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虚像のエコー (トーマス.・M・ディッシュ著:ハヤカワ文庫SF)

 ブログリンクにもある イクシーの書庫で紹介されていて興味を持った作品です。著者のThomas Michel Disch (1940--2008)はアメリカのSF作家ですが、1960年頃にイギリスSF界で起こったニューウェーブ運動の中心作家の一人であり、1967年に発表されたこの作品もその一つです。ニューウェーブ運動とは、それまで主流だった銀河を股にかけるスペースオペラに代表されるような大仕掛けのSFのアンチテーゼとして、人間心理などの内的宇宙の探求に焦点を当てた作品であり、実際この作品も「火星基地への転送」は単なる舞台装置に過ぎず、その副作用として生じたエコー達の人間的葛藤をテーマとしています。正直なところ、主人公ハンサード大尉のパートに第三者というか解説者的な視点のパートが挟まった形の記載は読みやすいとは言えず、また冒頭部分でのハンサードは石頭すぎてやや共感しにくく感じたのですが、彼の思想の理由がベトナム戦争でのトラウマにあると解って以降は、あまり違和感を覚えずに読み進められました。
 実はこの作品に興味を持った理由は、転送機のエコーによってコピーが生じ、そのコピーが生存するためにはコピーされた食料が必要という展開が、ずっと以前に読んだスタートレックのオリジナル小説「二重人間スポック!」にそっくりだったからです。ただそちらではコピーは鏡像ではあったもののオリジナルと同等の実体を持ち、両者の対決がテーマとなっていたのに対し、こちらではオリジナルの世界からコピーの世界は認識できず、存在しないのと同じという点は全く違います。ただしコピーの側からは光学的にはオリジナルの世界が見え、オリジナルの世界にメッセージを届ける事が非常に困難ではあるものの不可能ではない事が終盤になって分かるため、核戦争によるオリジナル世界の滅亡を防ぐという目的が果たされることになります。ハンサードも含めてこの辺りの人物設定には、すでに泥沼にはまっていたベトナム戦争の影響が明らかに見て取れます。
 転送技術の理論を独力で完成させた天才数学者パノフスキーがもう一人の主人公であり、彼もまた第二次大戦前のドイツや亡命後のアメリカでの経験がトラウマとなって、人間嫌いというかむしろ社会への無関心が習い性となっています。それでも彼は自分や妻のコピーの生活に対する思いやりは十分にあり、理論的に転送に寄ってコピーが生じると気が付いてからは、自らを軟禁している軍当局を騙してコピー世界に空気や水・食料を始めとする物資を送り込んでいます。そしてそのパノフスキーのコピーはオリジナル世界の破滅を避ける方法を思いついており、ハンサードのコピーがそのプランを実行します。ただ正直なところ、この最後の結末部分はこちらも読んでいて混乱してしまい、きちんと整合しているのかどうか確信が持てません。
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