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タイム・パトロール (ポール・アンダースン著:ハヤカワSF文庫)

 Poul William Andersonは、20世紀の米SF界をかなり長期にリードした有名作家の一人であり、多作かつ外れのない作家として知られています。どういう訳か私自身はこれまで彼の作品をほぼ読んだ事がなく、確認したところこれ以前にきちんと読んでいた長編は「天翔ける十字軍」一作だけでした。これも今回調べたときに初めてアンダーソン作品と知って、彼の作風の広さに驚いた次第です。私のイメージする彼の作品は、代表作「タウ・ゼロ」を始めとするハードSFの方なのですが、今回取り上げる「タイム・パトロール」シリーズはややそのイメージとは異なる「スペースオペラ」ならぬ「タイムオペラ」とでもいうべき展開です。ただし、そこに描かれている歴史的描写や「歴史のイフ」が起こった場合のシミュレーションには、ハードSFの大家らしい綿密さを感じさせます。この「タイム・パトロールシリーズ」は雑誌連載された中編小説からなり、本作はその初期の4編をまとめたものとなります。
 主人公エヴァラードがタイム・パトロールにリクルートされ、漸新世に設けられた施設で訓練を受けたあと最初の任務を行い、その後の事件の結果無任所職員としてさまざまな時代で任務をこなす事になる経緯を綴る第一話「タイム・パトロール」の後、第二話「王者たるの勇気」では、すでにエヴァラードはベテラン隊員として、行方不明となった友人のパトロール隊員を探して紀元前6世紀のアケメメス朝ペルシャに向かいます。さらに第三話「邪悪なゲーム」では、正史に反して14世紀に北米大陸に渡った元の探検隊と対峙し、第四話「滅ぼさるべきもの」では大規模な歴史改編に巻き込まれたエヴァラードは、その原因を突き止めて元の歴史に戻すために奮闘します。
 未来世界においてタイムマシンが実用化されるとそれを悪用して歴史改変を試みるものが現れ、それに対抗するための組織が作られる、というのはある意味定番なのですが、この作品世界でのタイム・パトロール組織の主導者であるデイネリア人は、ほぼ影に隠れて指示のみを与える存在であり、一般の隊員の前に姿を現しません。デイネリア人は恐らく100万年以上未来の人類であり、現存人類とは姿や思考も変わっているようです。実の処、彼らは必ずしも絶対善とも思えず、彼らが守ろうとしている歴史が本当の「正史」なのか微妙に思われる部分があります。例えば第三話での元の探検隊による北米大陸発見は、タイムトラベラーによる介入ではなくその世界の人間が独力で成し遂げたものです。始めは穏やかな手段で探検隊を引き返させそうとしたエヴァラードですが、それに失敗して同僚が瀕死の重傷を負った事もあり、探検隊が本国に戻れない強硬手段を取ります。この処置はどうやら彼がパトロール上層部から指示を受けた結果のようで、それによって元が北米に到達しない歴史は保たれたものの、それが本当に正しかったのか、エヴァラートは(そして読者も)疑問に悩まされます。
 タイムトラベル自体は、超光速飛行と同様あるいはそれ以上にある意味荒唐無稽なものであるため、タイムトラベルもののハードSFを成立させるのは、厳密にいえばかなりの困難性があります。特にタイムマシンの動作原理に関してはブラックボックスにせざるを得ませんし、タイムパラドックスをどう扱うかは作者の腕の見せ所とは言え、これも厳密に考えればどのように扱っても矛盾は生ずることになります。一方で、この作品にある「歴史の自己補正作用」は一見すると荒唐無稽なご都合主義に見えますが、実はそうでもないかもしれません。「バタフライ効果」で有名となったカオス理論では、ごくわずかの過去の改変が未来の世界を大きく変えてしまい得るのですが、実は天体力学においては初期値鋭敏性のあるカオス的な多くの系が、それにも拘らず時間長期的にかなり一定の状態に留まっていることが知られています。これを説明するのが、カオス系であってもその後の状態は相空間のごく一部にとどまるというKAM(Kolmogolov-Arnold-Moser)理論であり、これが正に大抵の歴史的事件はそれだけを変えても長期的にはほぼ元と変わらない歴史が実現するという「歴史の自己補正作用」の説明になっているように思います。第二話のキュロス二世の運命は実際にそれであり、歴史的には重要人物である彼が幼児のときに殺されても別人が入れ替わって後の歴史には分かるほどの変化をもたらしていません。ただし同時に、ある特異的事件ではそれを変える事によって後の歴史が全く変わってしまう場合があり、第四話ではポエニ戦争でのカルタゴの敗北がその事例となっていました。
 ところで第四話ラスト近くに描写されている、ティキヌスの戦いで大スキピオがあわやタイムトラベラに殺されそうになる部分は、なぜかここだけ確かに読んだ記憶があります。何らかの形で部分的に別翻訳がされていたのでしょうか?
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