夢のシーンから始まる本作ですが、この夢を見ているのはルミではなく、「オレンジ党と黒い釜」の直後に遠くの施設に預けられて物語から一旦退場していた名和ゆきえです。彼女が六方小学校に戻ってきてオレンジ党が復活し、ルミたちと一緒に房総丘陵地帯での冒険で謎の勢力と対決する前半部分は、非常に大雑把にまとめれば「オレンジ党、海へ」までの三部作とほぼ同様の展開なのですが、中盤以降からはもっと不思議な展開になっていきます。「魔の沼」のラストで暗示されたようにルミの父親である鈴木先生は作者の分身であり、このオレンジ党の物語自体が鈴木先生の書いている児童文学作品であるという設定があったのですが、ここにきて鈴木先生が現在書いているあるいは書こうとしている内容と物語内の現実とが重なり合い、さらにそこにこれまでの「三つの魔法」や「緑衣隊」とは異なる「青い目の男たち」の勢力が絡んできます。この勢力は描写的に米国あるいは米軍を思わせるのですが、彼らが国内において公式政府を超える権力を持つらしいという設定あたりから、単なるファンタジー小説とはっきり異なる妙な「危ない」方向に話が進んでいき、ラストの大破滅で幕を閉じます。「オレンジ党、海へ」がすでに、主人公たちの(物語での)「現実世界」での死を意味しているようにも読めるものでしたが、本作は明示的に書かれている「鈴木先生の死」も含め、今度こそオレンジ党の終了をはっきりと示しています。
 あとがきによると、この作品は実際には2006-7年にすでに脱稿していたのが諸般の事情で出版が遅れていたとされています。しかしラストの大津波と放射能汚染による大破局の展開は2011年の東日本大震災以降に書かれた、少なくとも大幅に修正されたとしか思えません。(大地震による)大津波とそれと連動する放射能汚染自体が取り込まれている事は、もしこの想像が当たっているのなら当然なのですが、地震そのものが「青い目の男たち」によって引き起こされたと示唆する部分は、大震災後の「アメリカの地震兵器デマ」をどうしても思いださせてしまい、いくらファンタジー小説とは言ってもさすがに引いてしまいました。「光車よ、まわれ!」を始めとして、作者の一連の児童文学作品は私のお気に入りなのですが、正直なところ、このラストでは「これまでその言動に尊敬の念を抱いてきた有名人が、急に妄想じみた事を言い出した」といった感じの後味の悪さを覚えました。
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