フリアとシナリオライター (マリオ・バルガス=リョサ著:国書刊行会)

 ペルーの大作家が1977年に書いたユーモア小説で、主人公と義理の叔母フリアとの恋愛騒動の章と天才的ドラマ作家ペドロ・カマーチョによるラジオドラマの作中話章とが交互に描かれていく小説です。フリアパートはバルガス=リョサ本人の半ば自伝であり、この小説の発表後に前夫人で義理叔母であるフリアから名誉棄損で訴えられたという落ちが付いています。10歳以上年上のしかも親戚の女性との恋愛という事で当然両親からは猛反対され、その騒動と駆け落ち結婚の顛末が興味深いのですが、フリアはかなり魅力的な女性として描かれているので、プライバシー侵害ならともかく名誉棄損は当たらないような気がします。
 一方でラジオドラマパートの章は、特に初めの数話は短編小説として非常に面白くて読んでいて引き込まれました。二話目の主人公リトゥーマ軍曹はバルガス=リョサの他のいくつかの作品にも脇役として登場する人物であるため、てっきり主人公と同じ世界の話と思ってこの辺りまでは読み進んでいて、フリアパートの方でそれまでのラジオドラマに対する視聴者の反応の良さが書かれて初めて作中話である事を理解したほどです。これらのドラマはどうやら少なくとも4つが同時並行的に放送されており、ボリビアから来た「天才」シナリオライターのペドロ・カマーチョが超人的なペースですべてのシナリオを書き続けています。しかし途中から別々のドラマの登場人物が混じり合い、さらには本来別々の人物が一人になったりして段々とドラマシナリオが混乱していきます。これはドラマやコミックなどで良くあるスターシステムとは異なり、自身で誰が誰なのか判らなくなってきたペドロ・カマーチョの混乱によるものであり、それを自覚した彼が登場人物整理のための(ドラマ上の)大虐殺を毎回行うようになって大混乱に陥り、放送局に苦情が殺到したあげくに遂には彼は精神病院送りとなってしまいます。

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ニルスのふしぎな旅 (セルマ・ラーゲルレーヴ著:偕成社文庫)

 「ニルスのふしぎな旅」(Nils Holgerssons underbara resa genom Sverige)は1906-1907にスウェーデンの女性作家セルマ・ラーゲルレーヴによって書かれた有名な児童文学であり、1909年にラーゲルレーヴが女性として初めてノーベル文学賞を受賞したのは、代表作「エルサレム」だけではなくこの作品の存在も大きかったと思われます。 「ニルスのふしぎな旅」は世界の多くの国で紹介されており、日本でも翻訳だけでなく1980年にTVアニメーションが放映され、多くの日本人は恐らく原作よりもこちらの方で物語を知っているのではないでしょうか。しかしこの作品が、スウェーデンの小学校における地理の副読本として書かれたという経緯はそれほど知られていないようです。
 実際、ニルスの旅はスウェーデン最南部スコーネ地方から始まり、南東部から首都ストックホルムを経て最北端のラップランドまで行き、そこからノルウェー国境近くの山岳地方を通って再びスコーネに戻るという、スウェーデン全土を一周する経路であり、各地方でニルスが出会った様々な風習や地方の歴史・民話の紹介が物語の主題となっています。私自身、スウェーデンには何回か旅行して、ニルスの旅した地方もいくつか訪問しているので、地理の副読本として書かれたという経緯を知って興味を持つと同時に懐かしく感じ、子供の頃以来数十年ぶりにこの作品を再びじっくりと読んでみました。
 実際に書かれたのは今からちょうど一世紀ほど前なので、言ってみれば一世紀前のスウェーデン各地の自然や人々の生活を現在と比較しながら読むような感じになります。一世紀経っても変わらないものや、大きくかわってしまったもの、さらには例えばヴェクショーの移民博物館展示のように、作中ではほぼ同時代として描かれている事が現在では歴史として博物館の展示になっているものなど、さまざまな物事があり、非常に興味深く感じました。

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ぼくがきみを殺すまで (あさのあつこ 著:朝日新聞夕刊連載)

 掲載を終えたばかりの新聞連載小説です。朝刊に比べて夕刊の連載小説は短いものが多いのですが、この小説は全部で95回という夕刊連載としても異例の短さでした。嘗て共存していた二つの民族が互いに憎しみを募らせて戦争となり、戦場で捕虜となった少年兵の一人が処刑前夜に過去を回想する、という形のこの小説は、一見すると中東の状況を題材としているようで、実は日本の近未来の最悪形を描いていると考えられます。それは特に、主人公の兄が教師をしていた両民族共存の学校が閉鎖される経緯が、「政治的中立性」の名の下に、政府の方針に反する言動を教育現場から排除する現在の流れと重なって見えるからです。恐らく、最近の日本とその周辺国との状況にかなりの危機感を持って、著者はこの小説を書いたのでしょうし、私もそのように感じて重苦しい気持ちで読み進めていました。
 最終回直前になっても一体どの様にして結末を迎えるのかが私には予想できず、かなりやきもきして毎日読んでいました。ある意味で未完の様な形でぶっつりと終わった訳ですが、確かに他に終わり様がないとも思えます。題名が内容と合っていないとも感じられましたが、私自身は以下の様に題名を解釈しました。

 その意思を貫くのは困難だったとは言え、現実に流されて少年兵となり戦場に立った主人公は敵の少年兵たちを殺し、さらには味方の少年兵たちも死地に追いやった。主人公だけでなく他の兵士、さらには一般市民も同様であり、嘗ては友人同士だった一方の民族(ぼく)がもう一方の民族(きみ)を敵と見なして殺す事になるのは、ある一線を越えてしまえば本当に簡単であった。

 もちろん、読者の数だけの解釈が可能でしょうが、いかがでしょうか?

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エペペ (カリンティ・フェレンツ著:恒文社)

 広い意味でのSFとも考えられる小説ですが、一般小説のカテゴリにしました。こちらの記事を見かけて興味をもち図書館で借りてきたのですが、ディストピア小説というよりかなりぶっ飛んだ設定の不条理小説というべき作品です。読みやすいとはお世辞にも言えないのですが、個人的には街中で英語が通じないロシア・東欧圏を旅行したときの自分の体験が重なり、結構面白く感じました。もちろん現実世界では、どんな秘境の国に行ってもこの小説の描写レベルにコミュニケーションが取れない状況はあり得ないのですが、それでも特にホテルでパスポートを取り上げられた下りでは、初めて東欧に行ったときに同様の目に遭って一晩不安な夜を過ごした経験を思い出しました。また街中の異様な混雑ぶりも、発展途上国の空港を一歩出たときの第一印象を彷彿とさせ、あり得ないのに妙な現実味を覚えます。
 読んでいて結構可笑しかったのは、エレベーターガールの名前(というより主人公の聴きなし)が一つの節のなかでも次々と変化している点です。発音がはっきりせずにおよそ聴き取りが困難な事を表わしているのでしょうが、本当に同一人物と思えないほどに次々と変化していきます。

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スウェーデンの騎士 (レオ・ペルッツ著:国書刊行会)

 私にとって四冊目となるレオ・ペルッツの小説ですが、これまでで最もおとぎ話めいた作品でした。舞台は18世紀初頭のシレジア地方で、スウェーデンのカール12世とロシアのピョートル1世とがバルト海の覇権を掛けて争った北方戦争が背景となっています。関係者の手記の内容が物語の語り出しになっているのは「ボリバル侯爵」と共通していますが、こちらの方では幼い娘から見た半ば幻想のような回想の真相を解き明かすという形で物語が展開していきます。

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