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トリポッド 2 脱出 (ジョン・クリストファー著:ハヤカワ文庫SF)

 前話での征服からおよそ100年後の世界を描いた本作は、1967年に発表されたオリジナル三部作の第一話となります。
 トリポッドに完全に支配されたこの時代、征服前の科学技術文明はほぼ完全に失われ、人々は中世封建時代さながらの暮らしをしています。生まれた子供は14歳になると、トリポッドによって金属メッシュ状の皮膚と一体化した「キャップ」を被せられる「戴帽式」という儀式を受けますが、キャップを被った者(キャップ人)はほぼ好奇心を失い、トリポッドの支配に対する一切の疑問を失ってしまいます。どうやらこの金属製キャップはトリポッドへの忠誠心を受け入れるように脳にシグナルを送り続ける装置らしく、「トリポッド1」での描写では、征服時に使われた旧来のキャップの恒久的な「改良版」のようです。
 ブリテン島南部の村に住む主人公の少年ウィル・パーカーは、慕っていた従兄が戴帽式の後で性格が変わってしまった事を切っ掛けにしてトリポッドの支配に疑問を持ち、村にやってきた放浪者(実はキャップの影響を受けていないレジスタンス)に教えられた白い山にあるレジスタンスの拠点(第一話の主人公が逃げた登山電車のトンネル)を目指して村を抜け出し、二人の仲間と共に旅をします。この第二話では、その逃避行の最中で見た征服前の人類文明の廃墟や、途中で出会った人々の様子、そしてトリポッドによる追跡と戦いがウィルの視点から描かれています。
 この中で興味深いのは、「赤い塔の城」に住む貴族たちの様子です。おそらくフランス東部のどこかであるこの地域では、ウィルの生まれた村より人々は豊かで開放的に暮らしており、領主の伯爵夫妻もキャップ人としては開明的です。ウィルは伯爵夫妻の娘エロワーズと淡い恋に落ち、彼を養子にしたいという伯爵夫人の申し出もあって仲間の二人と別れて城に残る事を本気で考えますが、そのエロワーズがトリポッドに奉仕するために「都市」に行って永遠に戻らず、しかも彼女がその運命を熱望している事を知って衝撃を受けます。
 実の処、この第二話で描かれているトリポッド支配体制は、ヨーロッパ中世から近世におけるキリスト教会による社会支配そのままです。世俗社会では権力者である王族や貴族たちもトリポッドの支配に疑問を持つ事はなく、娘を溺愛している伯爵夫妻もトリポッドへの奉仕のために彼女と一生の別れをする事を当然のものとして受け入れています。この体験によってキャップが人間の最も基本的な感情さえも奪っている事に気が付いたウィルは、彼より先に白い山に向かった仲間を追って城を抜け出し、追ってきたトリポッドと戦う事になります。
 この作品が描かれた1960年代後半は、フランスでの「五月革命」を始めとして西ヨーロッパでそれまでの政治体制や社会通念が大きく揺らいだ時代です。特に従来のキリスト教会の教義に対して、それに反対するさまざまな運動が行われ、それは現在にもつながっています。おそらくこの時代の雰囲気がこの作品に大きく反映されているように思います。
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