一万年の進化爆発 (グレゴリー・コクラン、ヘンリー・ハーペンデイング著 日経BP社)

 現在の人類学においては、人類の進化は遅くとも現生人類の祖先がアフリカを離れた後は実質的に止まっており、その結果全ての現代人の間は遺伝的に有意な差がないとされています。しかしながらこの本の主張は、その定説とは異なり歴史時代においても人類は進化を続けており、古代文明人と現代人とは文化面だけでなく遺伝子的にも異なっているというもので、その点だけでもかなり物議をかもしそうな内容です。特にアシュケナージ系ユダヤ人の知能の高さに関する最終章の主張は、ユダヤ人差別あるいはその逆の選民思想を正当化しうる相当に危険な内容なのですが、この本の論拠にかなりの説得力があるのも確かです。

 現在の進化論の主流である中立説によれば、DNAの変異はほとんど全てが中立あるいは有害であり、有害な変異は淘汰されるために、中立変異が進化の主役を担うと考えています。そしてごく稀に起こる有益な変異や中立変異の組み合わせによる有益な進化が、集団の個体数が減少した「ボトルネック」状態において偶然によって定着することによって、「生物進化」が起こるとされています。従って、交配集団の大きさが大きいほど進化は起こりにくく、現代人類のような巨大な交配集団においては進化は起こり得ないと考えられます。
 
 この本の前半では、所謂「出アフリカ」以後の先史時代において、現生人類とネアンデルタール人との混血がある程度の規模で起こり、その結果ネアンデルタール人の遺伝子が現生人類に取り込まれて進化が起こったという主張が述べられています。この点に関しては、両者の混血が起こったとしてもまれな出来事であり、従って重要な意味を持たないというのが定説なのですが、最近になって、実際に現在人の遺伝子の一部がネアンデルタール系のものであるという研究も出てきているようです。
 さらにその後の農耕文化の発達によって、集団生活に有利な遺伝子が有利となって広がっていったと推定されており、特に幾つかの伝染病に抵抗力を持つ遺伝子が旧世界人類の中に定着した一方で、石器時代にアメリカ大陸に定住した人類にはそのような遺伝子がなく、それがコロンブス以降にアメリカ原住民が旧世界由来の伝染病によって壊滅的な打撃を受けた理由であるというのも、説得力のある主張です。
 後半は歴史時代以降の遺伝子進化についての考察であり、そのうちのウシの家畜化にともなう乳糖耐性変異の定着と、インド・ヨーロッパ語族の関係は、政治的にはそれほど問題がないのでしょうが、中世に起こったという、アシュケナージ系ユダヤ人の遺伝子進化に関しての記述は、相当に「危ない」話です。差別されていた故に主に金貸し等のホワイトカラー系職業についていたため、それに成功して裕福となるために必要な知能の高さが有利となって集団内に定着した、という議論は、その帰結として実際に彼らが「異なる遺伝子を持っている」という事を意味し、この主張を公然とするのは特に欧米ではタブーに触れる事になるでしょう。
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