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焦熱期 (ポール・アンダースン著:ハヤカワ文庫SF)

 こちらもハードSFというべきか、少なくとも天文学的設定は非常にしっかりとした作品です。三つの恒星からなる連星系というのは、基本的にはこの作品のアヌ・ベル・エア系タイプしかありえない、つまり比較的近い距離を公転しあう連星系のはるか外側を第三体が長周期で公転する形しか安定ではなく、通俗SFであるような三つ以上の恒星が互いに近距離に存在する事はありえません。さらに言うと、そこに安定して惑星が存在するのなら、それも必然的にこの作品のようにどれか一つの恒星のみを公転するタイプであり、そのため内側の連星系の周期も人間レベルで言えば十分に長い必要があります。
 ただしアヌ・ベル・エア系の天文データに関しては疑問があります。アヌとベルの近星点距離が40auで遠星点距離が224auという事は、イシュタルから見たアヌの両点での光度比は(224/40)^2=31であり、4等級程度しか変わりません。従ってアヌの近星点での光度が太陽とほぼ同じベルの20%程度とすれば、遠星点に位置していても満月よりははるかに明るい-20等級程度はあるはずです。一方で、赤色矮星であるエアの距離が6000auすなわち0.1光年という事は、イシュタルから見たその明るさはせいぜい-3等級であり、せいぜい非常に明るい恒星としか認識できないはずです。天球面での動きも極めて遅いので、恒星ではない「もう一つの太陽」とは認識できないのではないでしょうか。ただイシュタル人の寿命が地球人よりかなり長く、さらに前の焦熱期以前の天文データが残っていると思われるので、何とか認識可能なのかな。
 物語自体は、焦熱期を目前にした惑星イシュタルでの文明の生存を賭けた大戦と、外の宇宙での地球vsナクサの戦争とが同時進行していきますが、地球側のイシュタルへの基地建設に伴う資材徴発という点で両パートは絡むものの、それ以外の点ではほぼ別々の話になっていて、読んでいてややバラバラに感じました。地球人側主人公であるジル・コンウェイが艦隊司令官デイジェリンと個人的な関係を深める一方で、弟が対ナクサ戦争に参加しているため、それなりに両パートはつながっているのですが、結局は両方とも戦いの大義への疑問と虚しさをテーマにしているので、あえて二つの戦いを絡める必要はあったのかどうか。
 一方で蛮族の首長アルナナクの陣営に加わっていた謎の種族の正体にはわくわくさせられました。遥か昔にアヌが巨星進化を始める直前に、その惑星から逃げ出した種族の末裔がイシュタルに到達していたというのは、レムの「砂漠の惑星」の設定を思い出させます。こちらではほぼ完全に文明を失った彼らが、それでもその当時の航星装置を持ち続けているという部分は、それだけで長編SFが新たに書けそうな設定で、逆にこのような形で尻切れトンボに終わらせるのはもったいないと感じました。
 イシュタル人側の主人公ラレッカとアルナナクは共に魅力的であり、焦熱期が来て統括領と蛮族との決戦が必然となったこの時代でなければ、両者は協力してより良い未来を築けたでしょう。そしてそのローマ帝国vsゲルマン民族的な両勢力の戦いに、核兵器というオーバーテクノロジーを投入してしまった地球人側の決断が正しかったのかどうか、読者は悩まされることになります。
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