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超生命ヴァイトン (エリック・フランク・ラッセル著:ハヤカワ・SF・シリーズ)

 子供の頃にジュブナイル版を読んだ記憶があり、その後にラインスターの「ガス状生物ギズモ」を読んだときにしばらく両者を混同していた記憶が残っています。ただ、今回改めてハヤカワ版を読んでみると、子供のときの記憶と相当に違っているのが謎です。もしかするとジュブナイル版は大幅に縮約されていたのかとも思ったのですが、こちらのジュブナイル版紹介記事にある各章サブタイトルを見る限りでは、そうでもなさそうです。
 エリック・フランク・ラッセルは英国のSF作家で、この作品(原題は"Sinister Barrier")は彼の代表作であるだけでなく、「人類は地球上の主人ではなく、はるかに高度な生命の家畜である」という「人類家畜テーマ」を生み出した作品として知られています。雑誌に発表されたのが1939年で、本としての出版は1943年なのですが、興味深いのはヴァイトンによって引き起こされた世界大戦において「原爆」が登場している点です。ただ、こちらから参照できる原作のその部分の英語は"atomic bomb"ではなく"atom-bomb"となっているので、現実の原子爆弾というよりも20世紀初頭にすでに知られていた「原子核内に存在するエネルギーを利用した強力な爆弾」程度のニュアンスで書かれているのかもしれません。
 今回読んで感じた印象は、「非常に恐ろしい話」というものです。「人類家畜テーマ」とヴァイトンの無敵さ・悪辣さ、また終盤における全面戦争で人類そのものが滅亡寸前にまで追い込まれていく「心地よい破滅」とは対極的な展開が恐ろしいのは間違いないのですが、より恐ろしさを感じたのは、「自分たちの主張は無条件に正しいので、すべての報道機関は疑いを持たずにそれを報じるべきだ」という主人公側の思想です。もちろん作品の前提として、ヴァイトンの存在と彼らが人間の心を操る事ができるという主人公側の主張は疑う余地のない真実であるのですが、少なくとも作品内の記述ではそれが真実であるという証拠が余りにも薄弱です。その状況で、自分の主張に反対するものはヴァントンに心を操られていると断言するその態度は、トランプ米大統領や現在の日本の首相、さらにトルコやフィリピンの半独裁的大統領と重なって見えます。
 もう一つ印象的だったのが、ヴァイトンに操られて欧米側に全面戦争をしかける「アジア連合」の中核がどうやら日本と思われる点です。作品が書かれた1939年の時点から見るとこの想定は必ずしも的外れではないのかもしれないのですが、一方ではその直前まで「合衆国と一番友好関係にあった」とされており、先に書いた「原爆」を含めて、雑誌発表後に一部書き直されているのではと思われます。そうなると逆に、第二次大戦で完敗して国力を失った日本が、その後の現実世界で戦前以上の大国に復興するのを想定できたのは驚きです。
 ところで、ヴァイトンが人類を飼っていた理由が「感情を食べるため」というのは、Star Trek TOSの一話"Day of the Dove"「宇宙の怪!怒りを喰う!」に同様の生命体が登場していました。もしかしてこのヴァイトンが元ネタなのでしょうか。
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テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

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X^2さん、お久しぶりです

「非常に恐ろしい話」というのは少々ビビりますが、
TOSつながりとなると看過できません。

先日ついにDSC S2が終了し、
TOSの関連エピソードもチェックしたいところで、
ご紹介の本も、ぜひ入手して読んでみたいと思います。

No title

yonetchさん、久しぶりのコメントをありがとうございます。実はこの本はハヤカワ文庫のシリーズではなく、もっと細長い新書版なので、入手が困難かもしれません。私自身がそうだったように、大きな図書館で探すのが一番現実的かも。

No title

「ヴァイトン」、Amazonで入手できました!
なるほど、"Day of the Dove"に共通するものがありますね。

人類家畜物の祖という位置付けだそうですが、訳のせいか少々読みづらいものの
作品として面白かったです。

昭和44年発行で、作品の年代設定が2015年となっていますが
1939年の作品ということは、70年以上の未来を描いたワケですね
現実世界は既に過ぎていることに一種感慨深いものが。

そしてまた、そんな未来でも通信手段が電報だったり、
交換手のいる電話だったりするところがなんとも時代を感じます
ここまでくるとレトロフューチャーというのとも違いますよね(^^;
主題のプロットのみならず、周辺のガジェットにも絡めるという手法は
まだ確立されていなかったのでしょうか
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