恋人たち (フィリップ・ホセ・ファーマー著:ハヤカワ文庫SF)

 「階層宇宙」や「リヴァーワールド」シリーズなど奇想天外な世界での冒険SFで有名な作家フィリップ・ホセ・ファーマー(1918--2009)の、1953年に発表された事実上のデヴュー作です。piaaさんのレヴューで興味を持ち、図書館で借りて読んでみました。それまでの米SFのタブーを打ち破った「セックスをテーマにしたSF作品」と紹介される事が多いようですが、少なくとも現在の感覚から言うと特にエロチックな描写はなく、ただ異星人の人類とは全く異なる性のあり方とその進化を描いている作品です。日本語で「セックス」というと「性」よりも「性行為」の方を指すのが普通なので、「性をテーマとした」という方が適切と思われます。巻末の訳者(伊藤典夫氏)による解説にある「1940年前後に氾濫したバルブ雑誌の多くは、きまりきって裸女と怪物の表紙で読者を釣っていたが、その中身は生殖器などありそうもない男女が右往左往するだけ」という表現には笑ってしまいましたが、指摘されてみると確かにその通りです。「火星のプリンセス」でのデジャー・ソリスに迫る邪悪な緑色人を始めとする半裸の美女を襲う宇宙怪物たちの目的が一体何なのか、全く異なる種族の間に性交渉が存在し得るのか疑問ですが、性のタブーのためこの時代のSF作中には何も書かれていません。確かアーサー・C・クラークの皮肉にあったように、「ベム虐待防止協会が、ベムたちがやろうとしている事をヒーローが妨害するのをやめさせてほしい」というのもごもっともです。

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ベータ2のバラッド (サミュエル・R・ディレイニー他 著:国書刊行会)

 以前に紹介したヴィーナス・プラスXと同じ「未来の文学」シリーズの一冊で、1960-70年代に書かれたいわゆるニューウェーブSFを中心とする6編からなるアンソロジーです。私自身はニューウェーブSFは肌が合わず敬遠ぎみのジャンルで、実際この収録作の中にもまったく理解できないものもありました。以下収録作それぞれの紹介と感想です。

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ヴィーナス・プラスX (シオドア・スタージョン著:国書刊行会)

 国書刊行会の「未来の文学」はやや変わったテイストのSF作品からなる叢書シリーズで、今回紹介するのはその中の一冊です。著者のスタージョン(1918--1985)は、「SFの90%はクズである。ただし、あらゆるものの90%はクズである」という言葉が有名な米SF黄金期の作家であり、おそらく「人間以上」が最も有名な作品でしょう。この記事を書くために調べてみて、彼はまたStar Trek(TOS)のエピソード"Shore Leave"(おかしなおかしな遊園惑星)と"Amok Time"(バルカン星人の秘密)の脚本も書いた事を知りました。後者は「ヴィーナス・プラスX」の主題と重なる人類とは異なる性的規範を主題とする作品であり、なるほどと思いました。
 ホモ・サピエンスが滅んで両性具有の新人類「レダム人」の住む未来世界に突然連れてこられた主人公がその世界を紹介されるパートと、作品の書かれた現在(1950年代)アメリカにおける子供二人の「普通の」家庭の日常のパートとが交互に描かれており、両方のパートは表面的には最後まで全く交わらないのですが、前者のパートでレダム人から指摘される現代人が当たり前と思っている性差や性規範の人為性が、後者のパートではそれらが実際に揺らいでいる事が描かれています。あとがきにもあるように、性についての議論を積極的に取り上げた所謂「ジェンダーSF」の一つですが、個人的には同じくジェンダー系作家のル・グインの作品に比べると堅苦しくなく気楽に読めた気がします。

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ヘルハウンド・プロジェクト (ロン・グーラート著)

 所謂「米文学」には含まれないパルプフィクションやアメコミなどのサブカルチャー系では、昔から「もしアメリカが独裁国家となったら」というテーマの作品が書かれていました。以前に紹介したジャスティスリーグの「より良き世界」やそこから始まるカドムスアークものなどはその一例です。これまではそれらはあくまでも「うっかり間違うとこうなってしまうよ」という警告に過ぎなかったのですが、ここ数週間のアメリカやさらには日本の状況を見るにつけ、「マンガが現実と化す」事が本当に起こりつつあると感じています。今回取り上げる「ヘルハウンド・プロジェクト」もまさにそういった作品の一つです。
 この作品は新潮文庫の「クリスマス13の戦慄」という短篇集に収録された中編SFで、他の収録作と比べて特に印象に残っています。この短編集には作者紹介がないため名前の正しい綴りすらわからず、以前に行った日本語表記での検索でも何も分からなかったのですが、この記事を書くために再度検索して見つけた記載を基にして英語綴りで再度検索した結果、英語版のWikipediaの記事を発見しました。Ron Goulart
この記事によると別名で書いていたアメコミ作家としての方が有名なようで、なるほどだからこそのこのテイストなのでしょう。この主人公とヒロインによる続編シリーズがあっても不思議ない気がしますが、残念ながら彼の小説作品はほぼ翻訳されていないようです。

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狂った致死率 (トマス・L・ダン著:ハヤカワ文庫NV)

 かなり以前に読んだ本で、数年前の時点では「感染症の世界的大流行(パンデミック)によるパニック」というテーマが(その当時の)今日的だったのですが、米トランプ政権が発足して二週間という現時点ではむしろ、「妄想に取りつかれた超大国の大統領による核戦争の危機」という方がより今日的です。この作品はどう見てもSFに分類されるべき内容なのに、どういう訳かハヤカワ文庫ではSFではなく一般小説(NV)に分類されています。正直なところ、SFの定義自体がきわめて曖昧であるという点を考慮しても、ハヤカワ文庫のSF, FT, NV等の分類基準には首をかしげる点が多いです。
 本来伝染病ではないはずの癌の発生率が西側世界で異常に上昇し、統計操作までしてその事実を隠そうとする米厚生当局vs民間科学者との攻防という序盤の展開が、すでにトランプ政権の「もう一つの事実」を思わせますが、西側諸国での癌の大流行が明らかになってからが本物の政治的危機となります。元々はテレビの売れっ子だったタレント教授であり、その任に堪える能力がなかったのにメディアによってその地位に押し上げられた米国大統領は、この未曾有の危機に愛娘の癌発病という個人的試練も重なり、段々と妄想に囚われていきます。その結果、米国での癌の大流行がソ連による生物兵器攻撃によると断定して核による報復への道を突き進んでいくという展開は、もしかするとトランプ政権下の米国の近未来を描いているようにも思えてきて、所詮SF小説で現実とは違うとばかりは言っていられなくなります。少なくとも、就任後わずか二週間程度で国内外をここまで大混乱に陥れたトランプ大統領が、あと四年間その職を続けてまったく想定できないような事態に直面したとき何が起こりうるのか、という問への一つの答えがこの小説に描かれているように思えてなりません。

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