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タイム・パトロール/時間線の迷路 (ポール・アンダースン著:ハヤカワSF文庫)

 しばらく前に紹介したタイム・パトロールの続篇です。ただややこしい事に、実際にはこの作品の前に日本では未翻訳の話がいくつかあり、しかもそのうちの一話"The Year of the Ransom"がこの「時間線の迷路」と直接つながっています。"The Year of the Ransom"で「賞賛主義者」による陰謀を阻止したエヴァラードが、逃れた残党を追って紀元前209年のバクトリアで作戦行動を行う第一話、さらに同じく"The Year of the Ransom"でタイムパトロールにリクルートされた新人隊員のワンダ・タンバーリーが2万年前のベーリンジア(氷河時代にアジアと北米を結んでいた陸橋で現在のベーリング海峡)で起こした事件を物語る第二話、そして1137年にシチリア王ルッジェーロ2世が正史とは異なり戦死したために起こった大規模な歴史改変とその顛末を描く第三話と、そのつなぎのストーリーによって本作品は構成されています。
 「賞賛主義者」はイデオロギーによって結ばれた党派ではなく、未来のある時代に作られた優生人類であり、自らが神として支配できる世界を作るために歴史の改変を図っています。実際に彼らはギリシャの神々のように容姿端麗でカリスマを持ち、エヴァラードですら無意識のうちに女性リーダーに敬意を払ってしまうほどです。しかしながら遂に全員を捕らえた時点で女性リーダーから「自分たちが神として君臨した後で今度はお互いが最後の一人になるまで殺しあう」という望みを聞かされた彼が呆れてさすがに目が覚めたようです。さらにこの事件の解決後に、一見すると歴史の転換点になりそうだったこの時代のこの場所は実際には干渉に対して非常に安定であり、賞賛主義者がここを目指したきっかけ自体が、彼らを呼び寄せるために上層部が仕掛けた罠だったと知り、エヴァラードは唖然とする事になりました。
 第二話の主人公ワンダはベーリンジア先住民の研究をしていましたが、後から現れた「雲の人」(古インディアン)によって彼らが迫害されるのを見かねて、タイムパトロールのルールを逸脱して彼らを助けようとします。迫害の描写を見ると読者も先住民に肩入れしたくなりますが、彼女の行為は過去への明白な干渉であり、無任所隊員エヴァラードの擁護があるとはいえ、本来ならパトロールから追放されても不思議ないはずです。しかしながら、どうやらさらに上層部からの指示によって彼女もエヴァラードもお咎めなしに終わるのは、主人公補正のご都合主義にも思えますが、おそらく彼女の脅迫によって「雲の人」がベーリンジアを去って北米大陸に向かったことで、結果的に彼らの子孫がアメリカ先住民となり、我々の知っている歴史につながったという事なのでしょう。ここまでの二話とそのつなぎの部分は、パトロールの最上層に居るデイネリア人が歴史を保持しようとしてるだけではなく、自分たちの存在する歴史に世界を導くためにかなりの干渉を行っている事を示唆しています。
 第三話で起こる大規模な歴史改変は、前作とは異なりタイムトラベラーによる干渉なしにいわば「自然に」起こったものです。しかもこの改変は最初の原因となったルッジェーロ2世の戦死を阻止してもまた別の形で起こってしまい、歴史のこの時点が第一話のバクトリアとは逆に、非常に不安定な臨界点だったことを示唆しています。実は最初の改変では現実の歴史よりもローマ教皇の教権優位な世界になったのに対し、二回目の改変では逆にバルバロッサの帝権優位の世界に変わるのですが、どちらの世界でも科学の進歩は現実よりはるかに遅れ、タイムパトロールが存在しない歴史につながってしまいます。そのような歴史に自然に変わってしまうという事は、もしかするとその歴史こそが本来の時間線であり、タイムパトロールが存在する歴史は本来のものではなく、デイネリア人の干渉によって保持されているという事を示唆しているのかもしれません。
 ところで「時間線の迷宮」ではエヴァラードとワンダのロマンスが三話全体を通じる縦糸となっています。しかも彼らのロマンスの進行はデイネリア人自体が後押しをしている雰囲気がどうやらあり、もしかすると二人の間の子孫が遠い未来にデイネリア人へとつながっていて、自らの種族の存在に二人の結びつきが必要と分かっているのかもしれません。本来はタイムパトロールは個々の隊員が大きな意味を持たない巨大組織であるはずなのですが、無任所隊員エヴァラードの活躍が大きな意味を持ち始め、さらにそのパートナーのワンダもまた組織の後押しを得ているという展開は、「レンズマンシリーズ」でのキムボール・キニスンとクラリッサを連想させ、時間SFのレンズマンというこちらの記載がかなり的を射ているように感じました。
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